色分解能 (3)
分光器でλの波長の光とλ+Δλの波長の光を識別できたときその分光器の能力=色分解能はλ/Δλで表されるということを書きました。
ゼーマン効果は630.25nmの波長の吸収線に対して4,000Gaussの磁場で0.02nmくらいの分岐を引き起こすようですが、これを観測するためには630.25/0.02≒30,000くらいの色分解能が必要ということになります。
一方プリズムの色分解能はプリズムの一辺の長さに比例します。そして30,000の色分解能を実現するためには(プリズムの材質にもよりますが)一辺が800mmつまり8m80cmくらいのものが必要になるようです。
こんなものをアマチュアが入手するということはできない相談でしょうし仮に入手できたとしても8m80cmもある辺を有効に使うということはほとんど不可能でしょう。さらにその前にそんなものどこに置く?というのがあります (^^;;
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でもこんなもの(あるいはもっと色分解能が高いスゴイもの)が天文台だったら置いてあるというのもにわかには信じられない話です。
お気づきの方も多いと思いますがこういう高い色分解能を必要とする分光器にはプリズムは使われていません。回折格子が使われているのです。
回折格子の色分解能は非常に高いです。最高級の回折格子はなんと1,000,000を超える色分解能をもっているそうです。
つまり630.2500[nm]の波長の光と630.2506[nm]の波長の光が重なっていてもその両者を識別できるわけです。
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太陽の自転速度は黒点の動きでわかるのですがもっと直接的に太陽の自転速度を知る方法があります。太陽の東側は地球に向かって動いています。一方西側は地球から遠ざかるように動いています。したがってドップラー効果の違いが生じるはずです。もちろん太陽の自転速度は光速にくらべたら微々たるものですからドップラーシフトはごくわずかのものです。それでも高性能の回折格子はこのわずかなドップラーシフトさえ識別することができます。
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プリズムの色解像度は
プリズムの一辺の長さ * dn/dλ (「dn/dλ」は屈折率を波長で微分したもの)
であることを書きましたが、一方回折格子の色解像度の限界は
m * N
で表されるそうです。
mは回折の次数、そしてNは格子数です。一次の回折を使うとしても1mmあたり600本の格子があり回折格子のサイズが50mmあれば格子はトータル30,000あるわけですからその回折格子の色解像度も30,000になります。
この30,000という色解像度は上に書いたように黒点でのゼーマン効果を識別するために最低必要と思われる色解像度です。
そして1mmあたり600本の格子というのは標準的な回折格子の格子密度ですしサイズが50mmの回折格子はそれほど高価なものではありません。100mmの対物レンズなんかよりはるかに入手しやすいお値段です。
さらに二次の回折を使えば色解像度は二倍の60,000になります。
ということは(回折格子の能力だけ考えれば)アマチュアにもゼーマン効果を観測することがぜったい不可能なことではないように思えます。
以前Hαフィルタを使わずにHα波長の写真を撮る方法というのを記事にしました。そのときはこんなことができたらいいな程度だったのですがこのクラスの回折格子を使うとすればこれも現実味を帯びてきます。
(続く)
補足
太陽の自転によるドップラー効果がどれほどのものか計算してみました。

単にドップラー効果の有無を知りたいということであれば±0.004nm、つまり0.008nmを識別できればいいわけです。
630.24/0.008≒80,000の色解像度が必要ということになります。記事に書いたように最高レベルの回折格子はこれを一桁上回る色解像度があります。
記事の内容を検証したい方もいらっしゃると思うので計算式です。

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関連
「色分解能 (3)」 (「色分解能 (1)」、「色分解能 (2)」、「色分解能 (2)」)
「色分解能 - 1 - ドップラー効果とかゼーマン効果とか....」
「色分解能 - 2 - ドップラー効果とかゼーマン効果とか....」
「ゼーマン効果で太陽の磁場を測る?」
「ドップラー効果で太陽の自転速度を測る話し」
「Hαフィルターを使わずにHα写真を撮る方法」
「DVDで作る簡易分光計 - 蛍光灯の分光スペクトル」
「DVDで作る簡易分光器 - 水銀灯の分光スペクトル」
「DVD簡易分光器で見るフラウンホーファー線(太陽光のスペクトル)」
「DVDで作る簡易分光器の校正のために - ネオン管のスペクトル」
「測定対象別記事一覧(測定、電子工作、天文計算)」
「過去記事の一覧(測定、電子工作、天文計算)」
参考
「国立科学博物館 - 理工学研究部 - 若林文高 - DVD分光器の回折条件」
「Welcome to my homepage. - DVD分光器」
「星は空の彼方、月よりも遠く
- 光害除去フィルター(4)-脱線(簡易分光器の直線性)(2016/03/18)」
「Web Page of T.Nomoto - スペクトル色々」 (「ネオンランプと水銀ランプ」)
国立天文台編 「理科年表」 丸善出版、2014
ゼーマン効果は630.25nmの波長の吸収線に対して4,000Gaussの磁場で0.02nmくらいの分岐を引き起こすようですが、これを観測するためには630.25/0.02≒30,000くらいの色分解能が必要ということになります。
一方プリズムの色分解能はプリズムの一辺の長さに比例します。そして30,000の色分解能を実現するためには(プリズムの材質にもよりますが)一辺が800mmつまり
こんなものをアマチュアが入手するということはできない相談でしょうし仮に入手できたとしても
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でもこんなもの(あるいはもっと色分解能が高いスゴイもの)が天文台だったら置いてあるというのもにわかには信じられない話です。
お気づきの方も多いと思いますがこういう高い色分解能を必要とする分光器にはプリズムは使われていません。回折格子が使われているのです。
回折格子の色分解能は非常に高いです。最高級の回折格子はなんと1,000,000を超える色分解能をもっているそうです。
つまり630.2500[nm]の波長の光と630.2506[nm]の波長の光が重なっていてもその両者を識別できるわけです。
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太陽の自転速度は黒点の動きでわかるのですがもっと直接的に太陽の自転速度を知る方法があります。太陽の東側は地球に向かって動いています。一方西側は地球から遠ざかるように動いています。したがってドップラー効果の違いが生じるはずです。もちろん太陽の自転速度は光速にくらべたら微々たるものですからドップラーシフトはごくわずかのものです。それでも高性能の回折格子はこのわずかなドップラーシフトさえ識別することができます。
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プリズムの色解像度は
プリズムの一辺の長さ * dn/dλ (「dn/dλ」は屈折率を波長で微分したもの)
であることを書きましたが、一方回折格子の色解像度の限界は
m * N
で表されるそうです。
mは回折の次数、そしてNは格子数です。一次の回折を使うとしても1mmあたり600本の格子があり回折格子のサイズが50mmあれば格子はトータル30,000あるわけですからその回折格子の色解像度も30,000になります。
この30,000という色解像度は上に書いたように黒点でのゼーマン効果を識別するために最低必要と思われる色解像度です。
そして1mmあたり600本の格子というのは標準的な回折格子の格子密度ですしサイズが50mmの回折格子はそれほど高価なものではありません。100mmの対物レンズなんかよりはるかに入手しやすいお値段です。
さらに二次の回折を使えば色解像度は二倍の60,000になります。
ということは(回折格子の能力だけ考えれば)アマチュアにもゼーマン効果を観測することがぜったい不可能なことではないように思えます。
以前Hαフィルタを使わずにHα波長の写真を撮る方法というのを記事にしました。そのときはこんなことができたらいいな程度だったのですがこのクラスの回折格子を使うとすればこれも現実味を帯びてきます。
(続く)
補足
太陽の自転によるドップラー効果がどれほどのものか計算してみました。

単にドップラー効果の有無を知りたいということであれば±0.004nm、つまり0.008nmを識別できればいいわけです。
630.24/0.008≒80,000の色解像度が必要ということになります。記事に書いたように最高レベルの回折格子はこれを一桁上回る色解像度があります。
記事の内容を検証したい方もいらっしゃると思うので計算式です。

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「ドップラー効果で太陽の自転速度を測る話し」
「Hαフィルターを使わずにHα写真を撮る方法」
「DVDで作る簡易分光計 - 蛍光灯の分光スペクトル」
「DVDで作る簡易分光器 - 水銀灯の分光スペクトル」
「DVD簡易分光器で見るフラウンホーファー線(太陽光のスペクトル)」
「DVDで作る簡易分光器の校正のために - ネオン管のスペクトル」
「測定対象別記事一覧(測定、電子工作、天文計算)」
「過去記事の一覧(測定、電子工作、天文計算)」
参考
「国立科学博物館 - 理工学研究部 - 若林文高 - DVD分光器の回折条件」
「Welcome to my homepage. - DVD分光器」
「星は空の彼方、月よりも遠く
- 光害除去フィルター(4)-脱線(簡易分光器の直線性)(2016/03/18)」
「Web Page of T.Nomoto - スペクトル色々」 (「ネオンランプと水銀ランプ」)
国立天文台編 「理科年表」 丸善出版、2014
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