章動を計算する(1)
まず「章動とは何か」からはじめなきゃいけないんでしょうがそういうのはWikipediaをはじめたくさんあるようなので省略します。そういうのを書く自信がないというのもありますが....
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視恒星時は恒星の見える位置(方位角・高度)を計算するときはちゃんとした値を使わなければならないわけですが、じつは掩蔽計算だったら平均恒星時でも十分間に合います。
まず掩蔽計算は月と恒星の相対的な位置を問題にしているので方位角や高度が違っていても月と恒星が同じように違っているのなら影響はないからです。それから掩蔽計算では観測地の赤道直交座標を求めるのに視恒星時を使っているのですが、月の地心距離に比べたら観測地の地心距離は比較的小さいので視恒星時を使っても平均恒星時を使ってもあんまり関係ないです。
なのでその前提となる章動の計算もあんまり力を入れる必要はないのですが、こういうのんきなことを言っていられるのは恒星の赤経・赤緯は国立天文台・暦象年表から月の視位置は海洋情報部の計算式を使っているからです。
星表位置から恒星の視位置を求めようとか小惑星や彗星の視位置をNASA JPL HorizonsやMPC(小惑星センター)の軌道要素から求めようというような話になると(掩蔽計算が求める計算精度という点から)一般歳差(日月歳差+惑星歳差)くらいでは不十分で章動の計算は切実な問題になります。
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先日の記事
「グリニッジ視恒星時を求める」
ではかなりいい加減な章動の計算をしてしまったので今回は少しだけちゃんとやってみました。
「章動.xls」
章動の計算は章動そのものを計算する部分とそれを(座標系の回転などに)応用する部分がありますが今回は前者の方だけです。日にちと日本標準時を入力すればその時点の章動の値(Δψ、Δε)を計算できます。
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計算の方法は
福島登志夫編「天体の位置と運動」
にあるIAU 1980の章動理論による計算式というのを使っています。また計算に必要な係数でこの書籍になかったものは
長沢工「日食計算の基礎」
にあるものを使いました。
なお
長沢工「天体の位置計算」
にはE.W.Woolardの理論による計算式があげられています。計算のやり方は同じなんですが係数が微妙に違います。じっさい計算してどの程度の違いがあるかは調べていません。
「天体の位置と運動」によれば最新の章動理論はIAU 2000A(とそれを簡略化したIAU 2000B)だそうですが、これは計算式はあるものの係数がわからないので試していません。ただこれは係数が月・太陽項が678個、惑星項が687個と多いので係数が見つかってもじっさいに計算はしないと思いますが....
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上記の記事では章動はいちばん影響の大きそうな一つの項だけで計算しました。結果として暦象年表の値と一桁だけあってました。というか一桁しかあっていませんでした。
主要7項で計算してみたら二桁くらいあうようになりました。さらに影響の大きそうな主要な23項で計算したらだいたい三桁あうようになりました。つまり暦象年表にある値と合うようになりました。
これ以上やっても正しいかどうか検証のしようがないのでアップしたExcelファイルはこの主要な23項によるものです。
ただ何ケースも試したわけではないですし係数の数はぼちぼち増やして行きたいと思います。残り83項あります。
なお、月・平均近点角、太陽・平均近点角、月・平均緯度引数、月・太陽・平均離角、月・平均昇交点経度の五つはドローネ角というそうです。
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実際に計算してみた結果です。
章動を表す二つの数値Δψ(黄道に平行な方向に働く黄経における章動)とΔε(黄道に垂直な方向に働く黄道傾斜における章動)はぴったりあっています。これだけは何の意味もないので試しに真黄道傾斜角を計算してみました。7桁弱の精度であっています。じつはこれは平均黄道傾斜角(これも「天体の位置と運動」にある係数を使っています)自体が違っているためで真黄道傾斜角と平均黄道傾斜角の関係という意味ではぜんぜん問題ありません。
係数の有効桁数から見ると平均黄道傾斜角はもう少し精度が出そうな感じなので何か前提が違っているのかもしれません。

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関連記事
「日月歳差の影響を計算する」 編集
「赤道座標に一般歳差を反映する」 編集
「一般歳差の具体的な計算方法」 編集
「章動の計算(1)」 編集
「グリニッジ平均恒星時を求める」 編集
「グリニッジ視恒星時を求める」 編集
「太陽と月の位置の計算(海洋情報部方式)」 編集
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まず掩蔽計算は月と恒星の相対的な位置を問題にしているので方位角や高度が違っていても月と恒星が同じように違っているのなら影響はないからです。それから掩蔽計算では観測地の赤道直交座標を求めるのに視恒星時を使っているのですが、月の地心距離に比べたら観測地の地心距離は比較的小さいので視恒星時を使っても平均恒星時を使ってもあんまり関係ないです。
なのでその前提となる章動の計算もあんまり力を入れる必要はないのですが、こういうのんきなことを言っていられるのは恒星の赤経・赤緯は国立天文台・暦象年表から月の視位置は海洋情報部の計算式を使っているからです。
星表位置から恒星の視位置を求めようとか小惑星や彗星の視位置をNASA JPL HorizonsやMPC(小惑星センター)の軌道要素から求めようというような話になると(掩蔽計算が求める計算精度という点から)一般歳差(日月歳差+惑星歳差)くらいでは不十分で章動の計算は切実な問題になります。
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ではかなりいい加減な章動の計算をしてしまったので今回は少しだけちゃんとやってみました。
「章動.xls」
章動の計算は章動そのものを計算する部分とそれを(座標系の回転などに)応用する部分がありますが今回は前者の方だけです。日にちと日本標準時を入力すればその時点の章動の値(Δψ、Δε)を計算できます。
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計算の方法は
福島登志夫編「天体の位置と運動」
にあるIAU 1980の章動理論による計算式というのを使っています。また計算に必要な係数でこの書籍になかったものは
長沢工「日食計算の基礎」
にあるものを使いました。
なお
長沢工「天体の位置計算」
にはE.W.Woolardの理論による計算式があげられています。計算のやり方は同じなんですが係数が微妙に違います。じっさい計算してどの程度の違いがあるかは調べていません。
「天体の位置と運動」によれば最新の章動理論はIAU 2000A(とそれを簡略化したIAU 2000B)だそうですが、これは計算式はあるものの係数がわからないので試していません。ただこれは係数が月・太陽項が678個、惑星項が687個と多いので係数が見つかってもじっさいに計算はしないと思いますが....
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上記の記事では章動はいちばん影響の大きそうな一つの項だけで計算しました。結果として暦象年表の値と一桁だけあってました。というか一桁しかあっていませんでした。
主要7項で計算してみたら二桁くらいあうようになりました。さらに影響の大きそうな主要な23項で計算したらだいたい三桁あうようになりました。つまり暦象年表にある値と合うようになりました。
これ以上やっても正しいかどうか検証のしようがないのでアップしたExcelファイルはこの主要な23項によるものです。
ただ何ケースも試したわけではないですし係数の数はぼちぼち増やして行きたいと思います。残り83項あります。
なお、月・平均近点角、太陽・平均近点角、月・平均緯度引数、月・太陽・平均離角、月・平均昇交点経度の五つはドローネ角というそうです。
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実際に計算してみた結果です。
章動を表す二つの数値Δψ(黄道に平行な方向に働く黄経における章動)とΔε(黄道に垂直な方向に働く黄道傾斜における章動)はぴったりあっています。これだけは何の意味もないので試しに真黄道傾斜角を計算してみました。7桁弱の精度であっています。じつはこれは平均黄道傾斜角(これも「天体の位置と運動」にある係数を使っています)自体が違っているためで真黄道傾斜角と平均黄道傾斜角の関係という意味ではぜんぜん問題ありません。
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