ICRS(J2000.0)から視位置への変換(太陽編)
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本記事への補足
光行差の算出方法を改善しICRS/ICRFへの変換を追加したものを新たに記事にしました。
「続々・ICRS/ICRFから視位置への変換(太陽編)」
(2014.05.18 14:00)
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タイトルは正確には
「NASA JPL's HORINZONS systemの太陽の"J2000.0"の座標を"a-appaent"の座標に変換する」
です。
今回はこれを度の小数表示で小数点以下5桁の精度で考えています。これは相当な精度です。0.00001度は時分秒(あるいは赤経)で言えば0.002秒、度分秒で言えば0.04秒になります。少なくともアマチュアの計算でここまでの精度が必要なものはないように思います。
(食の予測でも0.0001度の精度があれば実用的には問題なさそうです)
J2000.0の座標を視位置の座標つまり瞬時の真春分点と真赤道にもとづく座標系に変換するわけですから歳差・章動を適用すればいいはず、ということで実際に計算してみました。
「ダウンロード Excel_Sun11.xls (364.5K)」
歳差・章動の計算はExcelのシートにありますが、福島登志夫編「天体の位置と運動」などを参考にした方法です。と言って別の本に別の方法が書いてあるわけでもありませんがわざわざこれを書いたのは長沢工「天体の位置計算」ではアプローチの仕方が違うため歳差の計算式はこれとは一見異なる計算式のように見えるからです。もちろん結果は一致します。
章動は係数を多少はしょってありますがこの程度の計算であればほとんど誤差なく計算することができます。
赤経が0.006度くらい大きくなっています。まあたいした差じゃないとも言えますが掩蔽予測の計算だととても使えないくらい誤差が大きいです。
最初は“光差”(つまり太陽の光が地球に届くまでに時間がかかるので8分くらい前の位置を見ていることになることです)かと思いました。でもこれは違うようです。
NASA JPL's HORIZONS systemの計算結果のところにある二つの値の違いをチェックしました。
J2000.0
astrometric right ascension and declination of target center. Adjusted for light-time.
a-appar
Airless apparent right ascension and declination of the target center with respect to the Earth's true-equator and the meridian containing the Earth's true equinox-of-date. Adjusted for light-time, the gravitational deflection of light, stellar aberration, precession and nutation.
まずどちらも「Adjusted for light-time.」とありますので光差は織り込み済みの値です。
「precession and nutation.」すなわち歳差・章動はちゃんと計算しています。
となると残っているのは
the gravitational deflection of light,
stellar aberration,
の二つです。
前者については太陽の重力が問題なんでしょうが太陽から来る光を見ているわけですからいくら重力が強くても光の経路が変わるわけがありません。それにそもそも重力の影響がこれくらいの精度の計算に影響を与えることはないでしょう。
となると後者すなわち光行差が原因ということになります。
あれ、太陽の場合も光行差を考慮しなければいけないんだ、といまさらなことを思いながら考えてみます。
年周光行差とすれば計算をするとき結果に影響を与えるのは地球と天体の(地球の公転に起因する)相対的な速度です。とすれば太陽であってもふつうの恒星の年周光行差の計算方法をそのまま適用できるはずです。これも実際に計算してみます。
かなり誤差が小さくなりました。食の計算にも使えそうな精度になっていますがちょっと気になります。
一年分だけで判断するのは危険ですが赤経を見ると誤差が一年のあいだに大きくなったり小さくなったりしています。
Excelのシートをご覧になるとわかるように年周光行差は長沢工「天体の位置計算」にある本格的な計算方法と簡易な計算方法のうち簡易な計算方法を使っていますのでこれが原因ではないでしょうか。簡易な計算方法は地球の軌道が円であると仮定しています。実際には楕円なので(地球が太陽から見た視線とほぼ直行して移動していることを考慮すると)地球が太陽に近づくと速度が増し光行差は大きくなり地球が遠のくと速度が減じ光行差は小さくなります。地球が太陽に近づくのが1月遠のくのが7月であることを考えると誤差は上の図にあるような傾向を示すはずです。(と勢いで書いてしまいましたが、ここのところはもう少し検討してみます)
ということで“簡易ではない”年周光行差の計算をやってみたいのですがまだ準備が整っていません (^^;;
また相手が太陽であれば“天体と地球の相対的な速度”は地球の公転速度そのものと考えて差し支えないはずなので一般の年周光行差より話は簡単なはずです。専用の計算式を作ってもいいかもしれません。
なおついでに国立天文台・暦計算室・暦象年表・太陽の地心座標で参照した値と海上保安庁・海洋情報部の計算式で計算した値も示します。
NASAと国立天文台はどちらも同じ方式での計算だったと思うのですがほんのすこし結果が違うのはどうしてでしょう。よくわかりません。
また海洋情報部の計算式は近似式なのですがけっこう健闘しています。だから掩蔽(星食)予測に使っているわけですが....
「続・J2000.0から視位置への変換(太陽編)」に続く
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