星食観測でのGPS・1PPS信号の利用法 (1)
この記事の要旨
星食の時刻を正確に知る方法としてGPS受信モジュールの1PPS信号による発光を星食の前あるいは後に記録する方法があります。
1PPS信号による発光の記録は発光開始あるいは発光終了の瞬間が写っている必要があります。
1PPS信号によるLED発光を34秒間録画すれば必ず1PPS信号の発光開始、終了の瞬間を記録することができます。
カメラの特性によってはこの時間は短縮できます。
PENTAX Q7の場合は1PPS信号を10秒間録画すればその中には発光の開始と終了の瞬間を記録したフレームがあります。SONY NEX-5Nも同様と予想されます(1PPS信号の発光時間が0.1秒の場合)
一方PENTAX Qでは発光の開始・終了の瞬間を記録するためには少なくとも20秒程度の録画が必要です( 〃 )
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星食(掩蔽)の観測や予測についてはいろいろ書いて来ました。
「「掩蔽(星食)の予測と観測」記事目次とリンク集」
に記事の一覧があります。
今回の記事は
「動画の撮影時刻を知る (1)」
「動画の撮影時刻を知る (2)」
に書いたことをもう少し詳しく説明し、さらに実戦的な話__星食観測のとき1PPS信号は何秒撮影すればいいのか、とか、動画から得られた情報からカメラの特性を調べ潜入/出現の時刻をすぐに計算できるようなExcelのシートを作る__を加えてあります。
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星食の時刻を特定するには観測した動画の中に1PPS信号を記録します。
1PPS信号は発光の開始(もし発光のパルス幅が正確であれば発光の終了も可)の瞬間が写っている必要があります。
少なくともこれまで見てきたカメラでは上に書いたようなタイミングで録画が行われています。
まず画像の上端の撮影が始まる撮影の位置は次第に下に移動して行きます。一方所定の露光時間に達したら撮影は終了します。つまり撮影の終了の位置も上から下へ移動して行きます。
最上辺の露光の終了から最下辺の露光の終了の間に発光が始まるとこのフレームは部分的に1PPSの発光が映りこみます。そうすると画像のどの位置から露光が始まって調べることによって露光の開始から1PPS発光の瞬間までの時間を測ることができます。
同様に最上辺の露光の開始から最下辺の露光の開始までの間に1PPSの発光が終了するとこのフレームは部分的に1PPSの発光が映りこみこれをもとに露光の開始から1PPS発光終了の瞬間までの時間を測ることができます。
一回の1PPSの発光の開始・終了が映り込むことがあるかどうかですか、今使っているGPS受信モジュール(GM-316、GE-612T)のように発光の時間が0.100秒の場合はありえます。
具体的にはこんなケースです。
仮にセンサーの走査の方向が逆だった場合はこの図のNo.1のフレームは上部に発光が写りNo.5のフレームは下部に発光が写ります。そのときは上下を逆にして考えれば同じです。
フレームの間隔は0.033367秒です。30フレーム撮影すると1.001001秒経過します。つまり1秒経って次の発光のときは露光の時刻に対して発光の時刻は0.001秒相対的に前にずれます。発光のパルス幅が0.1秒のときは何秒か経過するとまず発光の終了の瞬間が画像に写らなくなります。
さらに時間が経過すると発光の開始も写らなくなり全面が明るくなったフレームが四つ続くようになります。
もっと時間が経つと今度は発光の終了が確認できるようになります。
次は発光の開始も確認できる状態つまり最初の図に戻ります。
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星食の正確な時刻を知るためには1PPSの発光の開始あるいは終了の瞬間が写っていないとなると1PPS信号を何秒間撮影すればいいのでしょうか。
上に書いたようにフレームの撮影時刻と1PPS発光の時間関係は0.001秒づつずれて行きます。フレーム間時間は0.033367秒ですので33秒か34秒経つとだいたい最初と同じ時間関係に戻ります。
つまり34秒程度録画すればその中には発光の開始あるいは終了の瞬間が写ったフレームが必ずあるはずです。
PENTAX Q7の場合をシミュレーションしてみました。
OKとあるのは発光の開始あるいは終了の瞬間が写ることをNGとあるのは写らないことを意味しています。
これを見るとPENTAX Q7の場合“発光開始/終了の瞬間は写っていてあたりまえ”と言えそうです。最悪の場合を考えても10秒も写しておけばよさそうです。
ところがPENTAX Qの場合はちょっと違ってきます。
逆に発光の開始・終了の瞬間が写っているときの方が少ないです。最悪のときを考えると少なくとも20秒は1PPSの発光を記録しておく必要があることがわかります。もし一回の発光で開始・終了の両方の瞬間を撮りたければ25秒は必要です。
ところでPENTAX Q7とPENTAX Qの違いは何に起因するのか?
それはセンサーの走査時間の違いです。PENTAX Qはセンサーの走査がPENTAX Q7に比べてずっと速いのです。走査が速いと開始・終了の検出が難しくなることは最初の図を眺めると理解していただけると思います。走査が速いということは平行四辺形の斜めの辺の傾斜が急であることを意味しています。
なお先日サダルテミスさんから動画を提供していただいて調べたところNEX-5Nのセンサー走査時間を調べたところ0.030秒でした。以上から考えるとNEX-5Nも10秒程度1PPSを録画すればその中には発光の開始/終了の瞬間をとらえたものがあると考えてよさそうです。
注
PENTAX Q7の露出時間、走査時間は実測値です。
PENTAX Qの露出時間はPENTAX Q7の値を流用し走査時間は概算値を使っていますが実際に撮影した動画と比較するとだいたい合っているのでそんなにヘンな値ではないと思います。
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「**重要** 星食観測用1PPS発光器取扱説明書 - 5」
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コメント
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1PPSを撮影した開始と終了、確認できました♪
1発勝負でもよほど運が悪くなければどちらかは写っていそうなですね^^
直焦点撮影にすると、映像が180度回転する設定にしてあるので、下から走査しているように写ってました。
光の強さもあると思いますけど、星食の間際では光らせない方がやっぱりのでしょうか?
LEDの光に埋もれている間に潜入や出現が起きて見えないとかありそうな気がしました(^^;
投稿: sadaltemis | 2014年7月 4日 (金) 01時01分
はい、星食の前に発光させ星食の時刻が近づいたらおとなしく(?)していて潜入/出現を確認したらまた発光させるという方法がいいと思います。
今回はそういう使い方を意識して光度を調整できるようにしました。
星食の瞬間にLEDの光があたっていなくても前後で撮っておけば時刻の精度にはまったく問題がありません。
正確に時刻を決めるためには強い光をあてる必要があり、星食の瞬間に弱い光をあてても意味はありませんから。
またある程度カメラの特性がわかってくれば前か後ろの一方だけでも十分ですよ。
それから発光の開始と終了ではどちらかというと終了の方が重要(正確に時刻を決定できます)です。
ただこれもカメラの特性がわかってくれば開始・終了どちらでも構わなくなります。
投稿: セッピーナ | 2014年7月 4日 (金) 02時04分