温度を一定に保つ方法 - ミニ恒温槽の作成に向けて(3)
恒温槽の温度を保つにはどうしたらいいかというのがこの記事のテーマです。
恒温槽の内部の温度を監視し温度が上がれば冷却し(加熱をやめ)、温度が下がれば加熱する(冷却をやめる)、つまりサーモスタットみたいなものを使うというのがすぐに思いつく方法ですが、これは温度を特定の範囲に保つことはできても“一定に保つ”のは難しいような気がします。例えば温度が上がったからといってヒータを止めてもヒータの余熱で温度は上昇し続けるからです。
温度を一定に保つにはもっとよさそうな方法があります。
前記事「ミニ恒温槽の作成に向けて - 魔法瓶の活用」に書いたことからわかるように恒温槽内部の温度は外気温と恒温槽の熱抵抗と恒温槽に供給される熱量で決まります。
過渡的な状態を考えるのは次にして定常状態の場合を考えます。
恒温槽内部の温度をTin、外気温をTout、恒温槽の熱抵抗をθ、恒温槽の熱源の出力をPとすれば
Tin - Tout = θ * P
という関係が成り立ちます。式を変形すれば
P = ( Tin - Tout ) / θ
となります。
つまり外気温を監視しその温度に応じて恒温槽の熱源の出力を上の式で示される値になるように発熱源に流れる電流を制御していれば恒温槽の内部はほんとうの意味で一定の温度に保たれるはずです。
この方法のいちばん大きな課題はどうやって外気温を正確に(適切に)測定するかという点でしょうか。
それからこの方法は私の魔法瓶恒温槽だと下の例にあるように熱源の出力は1Wも要らないのですが、恒温槽の中のものを取り替えたようなときはかなりの温度変化が生じますので短時間で定常状態=温度が一定の状態=にしようとするとそれなりの出力がある熱源が必要になります。
私みたいに温度を一定にするのに一晩かけてもいいというのであれば1Wとか2Wでじゅうぶんでしょうが。
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予備的なテストの結果を示します。
魔法瓶の中に35度くらいのお湯を入れておきます。お湯の中にはアルミパイプに封入した1/2W型の100Ω抵抗が入れてあり電流を流しています。4.67Vに対して0.044Aが流れており発熱量は0.205Wです。
Tin - Tout = 40 * 0.205 = 8.02
ですから魔法瓶の中の温度(白金抵抗体の抵抗値から求めた温度)は外気温(AM2321、LPS331、サーミスタの抵抗値から求めた温度2種)より8度高いところまで変化しそこで一定になるはずです。実際にやってみた結果はこうでした。
最後の一時間くらいを見ると外気温(室温)が27度くらいなのに対し魔法瓶の中は35.8度で一定になっておりだいたい計算通りになっています(計算値より少し温度が高くなっているのは今回は前回と違って魔法瓶から引き出している配線を極力少なくし、また配線自体も細くしており全体的な熱抵抗が大きくなったためでしょう)
魔法瓶の中は外気温より8度高くなる、と書いたのですが、これは定常状態での話で外気温が急に2度下がったからと言って魔法瓶の中もそれに伴って2度下がる、ということはありません。それはグラフを見ればわかります。こういう過渡的な状況での温度変化についてはまた別に記事を書きたいと思います。
また外気温を監視しその温度に応じて常に恒温槽の熱源の出力Pを上の式が成り立つように制御していれば恒温槽の内部は一定の温度に保たれるはずと書いたのですが、どうやったらそのようなことを現実にできるのか、というのがこのシリーズの記事の目標になります。
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ところで上のグラフについてちょっと説明しておきます。
外気温は実験開始後1時間30分くらいまでと5時間30分後から急激な変化がなんどかありますがこれは窓を開け閉めしたためです。
センサーによって温度変化の様子はかなり異なります。いちばん派手な動きをしているのはサーミスタ2ですが、これは裸のサーミスタをできるだけ気温だけで温度変化するように保持したものなのでほぼ空気の温度そのものを示しているからです。つまり外気が吹き込めばすぐに外気の温度を示します。窓を開けたとたんに温度が下がり窓を閉めたとたんに温度が上がる、というような変化を示していました。
一方サーミスタ1はアルミ管に収めた上で測定しています。このため外気温が変化してもすぐにはそれが測定値には出てきません。
こうやってみるとAM2321もLPS331APもそんなに応答性がいいわけではなさそうです。ただこれらはサーミスタ2のようなレスポンスをよくするための工夫をしているわけではないです。
また四つのセンサーがまちまちの温度を示していますが、正しい温度はAM2321とLPS331APの間、それもAM2321の値に近いところにあると思われます。白金薄膜抵抗の抵抗値から温度を求める件は進展があり、今はおそらく正確な温度との差は0.1度かそれ以下になっていると思われ、それをもとに考えるとこの中ではAM2321の示す温度がいちばん正確なようです。
とは言ってもセンサーの応答性が違えば気温が変化したときの温度の測定値は同じ精度のセンサーでも違ってくるわけで、温度計の精度比較にはなかなか難しいものがあります。
(「恒温槽 - 温度を一定に保つアルゴリズム - 1 」へ続く)
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