PICで平方根 - 白金薄膜抵抗で温度を測る
今は温度測定に凝ってるわけですが、やる以上やっぱり“高み”を目指したいと思います。
温度計のヒエラルキーの頂点には17個の定義定点があります。「ヘリウムの蒸気圧点」からはじまって「銅の凝固点」まで私にはリアリティを感じられないものが並んでいます。唯一「水の三重点」だけはどうにかなりそうな気もするのですが、どうにかなるのかどうにもならないのかよくわかりません。まあ「体温で沸騰する水」くらいまでは実験していますのでこれはそのうち記事にしたいと思います。
さて「定義定点」の次の階層は何かというと(13.8083K~961.78deg,Cの範囲であれば)「白金低抗体」だそうです。そこで秋月で\350._で買ってきた「超小型白金薄膜温度センサ」で定義定点の次の精度を気分だけでも味わってみたいと思います。
(ほんとに“気分だけ”です。「白金抵抗温度計を用いた 精密温度測定 - J-Stage」を読むと白金抵抗温度計を使った温度測定の難しさがわかります。とは言いつつやっぱりやってはみたいわけで「(趣味の)白金抵抗温度計の製作 - 準備編」あたりからちょこっと始めています)
これだけ小さいといつもならハンダ付けに気を使うのですが、これはヘーキです。
納得できるまで何度でもハンダ付けができます。なにしろ-200deg.Cから600deg.Cまで測れるものですから (^^;;
アルミパイプに封入して使います。もちろん氷水につけることを考えています。
絶縁はちゃんとやってますので安心してください。
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「白金低抗体」を使った温度計というのは最上位の「定義定点」での抵抗を測っておき、白金低抗体の抵抗から補間して温度を求めるという仕組みです。この補間式というのがけっこうすごくて理科年表に3ページにわたって説明があります。
秋月で買ったものはそんなたいそうなものではなくて(0deg.C以上の場合)温度と抵抗値の関係が二次式(0℃以下は四次式)で示されていますので、それから温度を求めることになります。
もっとも二次式と言っても温度に対する抵抗値が示してあるので抵抗値から温度を求めるときは二次方程式を解く必要があります。PICじゃ平方根なんてムリだろうと思ったのでこれまでこんなプログラムを書いていました。
定電圧源(Vin)に抵抗値がわかっている抵抗(Rin)と白金薄膜抵抗がつながれており白金薄膜抵抗の両端の電圧(fp)を16bitのADC(MCP3425)で測っています。
(“定電圧源”とか“抵抗値がわかっている”というのがちょっと問題です。このような測定になると抵抗値の温度変化もとうぜん問題になります。今のところ電圧源には基準電圧ICを使いできるだけ温度変化が小さい金属皮膜抵抗を使うということで対応しています。金属皮膜抵抗はふつう誤差1%ですが、探すと0.5%とか0.1%のものも入手できます。こういうものはふつう温度係数も小さいです。誤差0.005%で温度係数±2ppmというものがありますが、それなりのお値段がします。ちょっと衝動買いできるようなお値段じゃありませんでした。お金持ちじゃないと買えないという意味じゃなくて抵抗一本がこんなにするのか、というような意味でですが)
それから白金薄膜抵抗は抵抗値が小さいので途中の配線の抵抗にも注意する必要があります。他に自己発熱とか気をつけなければいけないことが多いので、ちょっと室温を測るのに使う、なんていうのはやめた方がいいです (^^;;
とは言えどうしても白金薄膜抵抗で温度計を作りたいという方のために記事を書き始めました。
「(趣味の)白金抵抗温度計の製作 - 準備編」
いろいろとたいへんです。
fp = ip_MCP3425[1]; // ADCの下位バイト
fp = (fp+ip_MCP3425[0]*256.0) * 62.5E-6; // ADCの上位バイト、分解能62.5μV
fp /= 8.0; // ゲイン x8 で使っているので8で割ります。
fp_c = fp * V_cmp; // ADCのゲインの誤差を補正します。V_cmp=1.002;
R1=fp_c/(Vin-fp_c)*Rin; // 白金薄膜抵抗の抵抗値を求めます。
// Vin=4.094[V]; Rin=4.980E3[Ω];
// 白金薄膜抵抗の抵抗値は100[Ω]と小さいので
// 配線が長くなるときはその分も調べてここで引きます。
T=(R1/R0-1)/C_a; // 抵抗値と温度の関係は1次関数と考え温度を求めます。
// R0: 100[Ω];
// C_a= 0.0039083;
R2=((T*C_b+C_a)*T+1)*R0; // 求めた温度に対する抵抗値を求めます。
// C_b= -0.0000005775;
T=(R1/R0-R2/R0)/C_a+T; // 上記をもとに外挿して温度を求めます。
sprintf(buf,"%5.1fdeg",T);
LCD_SetCursor(0,0);
LCD_puts(buf);
ちょっと雑ですが二次の項の係数は小さいのでこれでもちゃんと温度が求まります。
計算は雑ですが抵抗とか電圧とかちゃんと有効数字4桁で求めて(調べて)います。けっこうたいへんでした。それだけの確度でといういう意味ではなくて四桁目まで考えても全体的に整合性がとれるという意味ですが。
(使っているADコンバータについては「PICでI2C - ADコンバーター・MCP3425の使い方」にあります)
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でも使っているのは一応Cコンパイラーです。ひょっとしたら平方根の計算くらいできるのでは?と考えmath.hをインクルードしてみました。べつにエラーは置きません。
そこでこんなプログラムを書いてみました。
sprintf(buf,"sqrt(%3.1f)=%8.6f",2.0,sqrt(2.0));
LCD_SetCursor(0,0);
LCD_Puts(buf);
LCD_SetCursor(0,1);
for(i=0;i<16;i++) LCD_Putc(' ');
結果はこうなりました。
これでちゃんと二次方程式の解の公式を使えそうです (^^)
と書いたのですが、0℃以下のことまで考えるとけっきょく逐次近似(ニュートン法)になります。math.hをインクルードしなくて済むのもポイントじゃないでしょうか。
「測温抵抗体(Pt100、白金薄膜温度センサー)の抵抗値を温度に変換する(平方根を使わない)計算式」
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「I2Cデバイス・アドレス一覧」
「PICで平方根 - 白金薄膜抵抗で温度を測る」
「PICでI2C - ADコンバーター・MCP3425の使い方」
参考
「きむ茶工房ガレージハウス - PICの動かせ方入門はこちら - 16F1938覚書」
「きむ茶工房ガレージハウス - I2C通信の実験」
「きむ茶工房ガレージハウス - 気圧センサーで大気圧と標高を測定して見ます(MPL115A1)(MPL115A2)」
予習として拝見していたのですが、とても参考になります。
私の記事を読んでI2Cのセンサーを使って温度計とか気圧計とかそういうものを作りたくなった方も実際に作られるときはこちらを読まれた方がいいと思います。
「電子工作の実験室 - PIC(8bit) - PIC16シリーズ - I2Cモジュールの使い方」
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