(趣味の)白金測温抵抗体(白金薄膜抵抗)温度計の製作 - 準備編
要するに白金(薄膜)抵抗を使って温度計を作ろうという話なのですがこういうのが専門家の目に触れたらいやだなあというのがあって“趣味の”と断っています。
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どこかの記事に“気温を測るのに白金低抗体なんか使わない方がいい”と書いたのですが、なんとかものになってきたので作り方を詳しく書きます。
ただ正しい(正しそうな?)温度を表示できるようにもっていくのはけっこう難しいです。いろんな要素があるので
基礎編
「(白金)測温抵抗体(白金薄膜抵抗)の使い方 - 基礎編というか入門編というか....」
「測温抵抗体(Pt100、白金薄膜温度センサー)の抵抗値を温度に変換する(平方根を使わない)計算式」 (-200℃~850℃)
準備編
「(趣味の)白金抵抗温度計の製作 - 準備編」 (この記事)
理論編
「(趣味の)白金薄膜抵抗温度計の作り方 - 誤差について」
回路編
とても単純な回路です。
「16bitADコンバータMCP3425とPICで作る白金抵抗温度計 - 1」
ちょっと複雑になりますが、使いやすい回路です。
「サーミスタ/白金測温抵抗体/pn接合による温度測定のための定電流電源」
プログラム編
まだ書いていません。上の基礎編を読めばプログラムは書けると思います。
その他
「PICで作る温度計のセンサー比較(サーミスタ、熱電対、白金測温抵抗体など)」
「温度センサ(サーミスタ・熱電対・(白金)測温抵抗体)の誤差」
「サーミスタや白金抵抗温度計の自己発熱の影響を補正する方法」
「白金測温抵抗体の自己発熱(熱放散係数)を測ってみた - 1」
「Pt100(白金測温抵抗体)の校正状況 - 氷点=0.0℃編」
「体温計と魔法瓶で校正する白金測温抵抗体 - 36.5度編」
「脇の下恒温槽と体温計で白金抵抗温度計を校正してみた」
くらいに分けて少しずつ書いていくつもりです。今回は準備編です。
白金抵抗を使って温度計を作るのは原理的にはとても簡単です。単に白金低抗体の抵抗値を測るだけですから。
でも実際に測ろうとするといろんな問題が次々と沸き起こります。もう“もぐらたたき”状態に陥ります。このあたりの事情は理論編と回路編で書くつもりです。
今回は白金抵抗温度計を作るのにどんなものを使ったかということだけを記事にします。
あくまで“趣味の”です。こんな論文もありましたので“趣味“から一歩上の段階を求められる方は目を通しておいた方がいいと思います。
「田中貴金属工業株式会社 浜田登喜夫 - 白金抵抗温度計を用いた精密温度測定」
この方が白金抵抗温度計について書かれたものは他にもいくつかあります。
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以下精度、精度と言ってますが、この記事にある製品の精度では組み上げただけでは±0.1度は達成できずいろいろと調整(工夫)が必要です。誤解されるといやなので念のために書いておきます。
白金抵抗体
コストを考えて秋月で白金薄膜抵抗を買ってきました。\350._でした。
型番が[R0K1.232.6W.B.008(101)]のものです。
もう一つ[PTFA101B000(101)]というのがあってこれは\600._です。
現在(2016年3月)秋月電子通商では「白金薄膜温度センサ」は扱わなくなってしまったようです。RS-Onlineでいろんな種類が入手できます。購入するときは精度に注意してください。Class B、Class A、1/3 DINとあり、この順に精度が上がります(不確かさが小さくなります)
この\250._の差が何を意味しているのかよくわかりません。精度的なものはまったく同じに見えます。温度の測定範囲は前者が-200deg.C~400deg.Cで後者が-50deg.C~400deg.Cですから\350._の方が“お買い得感”があるのですが....
その後0℃での抵抗値をチェックしたら\600._の方が誤差が小さかったです。ただどちらも一つずつしか持っていないので、一般的にそうなのかはわかりません。
どちらも
0deg.Cにおける抵抗値:R0=100Ω
0deg.Cにおける許容差:R0±0.12%
0deg.Cを基準とした100deg.Cでの抵抗温度係数α:3850ppm/deg.C±13ppm
となっています。
温度係数は温度に依存します。温度と抵抗値の関係は0deg.C以上では二次式、0deg.C以下では三次式 四次式で与えられています。とは言っても直線に近く度の単位まで知りたいだけなら一次式と考えても問題ないくらいです。
基準電圧源
できる限り電圧の精度がよくかつその温度変化(温度係数)が小さいもの。
いろいろ買ってきて確かめればいいのですがお金と時間が必要です。
しようがないのでデータシートで判断します。
今使っているのは
National Semiconductorの「高精度マイクロパワー・シャント型基準電圧」のLM4040AIZ-4.1/NOPB(4.096V ±0.1% 100ppm/deg.C)です。
温度係数がちょっと大きいのが気になりますが室温で使う前提であればそれほど問題にならないと思います。温度係数がこれより1桁以上いいものもありますがお値段も1桁以上高くなります。
三和のPC700で実測したら4.094V(at 25deg.C)でした。PC700の9.999Vレンジの測定確度は購入一年以内18deg.C-28deg.Cの温度範囲という条件で±(0.08%rdg.+2dgt. )となっており、このくらいの精度の話になるとどっちが正しいかわからなくなります。
この手の製品はグレードがいくつかある場合があるので買うときは注意します。
分圧用抵抗
白金抵抗の抵抗値は電流を流してその電圧降下を測ることになります。一定電流を流して測りたいのですが、そうすると定電流源の精度が問題になってきます。
ここでは上の基準電圧源を分圧用抵抗と白金抵抗を直列にしたものに印加して白金抵抗の端子電圧を測る方法をとっています。分圧用抵抗を白金抵抗に対して大きくとれれば定電流源につないだのと似た条件になります。
これも抵抗値の精度がよくかつ温度係数が小さいものが必要です。
抵抗値は精度の高いテスター(DMM)があればそれで測ればいいということも言えるのですが、温度係数が大きければたびたび測り直さないといけないわけで面倒です。
一般に精度が高い抵抗は温度係数も小さいのでできるだけ精度が高い抵抗の入手を目指すべきでしょう。
「精密抵抗のお値段 - 抵抗器の精度と価格の関係」
を参考にしていただければと思います。
今私が使っているのは+/-0.5%の金属皮膜抵抗です。+/-0.1%の金属皮膜抵抗も持っているのですがスペックだけみるとあんまり温度係数がちいさくないのでそのうち温度係数を実測した上でどうするか決めたいと思っています。
その後±0.1%の金属皮膜抵抗の(室温での微分?)温度係数を測ってみたところむちゃくちゃ小さかったです。お値段がちょっとあれですが、ここぞというときには使えると思います。
「金属皮膜抵抗と炭素皮膜抵抗の温度係数を測ってみた - まとめ」
「金属皮膜抵抗(0.1%)の温度係数を測ってみた - タクマン電子 RN14C2B 10kΩ(千石電商)」
温度の基準
最低でも測定範囲に二点ほしいです。私の場合は氷点と体温計を使っています。氷点の作り方については
「氷点 - 摂氏0度の作り方」
に書きました。体温計はお値段を考えると“奇跡の精度”があります。女性用体温計と言われるものがお勧めです。表示(分解能)は0.01度であり(狭い温度範囲に限られますが)精度も±0.05度と良好です。
なお水の沸点は基準とは考えない方がいいと思います。安定した沸点の実現が難しいでしょうし仮に実現できたとしても正確な気圧がわからないと温度はわかりません。
ADコンバーター
DMMで電圧を測る(あるいは直接抵抗値を測る)ということでもいいのですが、そうするといちいち計算する必要があるわけで面倒くさくてやってられません。
手軽に作れてデータはPCで保存できるようにするということでI2CのI/FがあるPICとADコンバータを使っています。この条件だとMicrochipのMCP3425しかないようです。16ビットと分解能が高く、プリアンプがついており、自動オフセット調整もあって扱いやすいです。
基準電圧源の精度も0.05%となっていますがデバイス全体の精度はここまでないと思います。
この基準電圧源の電圧を外に引き出せれば便利なんですが (^^;;
100Ω精密抵抗(あると便利)
100Ωの精密抵抗があると測温抵抗体の抵抗値をそれと比較することにより校正なしでもそれなりの不確かさの温度が得られるようになります。
私が使っているのはアルファ・エレクトロニクスの±0.01%、2.5ppm/Kの抵抗です。
「精密抵抗のお値段 - 抵抗器の精度と価格の関係」
定電流回路(あると便利)
抵抗値の測定が楽になります。また回路にある配線や接点の抵抗の影響を小さくすることができます。
「サーミスタ/白金測温抵抗体/pn接合による温度測定のための定電流電源」
原理図(あくまで原理図です)
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関連
「測定対象別記事一覧(測定、電子工作、天文計算)」
温度、気圧をはじめいろんな物理量の測定方法について
「過去記事の一覧(測定、電子工作、天文計算)」
「正確な温度を求めて (1)」
「氷点 - 摂氏0度の作り方」
「サーミスタや白金抵抗温度計の自己発熱の影響を補正する方法」
「(趣味の)白金抵抗温度計の製作 - 準備編」
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「I2Cデバイス・アドレス一覧」
「PICで平方根 - 白金薄膜抵抗で温度を測る」
「PICでI2C - ADコンバーター・MCP3425の使い方」
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コメント
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40年ほど前にjpt100の温度変換器を設計して、会社で使っていました。
全てアナログ部品で構成し-40~200℃で±0.01℃だだし、-20℃以下は除く。
±0.02℃ギャランテイでした。
国関係の熱量測定の設備を受けたとき、すべての使用部品を指定されていたのですが、
社外の変換器では社内の規格の制度が出ず、掛け合って自社製を使うと、精度が出ました。
温度校正は氷を使うものが0.01℃が簡単に出せました。
センサーはメーカの書類を信用して、自社製の基準抵抗器で0℃、100℃、200℃をあわせてから、0.01℃の氷で合わせると、各設定点のカーブも勝手にあうように設計しました。
なにか参考になることはありますか?
投稿: 猫村 ねこ丸 | 2021年3月26日 (金) 13時08分
専門家の方の具体的なお話はたいへん勉強になります。ありがとうございます。
(返信が遅くなってしまい申し訳ないです)
温度校正に底に穴を開けた発泡スチロールの容器に氷を入れたものを使われるということなのですが、この「氷」はどのような水をどうやって凍らせるのかが気になりました。
0.01℃というのは水の三重点が必要なのだと思い込んでいました。
一方で水道水のようにほんの少し不純物が入っているからといって、それによる凝固点降下がどれほどのものだろうとも考えていたのですが。
それと、容器は温度を均一にするため金属製の容器を使った方がいいのではとこれも思い込んでいました。
ほんとうにありがとうございました。
投稿: セッピーナ | 2021年4月19日 (月) 10時02分