“ふつう”のサーミスタをウィーンブリッジ発振器のリミッタ(振幅制限)に使う方法 (2)
以前
「“ふつう”のサーミスタをウィーンブリッジ発振器のリミッタ(振幅制限)に使う方法」
という記事を書きました。
発振回路の振幅制限には使えないと言われるディスク型とか温度検知用といわれるごくふつうのサーミスタでなんとか振幅制限をしようという話でした。
実際に作ってみようといろいろやっています。どんな作り方をしているかを紹介してみたいと思います。調整がなかなかたいへんですが記事にあるように高調波歪がとても小さい波形が得られます。
“正統的”な振幅制限の方法はこちらにあります。
「ウィーンブリッジ発振回路の歪率(高調波歪)を小さくする工夫」
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まず“それ用”のサーミスタを使った回路はこんなものです。
サーミスタを20kΩよりちょっと大きくしておくかR4を10kΩよりちょっと小さくしておくわけですが、この回路で
サーミスタの抵抗値 >= R4の抵抗値 * 2
が発振条件です(=増幅度3以上)
ただ発振回路は発振を始めると振幅がだんだん大きくなり能動素子の特性や電源電圧でそれ以上振幅が大きくならないところに落ち着きます。理由が理由ですからこの状態の波形はとてもきたないです(=高調波だらけ)
上のような回路は振幅が大きくなるとサーミスタに流れる電流が増えそのため消費電力が大きくなります。その結果抵抗値が小さくなり発振条件をギリギリ満たすところで落ち着きます。そうすると高調波のないきれいな波形が得られることになります。
この動作原理はふつうのサーミスタでも成り立つのですが、ふつうのサーミスタは温度係数が大きいのでちょっと気温が上がるとサーミスタの抵抗値が小さくなり発振が止まってしまいます。
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そこでこんな回路を作ってみました。
回路図はこの通りなんですが、ちょっと工夫します。ThermA(とThermB)に断熱材みたいなのを巻きつけます。断熱が目的ではなく熱拡散係数を小さくするのが目的です。
こうすると振幅が大きくなるとThermA、ThermB、ThermCいずれも消費電力が増えて抵抗値が小さくなるのですが、ThermA(とThermB)は熱拡散係数が小さいのでThermCに比較してより温度が高くなりそのぶん抵抗値の減りも大きくなります。
一方気温の変化は緩やかですのでThermA、ThermB、ThermCのいずれも同じように抵抗値が変化し気温が上がったから発振が止まるということはなくなるはずです。
実際にはこうやって作ります。
まずサーミスタ3個をプリント基板に並べてハンダ付けします。基板にはピンヘッダがついており回路図の通りに配線を引き出してあります。
次にサーミスタをティッシュでくるみストローの中に入れます。
最後に全体をABSのパイプの中に収めます。風があたらないようにティッシュで蓋をしてあります。
実験装置(?)の全体像です。
右上がブレッドボード上のウィーンブリッジ発振器、左下が電源部です。
電源は5V(4.8V)入力で右上でアイソレートされた±5Vを作り、中央は最大25Vまで昇圧できるようになっています。左上はこれから「オペアンプを単電源で使う方法 - 4」に書いた方法で±10V以上が作れるようになっています。
左上はミリバルその他で作りかけです。
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ちょっと話が飛びましたが、上の発振回路の波形のスペクトラムです。
(いろいろやっていちばん状態がよかったものです)
わずかに三次の高調波が見られますが基本波より70dB小さく50Hzの電源ノイズより小さいくらいです。振幅制限は意図したとおり行われているとみてよいと思います。
この高調波の少なさは特筆すべきでFETによる振幅制限ではこのレベルまで持っていくのはなかなかたいへんだと思います。
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ただこれで終わりではありません。
この回路は気温が上がったら発振が止まるということはなさそうです。でも気温が変わっても何も変化がないというわけではありません。
温度T[K]での抵抗値は次の式で」表されます。
R = R0 * exp(B * (1/T - 1/T0))
この式を温度で微分すると温度係数が求まります。
dR/dT=-R0 * B*exp(B * (1/T - 1/T0))/(T^2)
つまり温度係数は温度に強く依存します。一方振幅の変化による温度上昇は気温にはあんまり関係なさそうです。
多少気温が変化しても安定して使用できるようにするためには工夫が必要です。
例えば上の回路でR3の抵抗値は具体的にいくらにするのか、熱拡散係数はどのくらい小さくすればいいのか、と言ったことです。
ちなみに今は
R0 = 10[kΩ] ±1%
B = 3380[deg.K] ±1%
熱拡散係数 0.15[mW/℃]
のサーミスタを使って、R3=250[Ω]でやっています。あるいはR3=250[Ω]で適当な振幅になるように熱拡散係数を調整したというべきかもしれません。
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