バーナード星は動いているか? - 2 - その固有運動と年周視差
もう何ヶ月も経ってしまいましたが以前バーナード星が写った画像から恒星の画像上の座標を読み取る方法を書きました。
今回は得られた恒星の座標からどうやってバーナード星の位置を決定するかについて書きます。
この記事に書いた内容は
「ダウンロード Excel_SRV_V1_4_Barnad_140509.xls (992.0K)」
からダウンロードできるExcelファイルで確認していただくことができます。
固有運動や年周視差の求め方については
「バーナード星の固有運動量(赤経・赤緯成分)と年周視差を写真から求める方法」
に、結果は
「バーナード星の年周視差と固有運動の観測・まとめ」
にあります。
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かなりややこしいのでまず手順を簡単に説明します。
これをもとに説明していきます。
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なにはともあれバーナード星とその周辺を写した画像が必要です。バーナード星は暗いですし周りに目印もないようなのでこれもたいへんです。固有運動をそしてあわよくば年周視差も検出しようというこころみですからよく調整された焦点距離の長い望遠鏡が必要です。
私にはどうしようもないのでこれについてはサダルテミスさんに“おんぶにだっこ”の状態です(サダルテミスさんのバーナード星に関する記事はいくつかありますが例えば「星空のおぼえ方-ソラのソムリエから自由をめざす - もう動いてた♪ バーナード星☆彡」)
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上図A.については以前はGIMPなどで恒星の位置を一つ一つ読み取っていたのですが最近はほよほよさんのおかげでずいぶん合理化できました。これについては「バーナード星は動いているか? - 1」に書いたとおりです(もっと詳しいことは「「写真から星の座標を得る」アプリ」に説明してあります)
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画像の処理が終わったら今度は星表データを用意します。じつはこれをどうやって用意するかというのも問題です。「ヒッパルコス星表とティコ星表 」にあるリンクを参考にしてください(一つあげるとすれば「ほよほよのブログ - Tycho2 星表を MySQL に取り込む」)
星表番号が5桁の数字なのはヒッパルコス星表のデータです。数字3グループになっているものはティコ星表によるもので、元期がJ1991.25なのはティコ1星表、J2000.0なのはティコ2星表のデータです。
確認のため暦象年表で求めた視位置も入っていますがこれは元期が“Apparent”となっています。
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ここまで来たら実際の計算に入ります。
まず最初に写真の撮影時刻の恒星の視位置を求めます(ITRF=>J2000.0座標変換、固有運動、歳差、章動、年周視差、年周光行差)今回の場合は視位置でなくて星表位置でもいいような気もしますが汎用性を考え視位置にしています(上図B.)
恒星の相対的な位置関係が問題であればふつうは固有運動だけ考えればすみます。バーナード星の周辺には固有運動が大きい恒星はないようでそういう意味では星表位置から計算してもいいということになります。ただ計算を視位置で進めておくと結果を暦象年表で確かめることができますし、そういう面では便利です。念のため書いておくと視位置の計算が正しくできているかどうかは必ず暦象年表で調べます。一般の天文アプリではこの記事で要求している精度は期待できないです(参考「恒星視位置(赤経・赤緯)計算が間違ってました!」)
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次にバーナード星を撮った写真がどのような条件で撮影されたものであるかを調べます(上図C.)
ここで“条件”というのは
ピクセル数で表したレンズの焦点距離
カメラの設置方向
画像中心の赤経
画像中心の赤緯
北極方位角(カメラの傾き)
レンズの歪曲収差
です。
これはまず上記の条件を適当に仮定して恒星視位置から画像上の位置を求めそれと実際の恒星像の画像上の位置の差を求めます。そしてその差が小さくなるように条件を変えていくという方法をとります。Excelの場合は“ソルバー”というのがあってこういう操作を自動的に行うことができます。
Aが求めるべき“撮影条件”です。B.は恒星名です。星表データにある星表番号から選択すると星表データがセットされます。C.は画像から求めた星像の座標、D.が星表データから求めた恒星の座標です。これらの差の(自乗の)合計がE.になっており、これを最小になるよう(=目的セル)に撮影条件を変化させるセルとしてソルバーを動かします。
“ピクセル数で表したレンズの焦点距離”はスペック値から計算すればわかるではないかと思う方もいらっしゃると思いますが、ここでやっている計算だとそれではぜんぜん精度が足りません。
またこの計算を行うときは必ず大気差の影響も考慮します。低空で撮った写真でなくてもこういう精度の要求される計算では大気差の影響は侮れません。
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撮影条件が決まったら最後にバーナード星の位置を求めます(上図 D.)
A.は画像上のバーナード星の座標です。C.はB.にある(適当に仮定された)バーナード星の位置から計算された画像上の座標です。これらの差(の自乗)であるE.が最小になるようにB.を変化させるセルとしてソルバーを動かします。
バーナード星の固有運動は0として計算をします。こうするとバーナード星の位置は移動して行きますからそれから固有運動を求めることができます。
上の例では元期がJ1991.25になっていますが、これは勘違いです。でも固有運動は0としてやっていますので結果に影響はありません。
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こうやって「バーナード星は動いているか? - 1」に書いた5月9日の写真からバーナード星の位置を求めたところ
赤経 269.44901度(17h57m47.76s)
赤緯 4.73465度(4d44m04.7s)
(J2000.0による座標)
が得られました。
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