固有運動や年周視差はアマチュアには無縁なものなのか?
固有運動というのは何年も隔てて写真を撮らないと動きがわからないものと思っている方も多いようです。まして年周視差となると天文学者の世界の話であってアマチュアには無縁なものと思われている方がほとんどだと思います。
私も以前はそうだと思っていたのですが最近じつはそうでもないと思うようになりました。現実にそれを証明するものがあります。
「「バーナード星の固有運動は何日でわかるか?」ランキング」
調べた範囲ですが74日間でバーナード星の固有運動がはっきりとわかる写真を撮影された方がいらっしゃいます。
74日間の固有運動というのはバーナード星といえどもごくわずかなものですが、それがわかるのであればアマチュアにだって年周視差を検出できるのではないかということでまず固有運動と年周視差がどういうものなのか(教科書的ではなく)具体的に考えてみようというのが今回のテーマです。
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まずバーナード星の固有運動を見てみます。来年一年間の動きです。
動きはJ2000.0座標系つまり他の恒星との相対位置で示してあります。
これを視位置で表示したりするととんでもないことになります。ああ、歳差があるからだな、と思われる方が多いと思います。確かにそれもあるのですが実際は年周光行差がさらにその何倍かの影響があります。
この図で言えば下から上の方へつまり北の方に動いていきます。月初の位置にマークが入れてあります(最後のマークは12月31日です)
このグラフは一目盛が0.0002度つまり角度の0.75秒(固有運動や年周視差の単位で言えば750mas)になるように作ってあります。
この0.0002度というのはどのくらいの大きさかというと横方向のピクセル数が4000のAPS-Cのカメラに1700mmのレンズ・反射鏡を取り付けて写したときの1ピクセルに相当します。
つまりバーナード星はこういう機材で写すと5ヶ月間で他の恒星との位置関係が6ピクセル違ってきます。そう考えると何年も待たなくてもバーナード星の動きがわかるということがわかっていただけると思います。
画像の状態にもよるのですが他の恒星に対して2,3ピクセル動けば目でみてもそれとわかるようです。また他の記事で何度か書いていますが画像をていねいに分析していくと1ピクセルあるいはそれ以下の動きも検出できる場合があります。
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では年周視差はどうでしょうか。上のバーナード星の固有運動による動きに年周視差の動きを加えてみます。
固有運動による動きは恒星によってまちまちですが年周視差はその大きさは異なるものの動き方にはパターンがあります。
赤道(正確には黄道なんですが、これからは赤道と書いてしまうことが多いと思います)の付近にある恒星は赤経方向に往復運動(振動)しているように見えます。一方北極(これも正しくは黄緯90度という意味です)の近くの恒星は円運動に近い動きをします。その間にある恒星は楕円運動をします。
バーナード星は赤道近くの恒星ですから年周視差ほとんどが赤経方向の動きです。一方固有運動は大半が赤緯成分ですから上のようにゆらゆら左右(東西)に動きながら天球を北上していくことになります。
ここで3月と9月の位置を比較すると赤経に0.0004度の違いがあります。つまり上の撮影条件で言えば2ピクセルの違いです。固有運動による赤経方向の動きは0.0002度しかありません。それも一年かけての動きです。一方年周視差による動きは半年間で0.0004度です。
焦点距離が長い望遠鏡で写真を撮ればけっしてわからない動きではないと思います。
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せっかくですから固有運動なし年周視差のみのグラフも作ってみました。
あれ、赤道の近くにある恒星は往復運動では?と思われそうですが、これはバーナード星は春分点から90度くらいのところにあり黄道から離れているからです。
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次に年周視差の動きについてもう少し考えてみたいと思います。
なお上の図を作るための恒星の位置は「月の赤経・赤緯・地心距離を求める(海洋情報部の計算式) 2015年版」にあるExcelファイルの“恒星視位置”のシートを利用して計算したものです。
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