クレーター名入り月面写真を作る - 座標回転の応用例
タイトルのとおり月の写真にクレーター名を入れようというお話です。
このためには月と地球の位置関係と月がどちらの方向を向いているかというのが必要です。
これは撮影時刻と撮影した場所の緯度・経度がわかっていれば計算できます。ただこれらからそのとき月がどちらの方向を向いているか計算するのはなかなかたいへんです。暦象年表などを見れば月の自転軸の方向(=自転軸のパラメータB0、L0、P)を調べられるのですがこの値は地心からのものでそのまま使えないのでこれでもたいへんです。
そこで今回は撮影時刻や撮影した場所はまったく考えず写真のみから月との位置関係・月の向いている方向を算出しそれをもとにクレーター名を入れるという不精な方法を考えてみました。
なお、この記事を書くにあたってクレータの名前、位置等は
「- 月世界からの報告 -」
を主に参考にさせていただきました。
<=== 最近はIAUのリストを利用しています。
「直径10km以上の月のクレータの一覧表 - IAUのデータベース」
「月のクレータの一覧表(2km~10km) - IAUのリストから」
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まずお月様の写真を用意します。撮影時刻や撮影地点がわかっていなくてもだいじょうぶです。
次に写真から自分の知っているクレーターを三つ以上探します。
プラトンとかコペルニクスとかアリスタルコスとかケプラーとかティコとか著名人のが探しやすいでしょう。そしてそれらの中心の画像上の座標(ピクセル数)を調べます。
座標を調べるのはクレータが小さい方が正確にできます。だからできればプラトンよりプラトンAやプラトンBの方が望ましいです。でもプラトンAがすぐにわかる方もそう多くはないと思うので最初はプラトンそのものでいいです。クレータ名入の画像を作ればどれがプラトンAだかすぐにわかるようになります。
もし上弦~下弦の間の写真であれば“Moesting A”は押さえておくようにします。正確な図を作ることができます。
(「月の座標原点と経度緯度が0度の地点」参照)
以上の準備が終わったらいよいよクレータの図を作ります。
(この方法の“原理”は記事の最後にあります)
「ダウンロード IMGP7810.xls (135.0K)」
「ダウンロード Crator_00.xls (57.5K)」
(結果が間違っているわけではありませんが考え方的にヘンなところがありました)
ExcelファイルのA列のところをクリックするとクレータの一覧が表示されますのでそこから座標を調べたクレータを選択します。もし調べたクレータがないときはそのクレータの経度・緯度を調べて“CratorList”に追加します。そうすると選択対象に表示されるようになります。
B列に画像上の座標を入力します。
三つ以上のクレータを入れ終わったらソルバーを実行します。ソルバーはExcelをインストールしただけでは使えません。どうやったら使えるかは“Excel ソルバー”なんかでググってください。ソルバーの機能はLibreOfficeなどでも使えます。
ソルバーは目的セルを残差(黄色地に緑の文字)にし、目標値は“最小値”にします。“制約のない変数は非負数にする”のチェックははずします。あとは“変化させるセル”としてφx、φy、φz、L、pitch、yawの6個(黄色地にオレンジ色の文字になっているところ)ソルバーを実行します。
残差が0あるいはそれに近い値になっていれば月との位置関係や月の向いている方向がちゃんと探し出せたはずです。
あとは写真に書き入れたいクレータを選択していきます。
“SVG”のシートにある青色のところをコピーしてメモ帳などに貼り付け“○○.svg”とsvgの拡張子をつけて保存します。
これを適当な画像処理ソフト(例えばGIMP)で月の写真にオーバーレイすればクレータ名入り月面写真ができあがります。
クレーター名の数が少なくてちょっとさびしいですが、上のExcelファイルで作った例です。
プラトン、ティコ、プリニウスの三つのクレータの位置を入れてソルバーを実行し、そのあとコペルニクスなど四つのクレータの画面上の位置を求めています。
(クリックすると拡大されます。もう一度クリックすると1000*750になります)
計算の原理
次のような座標系を考えます。
A. 撮影地(カメラ)を原点にした座標(地心が原点じゃないです)
x軸はカメラと月の中心を通る直線の方向、z軸はカメラのセンサーの縦軸
B. 月の中心を原点とした座標
x軸は上と同様です(向きが違います)、z軸は上と平行で同じ向き
月をB.の座標の原点を中心にx軸、y軸、z軸の周りに回転します。回転後のクレータの座標を求めます。
クレータの座標をA.の座標系での座標に変換します。
カメラのヨーとピッチを適用した上でクレータのセンサー上(=画像上の)の位置を求めます。
クレータの計算で求めた画像上の位置とセンサー上の位置が一致するような回転角等を決めます(ここでExcelのソルバーの機能を使っています)
あたらにクレータの経度・緯度を与えると上の結果を使ってそのクレータが画像上のどこに写るかを計算することができます。
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クレータのデータをIAUからまとめてもらってきたらこんなことができました。
「直径10km以上の全クレータ名入り月面写真」
例えば「雨の海」
2015年1月2日 23時51分の撮影
PENTAX Q7 スコープタウン 80mmφ f=700mm ISO400 1/400sec
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「クレーター名入り月面写真を作る - 座標回転の応用例」
「ダウンロード IMGP3788-Bullialdus.xls (127.0K)」
「月の座標原点と経度緯度が0度の地点」
「プラトンとその周辺 - 月のクレーター」
「ブッリアルドゥスとその周辺 - 月面のクレーター」
「月の秤動と月の自転軸」
「ケプラーとその従属クレーター - クレータ名入り月面写真」
「直径10km以上の全クレータ名入り月面写真」
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