月の秤動と月の自転軸
月の秤動が大きいことはよく知られています。秤動を数値的に表す方法としてL0、B0があります。
これは観測地から見た月の光学的中心の月面上の経度、緯度を示すものです。もしB0が正であれば月の自転軸(の北極側)が手前に傾いていることを、L0が正であればいつもより月の右側がよく見えていることを示します。
この数値は「国立天文台 - 暦計算室 - 暦象年表 - 月の自転軸」で調べることができます。このページは数値だけでなく図も表示されるので私の説明なんかよりずっとわかりやすいと思います。
ちなみに国立天文台の説明では
B0、L0は地球から見た月面の中点X0の月面緯度および月面経度です。
となっています。
この秤動を示す月の自転軸はじつは「クレーター名入り月面写真を作る - 座標回転の応用例」に書いた方法で写真から求めることができます。
今回は観測で求めたL0、B0と「国立天文台 - 暦計算室 - 暦象年表 - 月の自転軸」にあるL0、B0を比べてみます。
今回のExcelファイル
「ダウンロード IMGP7810.xls (135.0K)」
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「クレーター名入り月面写真を作る - 座標回転の応用例」では最初に定義した座標軸に対し自転軸がz軸と一致し月の中心と地球を結ぶ直線がx軸と一致している状態から考え始めます。
まずz軸の周りに回転させ、次にy軸の周りに回転させます。ということはz軸周りの回転角(の符号を変えたもの)がL0でありy軸周りの回転角(の符号を変えたもの)がB0ということになります。
2015年1月2日 23時51分JSTの写真の分析結果はこのようになっていました。
B0=5.59、L0=4.97 が得られました。
このときの実際のB0、L0を「国立天文台 - 暦計算室 - 暦象年表 - 月の自転軸」で調べてみます。
(この図は「国立天文台 - 暦計算室 - 暦象年表 - 月の自転軸」の実行結果です)
B0=5.49、L0=5.13となっています。あんまりいい一致ではないです。一致しない理由の一つとして国立天文台の示すB0、L0の値は地心から見たものであることが考えられます。月は天体としては地球のとても近くにあるので地心視差が大きいです。
地心のB0、L0から観測地のB0、L0を計算するというのもできるのですが、ここは「NASA JPL Horizons Web-Interface」を使って求めてみます。
(この図は「NASA JPL Horizons Web-Interface」の実行結果です)
今度はB0=5.65、L0=4.65となりました。これも一致していません。
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ちょっと予想と違う展開なのですが、冷静に考えてみれば計算に使っているクレーターの位置の中には0.1度の精度しかないものがあります。また大きさのあるクレータの(中心)位置の読み取りでは数ピクセルの誤差があるはずです。そういうことを考えると現在のやり方では0.1度の精度を確保することはムリっぽい気がします。
煩雑になるので省略しますが、ソルバーを実行するときB0、L0に相当する回転角を暦象年表あるいはHorizonsの値に固定しても残差はたいして変わりませんでした。つまりこのExcelで求めたB0、L0には残念ながら0.1度の精度はありません。
B0とL0を今以上の精度で求めるためにはクレータの位置を正確に読み取る工夫が必要なようです。
ただ0.1度の違いというのは月面上でいうと数kmでしかありません。現在の機材で現状以上の精度を求めるのは厳しそうです。
この記事を書いた後ちょっと考えてみたのですが、月の半径が場所によって違うというのも影響がありそうです。緯度経度からその地点の月の半径を求める式みたいなものがあれば確かめてみることができるのですが....
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秤動を具体的に示すため経度緯度0度の点(0.0N,0.0E)以外に月の光学的中心(暦象年表の説明に言う“地球から見た月面の中点X0”)と北極をO,Nとして緑色で表示してみました。
(二回)クリックすると拡大されます。
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クレーターの名称や位置については「- 月世界からの報告 -」とWikipediaの関連項目を参考にさせていただきました。ここに記し謝意を表します。
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「クレーター名入り月面写真を作る - 座標回転の応用例」
「ダウンロード IMGP3788-Bullialdus.xls (127.0K)」
「月の座標原点と経度緯度が0度の地点」
「プラトンとその周辺 - 月のクレーター」
「ブッリアルドゥスとその周辺 - 月面のクレーター」
「月の秤動と月の自転軸」
「ケプラーとその従属クレーター - クレータ名入り月面写真」
「直径10km以上の全クレータ名入り月面写真」
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