コルピッツ発振回路の発振条件と発振周波数 (1)
インダクタンスのわからないコイルをキャパシタンスのわかっているコンデンサと組み合わせて発振器を作りその発振周波数からインダクタンスを求めようというのが「インダクタンスの測り方 (3)」の趣旨でした。
ただもとまった値は以前の測定結果とは一桁も違うといういかにもあやしいことになっていました。いろいろ考えなければいけないことがあるのですが、まずコルピッツ発振回路の発振条件について考えます。
この記事の教訓
コルピッツ発振回路で発振に必要な増幅率が大きくなったときは気をつけた方がいい
より具体的な(定量的な)発振周波数の変化については
「コルピッツ発振回路の発振条件 - LCだけでは決まらない発振周波数」
「コルピッツ発振回路の発振条件 - LCだけでは決まらない発振周波数(2)」
「コルピッツ発振回路の発振条件 - LCだけでは決まらない発振周波数(3)」
にあります。この記事(発振条件等)とはあんまり関係ありませんが、トランジスタ版高周波用は
「コルピッツ発振回路と可変容量ダイオードで作る周波数変調回路」
です。
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使ったコルピッツ発振回路はオペアンプを使用したものです。詳しいことが知りたい方は金沢大学の先生(秋田純一のホームページ)が書かれた
「講義関連資料 - 第8回: 発振回路の演習」オペアンプを使うのは発振条件を計算で求めるとき考え方が単純だからです。
を見てください。
上のサイトは参照できなくなっています。こういうのがあります。
参考
「University of Pennsylvania - Practical Colpitts Oscillator Circuit」
(bachさんに教えていただきました)
前記事では端折ってしまったところを詳しく書きます。まず実験に使用した回路です。
実際に発振したときの回路定数を書き込んであります。可変抵抗は10k 47%つまり4.7kΩです。可変抵抗は発振し始めで安定に発振するくらいのところに調整してあります。
オペアンプはFET入力の072Dですが、FET入力であることにはあんまり意味はありません。バイアス電流をあんまり気にせずにすむとかボルテージフォロワーで使っても発振しないとかでよく使うので手元に予備がいつもおいてあるという程度の話です。
左側は単一電源から+/-電源を作るための回路です。あんまりよくないとは思うのですが簡単なのでついつい使ってしまいます(「オペアンプを単電源で使う方法 - 4」)
発振周波数は f = 1/(2π √LC) となるはずなので周波数とキャパシタンスから
L = (1/(2πf))^2 / C
でインダクタンスが求められるはずです(ここで 1/C = 1/C3 + 1/C4 です)
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上記の回路定数での発振周波数は1.13kHzでした。上の式からインダクタンスを求めることができます。
L = ( 1/(2*3.14*1130)^2 / ( 1.10e-6*1.01e-6 / (1.10e-6 + 1.01e-6 ) )
ですから
L = 38[mH]
ということになります。
値は求まったのですが何か“ヘン”です。測定対象のインダクターはどう見ても数百mHはありそうです。実際これまでの測定結果でもその程度のインダクタンスを示していました。
“ヘン”と言えば他にもおかしいところがあります。
上の回路の発振条件は引用した講義資料にあるように R3C4 = R1C3 です。C3≒C4ですから R1/R3 ≒ 1 ということになります。この R1/R3 というのはオペアンプ部分の増幅率です。
ウィーンブリッジ発振回路だったら増幅率 3、移相型発振回路だったら増幅率 29が必要ですが、コルピッツ発振回路が増幅率 1で発振するというのはいうまでもなくインダクターやキャパシターは電力を蓄えたり放出したりするだけで電力を消費することはないからです。
ところが上の回路の増幅率は 99 / 4.7 = 21 とかなり大きくなっています。つまりオペアンプの出力の20/21 が消費されてしまっていることになります。
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となるとコイルの等価直列抵抗(≒巻線抵抗)が原因で発振周波数が本来のものより大きくなっているのではないかという疑問が湧いてきます。
試しに5.1kΩの抵抗をコイルに直列に入れてみました。
可変抵抗3.6kΩで発振しました。つまり必要な増幅率が 28と高くなっています。そして発振周波数は 2.1kHzと高くなりました。
どうやら等価直列抵抗によって発振周波数が上がったという推理は正しかったようです。こうなると「オペアンプ(NIC)で負性抵抗を作る」で作った負性抵抗を使って実質的な等価直列抵抗を減らし発振周波数が下がるか試してみたくなりますが、今回は省略します。
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等価直列抵抗が原因で発振周波数が上がるとすると考えたとき、等価直列抵抗はその値そのものではなくコイルの持つリアクタンスとの関係(比)が重要なのではないかという考えも浮かんできます。
そこで今度は発振周波数をあげた場合どうなるか調べてみます。コンデンサーを1uFから0.01ufに変えます。キャパシタンスは1/100になったわけですから発振周波数は10倍になるはずです。
可変抵抗が8.8kΩで発振しました。必要な増幅率は11と半減しました。そして肝心の発振周波数は27kHzになりました。10倍になるはずの周波数がなんと24倍になっています。等価直列抵抗の値よりそれとコイルのインダクタのリアクタンスとの比が問題という“読み”は当たっていたようです。
なおこの発振周波数からインダクタンスを求めると 66mHになります。つまり1uFのコンデンサで測ったときに比べて二倍近く大きい値になってしまいました (^^;;
次の記事ではコイルの等価直列抵抗が発振周波数にどういう影響を及ぼすかを具体的に計算してみたいと思います。
(「コルピッツ発振回路の発振条件 - LCだけでは決まらない発振周波数」へ続く)
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関連
「記事一覧(天文、電子工作、測定)」
「インダクタンスの測り方・まとめ」
「ウィーンブリッジ発振回路の帰還量(増幅率)と波形の関係」
「オペアンプで作る移相型発振回路 (1)」
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参考
「University of Pennsylvania - Practical Colpitts Oscillator Circuit」
(bachさんに教えていただきました)
「迷走の果て・Tiny Objects - LCR回路の伝達関数を求める 」
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コメント
この記事へのコメントは終了しました。
なかなか思うようにいかないものなのですね^^;
これが楽しみでもあるのですね。
周波数の測定はgoldwaveで行うのです?
投稿: 惑 | 2015年1月19日 (月) 06時53分
インダクタンスの測定としては思うようにいっていないのは確かですね。
でも等価直列抵抗の影響で発振周波数が大幅に変化するようだと言うのは自分としては意外な発見で今は完全にそちらの方に興味が移っています (^^;;
GoldWaveは波形やだいたいの周波数の確認には使うのですが数値はDMMの周波数レンジで求めています。
投稿: セッピーナ | 2015年1月19日 (月) 09時14分
セッピーナさんのDMMだと周波数の精度はどれぐらいのものなのでしょう?
投稿: 惑 | 2015年1月19日 (月) 11時24分
通常
15.00Hz ~ 50.00kHzに対して±(0.04% rdg+ 4dgt)
ですね。
コンパレータを通したようなものだと
5.000Hz ~1.000MHzに対して ±(0.03%rdg+4dgt)
まで行けます。
投稿: セッピーナ | 2015年1月19日 (月) 13時09分
私のDMMと比べるとかなりの精度ですね(; ̄O ̄)
これならDMMだけで良さそうですね、、、
投稿: 惑 | 2015年1月19日 (月) 20時15分
0.04%とか0.03%というのは周波数測定の精度としてはあんまりよくない方だと思いますよ。
でもインダクタンスの測定とかだったらこれでもたぶんオーバースペックでしょう (^^;;
時刻/時間/周波数はいくらでも基準になるものがあるので必要だったらそういうものを利用して校正すればいいと思います。
投稿: セッピーナ | 2015年1月19日 (月) 21時19分