ダブラー(周波数逓倍器) - 四象限アナログ乗算器EL4083の使い方 - 3
「回路と動作確認 - 四象限アナログ乗算器(マルチプライヤー)EL4083の使い方 - 2」で作ったアナログ乗算回路を応用するといろんなことができます。今回はダブラーつまり入力された正弦波の周波数を二倍にする回路を考えます。
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原理はとても簡単です。アナログ乗算器の二つの入力に正弦波を入力するだけです。
入力を V*sin(ωt) とすると
Vout = V*sin(ωt) * V*sin(ωt) = k * V^2 * ( 1 - cos(2ωt) ) /2
= k*V^2/2 - k*V*cos(2ωt)/2
k は回路定数(とデバイスの特性)で決まる定数です
となります。
上の式の赤色の部分つまり出力の交流成分を見るとアナログ乗算器に入力された周波数の2倍の周波数の信号だけが出力に現れるということを意味しています。
左側の緑色の部分つまり出力の直流成分を利用する例は「ちょっと凝った交流電圧計(ミリバル)の作り方 - 1」にあります。
前記事で作成した回路を使ってやってみました。
まず正弦波の信号源ですが「PIC16F1705の8ビットDACを使って(実用的)正弦波発振器を作る - 1」で作ったものを利用します。
(だいたい)1200Hzのきれいな正弦波です。何度見ても惚れ惚れするくらいきれいな正弦波です (^^)
これを入力として使い入力と出力の波形を見てみます。
上段が入力、下段が出力です。
ちゃんと2倍の周波数になっています。サイン波の山の1も谷の-1も二乗されれば1になりますから一サイクルに一つしかなかった山が二つに増えることになります。
図を見て、0は二乗しても0のはずそうなってないではないか、と思った方は上に書いた式をもう一度ながめていただければと思います。
出力波形のスペクトラムも見てみます。
今度は2500Hzあたりにピークが来ていますがそれ以外にもいくつかの周波数に信号があります。まあこれは数学じゃないので仕方がないことでしょうか。目的によってこれでじゅうぶんというケースもあればフィルターを通さなければ使えないケースもあるでしょうが私としてはまあまあの結果だと思います。
入力された1200Hzが含まれていますがこのあたりは回路を調整すればもう少し小さくできるかもしれません。sin(ωt)*sin(ωt) のはずが (sin(ωt) + a)*sin(ωt) とか (sin(ωt) + a)*(sin(ωt)+b) とかなっているわけで少なくともオフセットが残っていればこうなるのは確実でしょう。
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もっと低い周波数でテストしたものもあります。
このスペクトラムは入力(緑)、出力(赤)がいっしょに表示されています。
本来入力された周波数の信号は出力されないはずですが、多少は残るのは上の1200Hzのときに書いたとおりです。この250Hzのケースではサンプリング周波数15kHzの信号がそのまま残っているようにも見えます。
でもそれは誤解です。出力のスペクトラムだけ見てみます。
つまりサンプリング周波数15kHzが出力されているのではなく15kHz±250Hzが出力されているわけですね。
なお回路はちょっと手直ししました。
バイアス電流はFETを使った定電流回路で与えるようにしました。
これで少しは安心して実験できると思います。
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「四象限アナログ乗算器(マルチプライヤー)EL4083の使い方 - 1」
「回路と動作確認 - 四象限アナログ乗算器(マルチプライヤー)EL4083の使い方 - 2」
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「ダブラー(周波数逓倍器) - 四象限アナログ乗算器EL4083の使い方 - 3」
参考
「intersil - EL4083 Datasheet」
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