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2015年2月 1日 (日)

四象限アナログ乗算器(マルチプライヤー)EL4083の使い方 - 1

アナログ乗算器というのは二つの入力の積が出力されるようなデバイスです。これには限りなく用途があります。前記事「複素数としての電圧・電流を測る方法 - 原理」もこれを使うことを想定しています。ググってみたらシンセサイザーに使うという目的も多いようです。

このEL4083は入出力が電流モードです。これを購入した秋月電子通商の製品紹介にも「4現象電流モード乗算器 EL4083CN」とあります。

もっともこの“4現象”というのは四象限の誤りでしょう。データシートには"Current Mode Four Quadrant Multiplier"とありますから。

この“四象限”ということには重要な意味があります。アマチュア的にアナログ乗算器を作ろうとすればダイオードとオペアンプを利用したログアンプ(とアンチログアンプ)を使えば(精度的にはともかく)どうにかなりそうです。でもそれでは入力電圧が正の範囲でしか動作しません。つまりこういう方法では“一象限”でしか動作しません。

いろいろ作ってみたいものがあって購入したのですが使うのは始めてなので基本的なところから試していきたいと思います。

====

概要

ピンが8個あります。説明の都合上ピン番号の順番ではないです。

6. VCC
2. GND
4. VEE

四象限なので正負の電源が必要です。VCCがプラス側、VEEがマイナス側です。
電源電圧範囲は±4.5V~±16.5Vです。私は±9V~±12Vくらいで使うことになりそうです。
設定によってはかなり電流が流れますので電源には注意します。バイアス電流に対する消費電流の計算式がデータシートにあります。
  IS+ = 3.4mA + IZ × 26
  IS- = 4.5mA + IZ × 27
(標準的な?)バイアス電流が1.6mAのとき50mA近くなります(常に50mAなのか最大50mAなのかは未確認です)
電源電圧にこの電流をかけたものが消費電力なのでとっても熱そうです (^^;;


1. IX IN
3. IY IN

二つの入力ピンです。X INでもなくVx INでもなくIX INなのは電流を入力するからです。電流モードと言っても際限なく電流を流せるわけではありません。絶対最大定格は±2.4mAなので注意します。また入力電流はバイアス電流の1.25倍までというような制約もあります。

5. IXY OUT
7. /IXY OUT

差動出力になっています。これも電流モードです。

具体的なことは今後の記事で書いていく予定ですが、電流モードの場合は電圧モードの場合と逆で、前段の出力抵抗を十分大きくし後段の入力抵抗をできるだけ小さくすることが必要です。

8. Z

バイアス電流の入力ピンです。ふつうVCCに抵抗を介して接続します。
このピンも絶対最大定格は2.4mAです。

出力電流の計算式はこうです。

  (IXY - /IXY) = IX * IY / Z (実際はこれに係数Kがかかります。Kは1に近い値です)

これを見るとZが演算の一つの変数として使えるようにも見えますが、Zの目的はデバイスの動作条件を決めることにあります。

と書いてしまったのですがメーカーの回路例を見ていたらZを使って割り算をやっているものがありました。すみません m(._.)m

100MHzを超えるような周波数帯で使用するときは電源電圧を±5Vに下げてバイアス電流1.6mAで使い、そうでないときは適時バイアス電流を逓減して必要に応じた(そして許容できる電力損失の範囲内で)電圧で使うということのようです。(データシートの電気的特性には±5V、バイアス電流1.6mAという条件と±15V、バイアス電流0.2mAという条件が使われていました)

いずれにしてもバイアス電流は動作結果や演算結果に大きな影響を与えますので注意が必要です。定電流源を使うというのがいちばんいいような気がします。

仮にバイアス電流が0.5mAとした場合、IX=0.4mA、IY=0.3mAであれば

  IXY - /IXY = 0.4mA * 0.3mA / 0.5mA = 0.24mA

の出力が得られることになります。

次の記事で実験に使っている具体的な回路を示したいと思います。

  ==> 「回路と動作確認 - 四象限アナログ乗算器(マルチプライヤー)EL4083の使い方 - 2

-------

関連

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コメント

四象限アナログ乗算器で調べていたら、すぐにここにたどり着きました。
答えは身近にあるのですね^^;

ちょっと試すには高価なデバイスですね、、、

ふだん使うデバイスと比べるとけっこう高価な買い物になりますね。
でも、他のものではぜったいに代替できないデバイス、と言えると思います。例えば変調をする方法はいくらでもあるのですが、掛け算ができるものとなるとこんなものしかないと思います。
“複素数としての電圧・電流を測る方法 ”もこれなしでは作れなかったです。

先生アドバイスをお願いしますm(._.)m

今、コメントしておきました。

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