ベクトル電圧計の製作に向けて - 交流電圧計(ミリバル)
以前「交流電圧計(ミリバル)の簡単な作り方」という記事を書きました。これは文字通りほんとうに簡単で必要なものは
オペアンプ 1個
ダイオード 4個
抵抗とコンデンサー 少々
だけで材料費も手間もほとんどかからないという代物でした。
今回作るミリバルはこれに比べると部品点数も多いしその分手間がかかるし材料費もずっと必要というものです。ただ時間とお金をかけるだけの値打ちはあると思います。
なおこの記事では二つの入力に同じ信号を与えていますが、別の信号を与えることによって位相を考慮した電圧を測定することができます。
「複素数としての電圧・電流を測る方法 - 原理」
「インダクタ(コイル)の複素インピーダンスを測ってみた」
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説明を書く前にこれまで話題にした交流電圧計と今回作る交流電圧計__アナログ乗算器方式__の特徴を表にしてみます。
方式 | 精度・直線性等 | 測定可能周波数 | 備考 |
DMM ---- (例) PC700 |
メーカーや型番によります ------ 測定: 平均値 表示: 正弦波と仮定したときの実効値 |
数十Hz~数十kHz程度 ------ 40Hz~20kHz |
それなりのお値段になりますが安心して使うことができます。 1kHz以上の交流電圧を測定できるDMMは高価です。 |
オペアンプ+ダイオード | 直線性は良好です。 フルスケールで校正すればだいじょうぶでしょう。 測定: 全波整流波形の直流分 表示: 正弦波と仮定したときの実効値 |
数十Hz~100kHzくらい オペアンプの特性に依存します。 |
コストパフォーマンスは抜群です。 PIC等でデジタル化するときは電源部分のアイソレートが必要です(あるいは差動増幅器の利用が必要になります) 「交流電圧計(ミリバル)の簡単な作り方」 |
オペアンプ+ダイオード (シングルエンド出力) |
〃 | 〃 | 上をシングルエンド出力にしたものです。回路はちょっと複雑になりますが測定結果をADコンバータで読み込むというようなことが楽にできるようになります。 「一歩進んだ交流電圧計(ミリバル)の製作 - 1」 |
高周波電圧計方式 | 低電圧領域での直線性がなく多点での校正が必要です。 測定: 尖頭値 表示: 正弦波と仮定したときの実効値 |
部品や実装に注意すればGHzでも測定可能です。 | 比較的簡単に作れますが調整(校正)が手間でしょう。 「交流電圧計(ミリバル)を作る - 高周波電圧計 - 1」 |
アナログ乗算器方式 | 直線性は比較的いいです。 フルスケールで校正すれば十分でしょう。 表示値を実効値にするには“対策”が必要です。 測定: 実効値 表示: 実効値(の自乗) |
~数十MHz(?) | けっこう手間ですが広い周波数範囲で実効値測定ができます。 |
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じつは作り方はもう記事にしています。
「回路と動作確認 - 四象限アナログ乗算器(マルチプライヤー)EL4083の使い方 - 2」
この回路の二つの入力に測定したい交流・高周波を与えます。
入力が正弦波 V * sin(ωt) のとき出力はこのような式で表されます。
Vout = V*sin(ωt) * V*sin(ωt) = k * V^2 * ( 1 - cos(2ωt) ) /2
= k*V^2/2 - k*V*cos(2ωt)/2
「ダブラー(周波数逓倍器) - 四象限アナログ乗算器EL4083の使い方 - 3」ではこの式の赤色のところを使ったわけですがミリバルでは左側の緑色のところつまり出力の直流成分を使います。
入力の正弦波成分に対しVは実効電圧の√2倍であることを考えると sqrt(Vout/k) で入力信号の実効電圧を求めることができます。
「回路と動作確認 - 四象限アナログ乗算器(マルチプライヤー)EL4083の使い方 - 2」にある回路で言えばkは次のような式で表されます。
k = ( 1 / 前段のオペアンプの帰還抵抗 ) ^ 2
/ ( Vcc / バイアス電流設定抵抗 )
* 後段のオペアンプの帰還抵抗 * K
「ダブラー(周波数逓倍器) - 四象限アナログ乗算器EL4083の使い方 - 3」にあるようにバイアス電流を定電流源にしている場合は
k = ( 1 / 前段のオペアンプの帰還抵抗 ) ^ 2
/ ( バイアス電流 ) * 後段のオペアンプの帰還抵抗 * K
となります。
実際に作った回路のkの具体的な値は電圧はV、電流はmA、抵抗はkΩで表すものとすると
k = (1/19.6 ) ^ 2 / 0.328 * 19.9 * 0.95 = 0.150
です。
実際に入力電圧を変化させながら出力電圧を測定し、その出力電圧から上の式 sqrt(Vout/k) つまり sqrt(Vout/0.150) で計算した測定値と実際の入力電圧を比較してみました。
入力電圧 [Vrms] |
出力電圧 [VDC] |
測定値 [Vrms] |
1.549 | 0.362 | 1.55 |
1.484 | 0.333 | 1.49 |
1.381 | 0.289 | 1.39 |
1.200 | 0.218 | 1.21 |
0.997 | 0.1516 | 1.01 |
0.858 | 0.1125 | 0.87 |
0.671 | 0.0693 | 0.68 |
0.480 | 0.0356 | 0.49 |
0.358 | 0.0210 | 0.37 |
0.234 | 0.0088 | 0.24 |
0.087 | 0.0016 | 0.10 |
グラフにしてみました。
青い線が測定値、赤い一点鎖線はy=xの直線です。青い線が赤い一点鎖線によく一致しているほど正確ということになります。
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この方法の問題は出力電圧をkで割り平方根を計算することによって測定値を求めていることです。実用的に使うためには測定値をそのまま読み取れることは必須でしょう。
方法はいくつか考えられます。
1. (アナログメーターを使う場合)
目盛りを測定値を表示できるように書き換えます。高周波電圧計でも使われる(使われた?)方法です。
2. (DMMを使う場合)
これはどうしようもないでしょう。電卓片手に計算します。
3. (PIC等で表示部分を作る場合)
PICで計算した値を表示すれば済みます。PICの場合XCコンパイラを使えば平方根の計算もできます(「PICで平方根 - 白金薄膜抵抗で温度を測る」)
4. (出力電圧自体を実効値にしてしまう)
これはアナログ乗算器とオペアンプでできそうです。メーカーの回路例にもありました。
(実際に作っている回路については「ベクトル電圧計の製作と調整 - 交流電圧計(ミリバル)」にあります)
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「DMM交流電圧の周波数特性を調べてみた」
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「四象限アナログ乗算器(マルチプライヤー)EL4083の使い方 - 1」
「回路と動作確認 - 四象限アナログ乗算器(マルチプライヤー)EL4083の使い方 - 2」
「ダブラー(周波数逓倍器) - 四象限アナログ乗算器EL4083の使い方 - 3」
「アナログ乗算器EL4083ので作った交流電圧計(ミリバル)の周波数特性 - 1」
参考
「intersil - EL4083 Datasheet」
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コメント
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うわ~、これ欲しいです。
回路図とプログラムが掲載されたらよく読んで作ってしまいそうです。
アナログ乗算器の使い方が難しそうですがわからないことは聞けそうなので完成したも同然の気がします^^。
投稿: ほよほよ | 2015年2月 4日 (水) 09時04分
はい、これけっこう手間ですが広い周波数帯で比較的正確に電圧を測れそうでそこが魅力です。
ほんとに10MHzとか20MHzとかが音声周波数と同じように測ることができたらプレミア感(?)があると思います (^^)
3.方式をつくる部品はもう用意してあるのですが、その前に4.方式を試してみようかと思っています。
投稿: セッピーナ | 2015年2月 4日 (水) 10時05分