インダクタ(コイル)の複素インピーダンスを測ってみた
インピーダンスというのはもともと複素数ですから複素インピーダンスという表現はおかしいようにも思いますがインピーダンスの絶対値のこともインピーダンスというので区別する意味で複素インピーダンスと書きます。
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先日「複素数としての電圧・電流を測る方法 - 原理」の記事で複素数としての電圧・電流の測り方を書きました。これを実際に行うためには二つのものが必要です。
一つは位相が90度異なる信号源です。これは「PIC16F1705の8ビットDACを使って(実用的)正弦波発振器を作る - 1」で作りました。もう一つは交流信号の掛け算を行うものです。これは「回路と動作確認 - 四象限アナログ乗算器(マルチプライヤー)EL4083の使い方 - 2」で作りました。つまり準備が整ったわけです。
そこで実際にインダクタの端子電圧と流れる電流からインダクタの(複素)インピーダンスを求めてみました。
この方法はADコンバーターとPICを使えば複素インピーダンスを表示できるインピーダンスメーターを作ることができます。
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測定方法自体はいたって簡単です。「インダクタンスの測り方 (2)」と同じです。
測定方法は「コンデンサーの容量と誘電正接(tan δ)を測ってみた」にある説明の方がわかりやすいと思います。記事が雑ですみません。
図を流用してしまったので測定条件は図とはちょっと違います。信号源は1249Hz、1.511Vの正弦波です。測定用に同一周波数・電圧で位相が90度異なる信号源をもう一つ用意してあります。R1は実測988Ωの抵抗を使っています。
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今回はR1の電圧をDMMではなく「ちょっと凝った交流電圧計(ミリバル)の作り方 - 1」で作ったものを使って測ります。XにはR1の端子電圧を入力し、Yには位相の異なる二つの信号源を使います。この“電圧計”の出力電圧は X * Y * 0.15[V] になるように回路定数を設定してあります。
信号源には「PIC16F1705の8ビットDACを使って(実用的)正弦波発振器を作る - 1」を使うのですが直流分は完全にカットしておく必要があります。また出力電圧を測定するときは交流分をカットします。
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まずX,Yの両方に同一の信号源の正弦波を接続し電圧を測ると0.3443[V]でした。
√(0.3443 / 0.15) = 1.515
ですから信号源の電圧は1.515[V]ということになります。DMMで測った電圧とは最後の桁が異なるだけですのでそのまま実験を進めます。
実際にはこの前にX and/or YをGNDに落として指示が0[V]になるかとかX.Yに位相が90度異なる正弦波(つまり正弦波と余弦波)を入力して指示が0[V]になるかといったことをチェックし(回路図では省略しましたが)オフセット調整をするのですが、煩雑になるのでその話は別の記事にします。
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まずXにR1の端子電圧、Yに正弦波を入力して電圧を調べると0.2013[V]でした。またYを余弦波にすると-0.1291[V]でした。
0.2013 / 1.515 / 0.15 = 0.886、 -0.1291 / 1.515 / 0.15 = -0.568
から抵抗R1の端子電圧が 0.868-0.568j[V]であることがわかります。これをR1の抵抗値0.988[kΩ]で割るとR1を流れる電流、つまりインダクターを流れる電流がわかります。
これは 0.897-0.579j[mA]となります。
信号源電圧 1.515+0.000j[V]から抵抗R1の端子電圧0.868-0.568j[V]を引いたものがインダクターの端子電圧です。これは0.629+0.568j[V]です。
インダクターの端子電圧 0.629+0.568j[V] を流れる電流で 0.897-0.579j[mA] で割ったものがインダクターのインピーダンスです。これは 206+766j[Ω] となりました。
虚数部分はプラスですから誘導性であることを意味しています。インダクターですから当たり前ですが。
信号源の周波数が1249[Hz]であることからインダクタンスを求めます。
766 / 2 / π / 1249 = 0.098
結局このインダクターは98[mH]のインダクタンスと206[Ω]の等価直列抵抗を持つことがわかります。
メーカーのサイトでこのインダクタLHL10NB104Jのデータを調べて見たところ
L=100[mH]±5% 直流抵抗 240[Ω] (Lの測定周波数は1kHz)
となっていました。
まあまあの測定結果だと思います。
<== その後別の方法で測定してみたところほとんど変わらない結果が得られました。
「インダクタンス測定法 - LC並列共振周波数測定装置」
メーカーのサイトには“直流抵抗“とありますが、このインダクターの巻線抵抗は170[Ω] 195[Ω]でした。だから直流抵抗というのは等価直列抵抗のことを言っているのだと思います。このあたりの用語の使い方は私はよくわかっていなくて.... (^^;;
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「インダクタンスの測り方・まとめ」
「四象限アナログ乗算器(マルチプライヤー)EL4083の使い方 - 1」
「回路と動作確認 - 四象限アナログ乗算器(マルチプライヤー)EL4083の使い方 - 2」
「ダブラー(周波数逓倍器) - 四象限アナログ乗算器EL4083の使い方 - 3」
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コメント
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すごいですね^^。
この計算式をPICに実装して、LCDに「206+776j Ω」なんて表示されたらかっこいい~
(Ωは表示できたかな?登録すべきかも)
投稿: ほよほよ | 2015年2月 5日 (木) 12時55分
98mH 206Ω at 1249Hz
の方がかっこよくありませんか (^^;;
あれ、周波数カウンターも要りますね (^^)
投稿: セッピーナ | 2015年2月 5日 (木) 13時45分