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2015年3月23日 (月)

ベクトル電圧計の製作と調整 - 交流電圧計(ミリバル)

ベクトル電圧計は位相の90度異なる発振器と位相を検出できる交流電圧計が必要です。これについては原理も含め何度か記事も書いたのですがここでは電圧計部分の作り方や調整について詳しく書いてみます。

位相の90度異なる発振器の作り方は
  「PIC16F1705のDAコンバータを使った正弦波発振器(発生器) - 改良版
にあります。

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まず原理については「複素数としての電圧・電流を測る方法 - 原理」に書きましたので必要な方はそちらを参照していただければと思います。

回路は「回路と動作確認 - 四象限アナログ乗算器(マルチプライヤー)EL4083の使い方 - 2」に書いたものをベースにしていますが実用的な面を考え少し手直ししました。
3fet

手直ししたのは次の各点です。

出力はXYと/XYの差動電流出力なのですが、これをシングルエンドの電圧出力に変換するようにしました(ただこの回路はEL4083CNの出力を高い抵抗で受けているという点であまりよくないです。四象限アナログ乗算器EL4083CNで作る交流テスター - 周波数特性(1)にあるような回路が正統的です。それから交流分をカットしたい場合はEL4083CNの出力端子とGNDの間にコンデンサーを入れます。これはEL4083CNが電流モードだからできることです

バイアス電流はFETを使った定電流源にしました。

オフセットの調整ができるようにしてあります。R9、R10、R11はすべて手元にあった2MΩを使っていますが、これはデータシートに計算式があるので正確にやりたい方はちゃんと計算した方がいいと思います。データシートにある図ではR9はXY、/XYの両方に接続するのですが、それだとおかしいような気がします。勝手にXYだけに接続することにしました。

電圧モードの方が使いやすいので電圧を電流に変換するためのボルテージフォロアが入れてありますが1MHzを超えるような周波数の信号を扱うときはバッファは入れないほうがいいのでジャンパーをはずせば電流モードで動作するようにしてあります。

もっとも今回の回路設計では数MHzあたりが限度だと思います。数十MHzあるいはそれ以上でも使いたい場合はバイアス電流をもっと大きくする必要があります(現在は100μAくらいです)
なぜそうしていないかというとバイアス電流を大きくするとデバイスの消費電力が爆発的に増えるからです。熱いのはいやです (^^;;


実際に作ったものの写真です。まず表面です
Imgp92161000

今回は配線はすべてスズメッキ線とポリウレタン線で行っています。ビニール線っぽいのはスズメッキ線を(配線の極性がわかるように)被覆したものです。

裏面も今回はすっきりしています。これまで実装密度を上げるためいろいろやっていましたが、配線もたいへんですしあとあと手直しするときもめんどうです。ある程度余裕をもって作った方がよさそうです。
Imgp92171000

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できあがったらまずオフセットを調整します。というかオフセット調整は使う前には必ずやった方がいいと思います。

1. 入力ピンを二つともグランドに落とします。もし出力電圧がゼロでないときはR5を調整して出力がゼロになるようにします(出力オフセットの調整)

2. Y入力ピンに適当な電圧(上の回路図だと2V前後)を与え出力電圧がゼロになるようにR7を調整します(X入力ピンがグランドに落ちているときはXYもゼロになるはずです)

3. Y入力ピンをグランドに落としX入力ピンに適当な電圧を与え出力電圧がゼロになるようにR8を調整します(Y入力ピンがグランドに落ちているときはXYもゼロになるはずです)

以上の三つの操作を可変抵抗を調整しなくてもどの状態でも常にゼロが表示されるようになるまで繰り返します

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実際に使うときは入力と出力の関係を知っておく必要があります。回路定数から計算はできるのですが厳密にはちょっと違ってきます。実用的にはこんな方法がいいと思います。

1.  X、Yに同じ電圧(直流)を与えます。この電圧は可変抵抗などで変化できるようにしておきます。

2. 入力ピンと出力ピンの間に電圧計(DMM)を入れ電圧がゼロになるように入力電圧を調整します。

3. 入出力の電圧差がゼロになったときの入力電圧(あるいは出力電圧)を調べます。この電圧をE0とします。

入出力の関係は次の式で与えられます。

  出力電圧 = Xの入力電圧 * Yの入力電圧 / E0

XとYの両方に同じ信号源をつないで交流電圧計として使うとき、出力電圧から入力電圧(測定対象電圧)を求める式はこうなります。

  入力電圧 = √( 出力電圧 * E0 )

ちなみに上で作った回路では E0=2.037V でした。これはバイアス電流(IZ)が100μAであることを意味しています。

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関連
  「記事一覧(測定、電子工作、天文計算

  原理
    「複素数としての電圧・電流を測る方法 - 原理
    「ちょっと凝った交流電圧計(ミリバル)の作り方 - 1
    位相の90度異なる発振器
      「PIC16F1705のDAコンバータを使った正弦波発振器(発生器) - 改良版

  アナログ乗算器とその使い方
    「「四象限アナログ乗算器(マルチプライヤー)EL4083の使い方 - 1」」
    「回路と動作確認 - 四象限アナログ乗算器(マルチプライヤー)EL4083の使い方 - 2
    「ダブラー(周波数逓倍器) - 四象限アナログ乗算器EL4083の使い方 - 3

  ベクトル電圧計の応用
    「コンデンサーの容量とESR・誘電正接(tan δ)を測ってみた
    「インダクタ(コイル)の複素インピーダンスを測ってみた

  特性
    「交流電圧計(ミリバル+高周波電圧計+ベクトル電圧計)の周波数特性

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