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2015年3月30日 (月)

キャパシタンスメータを作る - ESR・誘電正接の測定精度

LCRメータを自作しようというのですからキャパシタンス(静電容量)とESR・誘電正接(tan δ)も測れなければなりません。
このESRというのがなかなかの難物です。例えば0.1μFのコンデンサを1kHzで測定するときリアクタンスは1kΩを超えますがこれに対してESRはわずか数Ωしかありません。こういう小さい値を実際に測定できるものなのか試してみました。

なおESRについては

  「誤解している人が多そうなコンデンサの“ESR”の意味

に簡単に説明しています。

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やり方は「LCRメータの製作に向けて - 自動平衡ブリッジの測定精度」と同じなのですが、今回は純抵抗ではなくインピーダンスの測定ですので正弦波余弦波発生器・自動平衡ブリッジ・ベクトル電圧計の機能をフルに使います。自動平衡ブリッジのところの回路はこうなっています。
C

まずS1を上に倒し、1kΩ(±0.1%)の抵抗(A)と0.1μFのメタライズドPPSフイルムコンデンサ(B)のインピーダンスを測定します。これから1kΩを引けばコンデンサのインピーダンス(つまりキャパシタンスとESR)が求まります。

次にS1を下に倒します。こうするとさらに1Ωが追加されます。これで測定するとESRが1Ω増えるはずです。これが検出できるかどうかを確かめてみます。

1kΩがなければもっと簡単に測定できるはず。確かにそうなんですが、このことについては後で書きます。

5回やってみました。結果はこうなりました。

0.1uF+1kΩ 0.1uF+1Ω+1kΩ
静電容量[nF] ESR[Ω] tan δ 静電容量[nF] ESR[Ω] tan δ ESRの差[Ω]
オフセット
調整
1回目 99.3 0.9 0.001 99.3 1.9 0.001 1.0
2回目 99.2 1.2 0.001 SDカード
書込エラー
--- --- ---
オフセット
調整
0.001 1.0
3回目 99.2 3.3 0.003 99.3 4.6 0.004 1.3
4回目 99.1 1.7 0.001 99.3 2.7 0.002 1.0
5回目 99.1 1.7 0.001 99.1 2.6 0.002 0.9

1Ωの差を検出できたのか?
よくわかりません。“1Ωなしで測定しそのあと1Ω追加して測定”と実験であればESRが増加するのははっきりわかります。ただESR自体の測定結果にはばらつきがあります。
とくに3回目が問題でどうしてこういう結果が出たか理由がわかりません。ただ測定データを見るとESRの1Ωの変化は0.4662Vだった測定値が0.4666Vに変化するというようなものすごく微妙な変化です。
今回の方法ではESRの測定に関しては1Ωの分解能はあるが±1Ωの確度はない”というのが結論でしょうか。

その後精度が上がるように回路定数を変え、計算方法をより厳密にして実験してみたところ上で測定対象にしているコンデンサのESRは5Ω程度という結論になりました。上の結果で言えばいちばん正しい値に近いのは3回目のものですが、ただこれは正しいというより“まぐれ”というべきでしょう。LCRメータについては解決すべき課題が多いです。 <=== ESRの正しい値、というのが何かというのがまだ検討不十分と思われます。値が正しい正しくないというより実験条件が適切にコントロールできていないというのが結果が違ってくる原因のようです。このことについてはあらためて記事を書きたいと思います。

静電容量とESRは“ベクトルの向きが違う”のでリアクタンスがESRよりずっと大きくてもESRの測定はそんなに難しくないはずです。測定が難しくなっている原因はAの抵抗にあります。これは1kΩありますから1Ωの違いというのは0.1%の違いしかありません。
測定に使っている電圧計(ADコンバータ)の分解能は測定対象の電圧では0.01%くらいありますがさすがにこれは容易ではありません。

Aの1kΩの抵抗を入れてあるのは二つ理由があります。
一つは使っているオペアンプ(TL084CN)の出力可能電流はあまり大きくなく出力電流を制限するためです。最初LM324を使っていたのですが、それだと出力電流が足りず上の回路でもダメでした。

もう一つはオペアンプの負荷を容量性にしないためです。じつはこのオペアンプの場合どういう制限になっているのか調べていないのですが常識にしたがってこうしています。

この二点を解決できればESRの1Ωくらいの違いはもっと楽に検出できると思われます。

とは言え静電容量は5回ともほぼ同じ数値を示しています。このコンデンサーはデータシートによれば100nF±2nF tanδ 0.006以下、DMM(三和電気計器 PC700)で測定した容量はは99.1nF±1.1nFであることを考えるとキャパシタンス自体はちゃんと測れているようです。
今回は許容範囲が0.1%の金属皮膜抵抗をインピーダンスの基準となる抵抗として使っていますので静電容量の測定に関しては0.1%近い確度も期待できるともいます。

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測定結果(太い赤字)から結果(青い太字)をExcelで求めているところ。
けっこう複雑なので詳しい計算方法はあらためて別の記事で書きます。
もっともいくら複雑でも実際にキャパシタンスメータを作るときはぜんぶPICで計算しますからだいじょうぶです。
C_2

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全体のブロックダイアグラム
(左下の黄色いブロックの部分が上の回路図に相当します)
Photo
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関連

測定全般
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