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2015年3月14日 (土)

コルピッツ発振回路の発振条件 - LCだけでは決まらない発振周波数

コルピッツ発振回路というのがあります。こんなのをよく見かけます。
Colpits_inv_

(この回路もそうですが)コルピッツ発振回路にかぎらずLC発振回路の発振周波数はコイルのインダクタンスとコンデンサのキャパシタンスから算出される共振周波数になると思っている方も多いようです。じつは私も最近までそう思い込んでいました。

先日「インダクタンスの測り方 (3)」に書きましたがキャパシタンスがわかっているコンデンサとインダクタンスがわからないコイルでコルピッツ発振回路を作り発振周波数からインダクタンスを求めようとしたら妙に小さい値になりました。つまり予想される発振周波数より高い周波数で発振していたのです。

よくよく考えたらコルピッツ発振回路の発振周波数はLCの値だけでは決まらないということに気づきました。必要以上に増幅率が大きかったとかいうようなことより以前の問題がありました。

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ここでは考えやすくなるようにオペアンプ(理想的な増幅器)を使ったコルピッツ発振回路を想定します。

Esrofinductorcircuit
0.1μFのコンデンサ二個と1mHのコイルからなるコルピッツ発振回路です。発振周波数は

  1/(2*pi()*sqrt(1e-3 * 0.1e-6 / 2)) = 22,508[Hz]

になるはずです。(実際R3が十分大きくR2がそんなに小さくないならば)この回路の発振周波数を計算してみるとちゃんと22,508Hzになります。

ところでR2は何のために入っているか、どういう値にすればいいのか、意外とこれをちゃんと説明しているものがないようです。金沢大学の先生(秋田純一のホームページ)が書かれた「講義関連資料 - 第8回: 発振回路の演習」にも説明がありませんでした。
ただこの講義資料にある


<==== このサイトは参照できなくなっています。下の参考リンクにコルピッツ発振回路の詳細な説明があります。

参考
  「
University of Pennsylvania - Practical Colpitts Oscillator Circuit
     (bachさんに教えていただきました)


この資料の回路は電流源にRの負荷がある形なので、電圧源にRの内部抵抗があると考えれば上の回路(のR2)と同じになります。ただR3に相当するものは(抵抗値が大きいことを前提に)ない形になっています。
この場合発振周波数はRに無関係に決まりgmR > C2/C1が発振条件です。gmRは増幅率でありC2=C1であれば増幅率 > 1が発振条件ということになります。

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ここからが本題です。
コイルは現実には純リアクタンスということはなく(等価)直列抵抗(ESR)を持っています。これが周波数が変わってしまう原因になります。

R3=10MΩ、R2=1kΩの条件でコイルの直列抵抗は変化したときの発振条件を調べてみました。R3を大きくしているのはLC共振回路に影響を与えないようにするためです。R2は上に書いたように(突拍子もなく小さい値でなければ)何Ωでもほとんど関係ないです。

Esrofinductor

1mHのコイルだと抵抗分は数Ω~十数Ωだと思います。それでも目に見えて発振周波数が変化します。抵抗分が30Ωもあると発振周波数が1%近くあがってしまいます。

このコイルの抵抗分で周波数が上がったとき発振に必要な増幅率も変化します。
コルピッツ発振回路はLCで構成されているので本来エネルギーの損失はなく増幅器に要求されるの位相を逆転させることだけですが、コイルに抵抗分があると損失が発生し必要とされる増幅率も増えて行きます。

上にR2の抵抗値はいくらでもかまわないと書いたのですが、このコイルの抵抗分で発振周波数が変化するようなときはそうでもなくなってきます。
(このことについては「コルピッツ発振回路の発振条件 - LCだけでは決まらない発振周波数(3)」で書きます)

つまり増幅部分の増幅率を大きくしないと発振しないとかR2を小さくしないと発振しないという状況になったら発振周波数がLC共振周波数から離れてしまっている可能性が高いです。

引き続きコンデンサのESRやR2やR3の値が発振周波数にどう影響するのかを調べていきたいと思います。

なお、この計算に使っているExcelファイルはこの後に書く記事(「コルピッツ発振回路の発振条件 - LCだけでは決まらない発振周波数(2)」)でダウンロードできるようにしますがだいたいの計算のやり方を書いておきます。

オペアンプのVin-は接地されていると考えることができますのでR3とC4は並列になっていると考えることができます。R3とC4の並列合成インピーダンスを XC4//R3とします。
これとL1は直列になっていますのでL1、C4、R3の合成インピーダンスは XL1+XC4//R3ということになります。
これとC3が並列になっていますのでC3から右側のインピーダンスはC3//(XL1+XC4//R3)となります。
この部分とR2が直列になったものがオペアンプの出力に接続されていますのでR1に流れる電流は(オペアンプの出力を1とすると) iR1 = 1/(R2+XC3//(XL1+XC4//R3)) です。
C3の両端の電圧はオペアンプの出力からR2の電圧降下を引いたものなので vC3 = 1-R2*iR1 です。
この電圧をL1から右のインピーダンスで割るとL1に流れる電流がわかります。
これは iL1 =vC3 / (L1+XC4//R3)です
。C3の端子電圧からL1での電圧降下を引くとC4の端子電圧が求まります。 vC4 = vC3 - XL1 * iL1 となりますが、これが反転増幅器の入力電圧です。
この電圧の位相が180度になるような周波数を求めればそれが発振周波数になります。
そしてそのときのvC4の逆数が発振に必要な反転増幅器の増幅率です。

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続編
  「コルピッツ発振回路 - LCだけでは決まらない発振周波数(2)
    同様にコンデンサのESRの影響を調べます。
  「コルピッツ発振回路の発振条件 - LCだけでは決まらない発振周波数(3)
    出力に入っている“R2”の意味と発振条件に及ぼす影響について考えます)

関連記事

  記事一覧(測定、電子工作、天文計算)

  「インダクタンスの測り方・まとめ
     「インダクタンス測定法 - LC並列共振周波数測定装置
     「コンデンサーの容量とESR・誘電正接(tan δ)を測ってみた

参考
  「
University of Pennsylvania - Practical Colpitts Oscillator Circuit
     (bachさんに教えていただきました)
  「
迷走の果て・Tiny Objects - LCR回路の伝達関数を求める
  「迷走の果て・Tiny Objects - LCR回路の伝達関数を求める(2)
  「
迷走の果て・Tiny Objects - LCR回路の伝達関数を求める(3):そろそろ限界かも・・・。
  「
迷走の果て・Tiny Objects - LCR回路の伝達関数を求める(4):これでおしまい(多分)

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コメント

初めまして。偶然にも、セッピーナさんと同時期に同じような問題にあたっていました。コルピッツ発振器の増幅度をパラメータとして、発振に至るゲインを求めるようなことをしていました。引き続き、関連記事を期待しています。

コメントありがとうございます。
教科書みたいなのは回路を単純化して書いてあるのでこういう現実の問題にあたったとき困りますよね (^^;;
1を書いたままそのままになってしまっていましたが、コメントをいただいたので続きをがんばって書いてみたいと思います。

この記事へのコメントは終了しました。

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