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2015年3月29日 (日)

LCRメータの製作に向けて - 自動平衡ブリッジの測定精度

インダクタンスやキャパシタンスを測るためのLCRメータの製作を進めているのですが、困った問題があります。コイルもコンデンサもインダクタンス・キャパシタンスの許容範囲は2%だったらいいほうでせいぜい5%というところでしょうか。
つまり測ったはいいもののそれが正しいのかよくわからないということになりかねません。

測定精度の検証方法をいくつか考えているのですが、今回はもっとも簡単な抵抗を使った検証です。

このようなブロックダイアグラムで測定を行ってみました。
Photo_2

正弦波出力を自動平衡ブリッジ(オペアンプで作った非反転増幅器で入力抵抗を測定対象の抵抗にします)の入力電圧と出力電圧の関係から測定対象の抵抗の抵抗値が計算できます。

直流ではなく交流でやるのはこれがLCRメータのためのテストだからです。ふつうの交流電圧計ではなくベクトル電圧計を使うのも同じ理由です。

LCRメータのときはベクトル電圧計に自動平衡ブリッジの出力と正弦波・余弦波のいずれかを入力して使うわけですが、今回はベクトル電圧計の両方の入力に自動平衡ブリッジの出力を入力します。

構成的には「直列共振回路と並列共振回路の共振周波数を測る」とほとんど同じですが今回はベクトル電圧計の出力が正負どちらにふれてもADコンバータで測れるように極性を常にプラスにするための交流電圧計(全波整流回路)が入れてありません。今回はベクトル電圧計の出力が常にプラスだからということもあるのですが、オペアンプを使った全波整流回路はオフセット電圧やバイアス電流の影響が複雑でいったん考えを整理しないとこういう高精度の測定には使えそうにないからです。

全波整流回路を使うことにはさらにもっと大きな問題があります。ベクトル電圧計は二つの波形の積の直流分の測定を目的としています。ベクトル電圧計に使うアナログ乗算器の出力は直流以外に交流分も含んでおり、これがそのまま残っていてピーク値が直流分より大きいと全波整流回路で直流に変換され誤差になる可能性があります。特に二つの入力の位相の差が90度近いときアナログ乗算器の出力はほとんどが交流成分で直流成分は相対的に小さくなりちゃんとしたLPFを使わないと大きな誤差が発生してしまいます。

自動平衡ブリッジのところの具体的な回路はこうです。
Photo_3

何度か記事にもした回路ですが、だんだん実用的(?)になってきています。
オペアンプのオフセットをそのままにしておくと計算がややこしくなるのでU1、U2にはオフセット調整を入れてあります。U4にも入れたかったのですが、ブレッドボードに空きスペースがなくて.... (^^;;
今回はU4のオフセットの影響は計算するときに除いています。

オフセット調整は邪道、ちゃんとしたオペアンプを使うべき、という意見もあるかと思いますが、この回路ではけっこう高い周波数まで使う予定なのでOP07みたいなオペアンプは使えないのです。

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測定対象の抵抗として二つ用意しました。一つ(A)は千石電商で買った±0.1%、±50ppm/Kの1kΩでこの抵抗を正確に1kΩと考えて実験を進めます。この抵抗は温度係数の実測値はなんと1ppm/K以下でした。もう一つ(B)はマルツで買った±0.5%、±25ppm/Kの1kΩ抵抗です(「金属皮膜抵抗と炭素皮膜抵抗の温度係数を測ってみた - まとめ」)

まず抵抗Aで測定回路のパラメータを決め、これをもとに抵抗Bの抵抗値を測定します。そしてAとBを直列にしたときの抵抗を測りAとBの和になっているか確かめます。
Photo_4


2回分の実験だけ表にしてみました。一回目も二回目もだいたい同じ抵抗値を示しています。抵抗Aの1kΩ(これは“定義”みたいなものです)に対し抵抗Bは999Ωをちょっと切るくらいの抵抗値を示しています。

この二つを直列にすれば1999.0Ωくらいになるはずですが、直列にしたときの抵抗値は1999.6Ωとなっています。

ちょっと残念な結果ですが、上の表を見ると抵抗A、B単独にしても直列にしてもほとんど同じ抵抗値を示しています。単なる偶然の一致なのか、あるいは測定自体はそれだけの分解能があるのに回路にか計算方法に問題があるのか、もっと実験してみたくなる結果でもあります。

なおこの測定に使っているADコンバータは16bitでこのときの設定フルスケール1Vに対し30μVの分解能があります(これはスペック値だけでなく実際にそれだけの分解能があります)これは1kΩの抵抗で言うと0.03Ωの分解能ということになります。

(続く)

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