(趣味の)白金薄膜抵抗温度計の作り方 - 誤差について
(PICで作る)白金薄膜抵抗温度計についてはすでに記事にしていますが、今回はその誤差について検討してみました。誤差にもいろいろあるのですが、この記事はセンサ自体のもつ誤差に限っての話です。
「(白金)測温抵抗体(白金薄膜抵抗)の使い方 - 基礎編というか入門編というか....」
この記事を書いてずいぶん経ってから書いた記事なので、まとまっているかも。
誤差については詳しく書いてあります。
「(趣味の)白金抵抗温度計の製作 - 準備編」
「16bitADコンバータMCP3425とPICで作る白金抵抗温度計 - 1」
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以下秋月電子通商のサイトにある株式会社岡崎製作所の資料「白金薄膜温度センサ」を前提にして書いています。
データシート上では基準抵抗値 100.00Ω(とその許容誤差 ±0.12Ω)、0℃~100℃の平均温度係数3850ppm/K(とその許容誤差 ±13ppm)が示されています。
基準抵抗とその変化率で抵抗値を規定するという意味ではサーミスタに似ていますがその精度はまったく違います。白金薄膜抵抗の場合は任意の温度での温度係数≒平均温度係数であり、線形からはごくわずかにずれがありますが、それも二次曲線(あるいは三次曲線)の近似式で示されています。
平均温度係数に相当するサーミスタのB定数というのは(これまで何度か記事にしたように抵抗の温度係数なんかに似ていてある範囲での温度係数を示すだけで)任意の温度での温度(係数)について規定するものではありません。またB定数は室温と室温より高い側(85℃とか)で規定されており温度が室温より下がると誤差がおおきくなりがちです。
それでも日常的な意味での温度測定ということであればさほど問題なく使えるわけですが。
精度(確度)が必要なときは温度係数というか温度と抵抗値の関係を細かく押さえればちゃんと温度を測定できます。でもそのためには確度の高い温度計が必要だったりします (^^;;
とは言えサーミスタは手軽に使え分解能が高いのでけっこう重宝しています。
まずスペックがはっきりしている100℃での誤差を考えます。
基準 抵抗値 [Ω] |
平均 温度係数 [*1e-9/K] |
100℃での 抵抗値 [Ω] |
抵抗値から 算出された 温度[℃] |
100.00 | 3850 | 138.50 | 99.99 |
100.12 | 3850 | 138.67 | 100.42 |
100.00 | 3863 | 138.63 | 100.33 |
100.12 | 3863 | 138.80 | 100.77 |
最初の行はデータシート上のスペックと抵抗と温度の関係を示す式が矛盾しないかチェックするためのものです。
ちょっと余談になりますが、計算式というのは温度に対する抵抗値の式です。だから抵抗値から温度を求めるときは二次方程式(零下のときは三次方程式)を解く必要があります。
PICだと解の公式が使えるか不安になるのですがmath.hをインクルードすれば平方根でも対数でもちゃんと計算できます。もっとも一次式との差は僅かですので逐次近似でもぜんぜん問題ないです。
次に抵抗値と温度係数が許容誤差いっぱいになったときを調べてみました。
これを見ると基準抵抗の誤差に起因するのが0.4度強、温度係数の誤差に起因するものが0.3度強で計0.8度の誤差が発生します(これはデータシート上にある“測温抵抗体の温度による許容差”の式の結果と一致します)
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次に実際に使うことの多い室温25℃での結果です。
基準抵抗の許容差と0℃~100℃の平均温度係数から25℃での抵抗値を算出することはできないのですが、温度=抵抗の計算式を使って一次の係数が平均温度係数と同じだけ変化すると仮定して計算してみました。二次の係数は小さいのでそんなにムチャな仮定ではないと思います。
基準 抵抗値 [Ω] |
平均 温度係数 [*1e-9/K] |
25℃での 推定抵抗値 [Ω] |
抵抗値から 算出された 温度[℃] |
100.00 | 3850 | 109.73 | 25.00 |
100.12 | 3850 | 109.87 | 25.34 |
100.00 | 3863 | 109.77 | 25.08 |
100.12 | 3863 | 109.90 | 25.42 |
あたりまえですが平均温度係数の誤差は結果にはあんまり影響を与えなくなります。
基準抵抗の誤差に起因するのが0.3度強、温度係数の誤差に起因するものが0.1度弱で計0.4度の誤差が発生します(これもデータシート上にある“測温抵抗体の温度による許容差”と一致します)
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以上からこの白金薄膜センサを使うと校正しなくても室温で±0.4℃での測定が可能なことがわかります。
現実には100Ωの抵抗を0.01Ωまで測定しなければならないのでそっちが問題になります。0.1度の違いというのは抵抗値の0.03Ωの違いに相当します。1mAの電流を流すとすると30μVの分解能が必要になります。とうぜん流す電流にも相応の安定度が要求されます。なかなかたいへんです。
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さらに氷点を作りそこでセンサの抵抗値を測っておけば基準抵抗の誤差は考えなくてよくなりますので±0.1℃近い精度での測定も可能になります。
これも氷点にどれほどの確度があるかが問題になりますが、専門家の書いたものを読むと“水道水を凍らせた冷蔵庫の氷じゃ±0.01℃はムリ”ということみたいです。とすると冷蔵庫の氷でも±0.1度を超える確度を実現できるんだと私は解釈しています。
「氷点 - 摂氏0度の作り方」
「正確な温度を求めて (1)」
ただこの考え方は100Ωの抵抗を±0.01Ωくらいの確度で測れるというのを前提にしており、氷点よりそっちが問題でしょう。でもこれは考え方を変えればぜんぜん問題でなくなります。
つまり実験室(おうち)の中では氷点でのセンサの抵抗値を100.00Ωと“定義”すればいいです。抵抗値を測ると言っても実際は抵抗値の比が問題なのでこれでまったく問題なくなります。
「Pt100(白金測温抵抗体)の校正状況 - 氷点=0.0℃編」
ということでがんばれば白金薄膜抵抗センサを使って±0.1℃に近い確度が実現できる可能性もあるように思えます(ことばを変えると±0.1℃を超える確度はけっこう難しそう)
ただ最初に書いたようにこれはセンサ単体の能力です。温度計として作ったときの精度は他の要因にも左右されますし、実際にはそちらの方が問題になってくると思います。
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なお体温計には36.5℃近辺であれば±0.05℃の許容誤差を持つものがあります。こういうのを使ってチェック(あるいは温度係数の補正)をしておけばもっと安心して使えると思います。もっとも断熱容器内を36.5度近辺の一様な温度にするというのはけっこう難しそうです。
容器内を一定の温度にすること以上に体温計をどう配置するのかがが問題になります。
<== この件についてはまあまあ納得できる方法でやってます。
「PICで作ったPt100(白金測温抵抗体)温度計の校正状況 - 42℃編」
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関連
「記事一覧(測定、電子工作、天文計算)」
趣味の実験
趣味の気象観測
趣味の電子工作
PIC
「(趣味の)白金抵抗温度計の製作 - 準備編」
「16bitADコンバータMCP3425とPICで作る白金抵抗温度計 - 1」
「正確な温度を求めて (1)」
「氷点 - 摂氏0度の作り方」
「温度センサー3種の精度比較(摂氏0度~40度編)」
参考
「白金抵抗温度計の校正とその使い方 - JCSS:計量法認定」
「JEMIC 計測サークルニュースVol.26, No.2 ~ 4 連載(1997) - 浜田登喜夫 - 白金抵抗温度計の校正とその使い方」
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