改訂版・PPS/PP/PETフィルムコンデンサの容量とESRを測ってみた
大きくなったり小さくなったりしているコンデンサのESRですが、新モデルで納得できる結果が得られたので記事にします。“改訂版”であって“最終版”でないのはひょっとしたら“新発見”があってまたESRの値が変わるかもしれないからです (^^;;
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まず結果を示します。
(1件だけですが積層セラミックを追加しておきました)
使用したコンデンサ
PP-R | メタライズドポリプロピレン | 104J | 東信工業 2A-UPZ-104JE |
PP-O | メタライズドポリプロピレン | 104J | 日精電機 APS A0100J104 |
PET-R | メタライズドポリエステル (ポリエチレンテレフタレート、マイラー) |
104J | WIMA MKS2 63V 0.1μF |
PET-Y | メタライズドポリエステル (ポリエチレンテレフタレート、マイラー) |
104J | 指月電機製作所 VF63Z104JAB |
PPS | メタライズドポリフェニレンサルファイド (ポリフェニレンスルフィド) |
104G | PANASONIC ECHU1H104GX9 |
C | 積層セラミック | 104K | ElectronicRD15W104K1HL2L 秋月の写真と違うので勘違いかも |
せっかくですから誘電正接(tanδ、DF)
これまでの結果と比較するとキャパシタンスはほとんど変わらないのですがESRがかなり小さくなっています。この理由は「続・コンデンサのキャパシタンスとESR測定の現状と課題 - LCRメータ方式」に書いた測定回路の“モデル”の変更にあります。ですから現在のモデルが不適当と判断し新たなモデルを導入すると結果が違ってくることになります (^^;;
でも今後そんなに大きな変化はないと思いますが。
ESRはPPS<PP<<PETという傾向がありましたが、これは以前と同じです。
前回の結果で気になっていたのはデータシート上tanδ<0.006であるはずのPPSが0.006ギリギリのtanδを示していたことですが、今回は0.006をかなり下回る結果が出ています。
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測定回路・条件を変えると容量やESRが変化することがあります。そういうときどういう基準で正しい(と思われる)ものを選ぶかという“判断基準”を書いておきます。
1. ベクトル電圧計(アナログ乗算器)の読みの妥当性
ベクトル電圧計で測定対象に与えた電圧と流れる電流の位相の差を求めます。
このときいっしょに電流の絶対値も測っておきます。こうすると
同相成分^2 + 直交成分^2 = 絶対値^2
の関係が成り立つはずですが、測定結果を見るとそうなっていないものもあります。
そういうのは測定に問題ありとして排除することにしました。今のところこんな判断基準です。
“同相成分^2 + 直交成分^2” と “絶対値^2”の差
0.01%程度 .... 純抵抗だとこのような数値が出ます。
0.1%以下 .... このくらいだとまったく問題ないようです。
1%以下 .... 使えないこともないですが、ひとまず何かあるのではと疑った方がいいようです。
1%以上 .... 結果はあやしいと思った方がいいようです。
インピーダンスが小さすぎるあるいは大きすぎるときに起きるようです。とくに純リアクタンスに近い場合はその傾向が強いように思います。
これはモデルが悪いというようなことじゃなくて測定方法・測定条件が悪すぎると考えた方がいいと思います。
同相成分と直交成分を測るために使う二相の正弦波が完全に直交していない場合、これを直交していると思い込んで計算してしまってもこの現象が起きます。また二相の正弦波の位相のずれを勘定に入れて計算している場合でも測定の途中で位相のズレの大きさが変化すると発生します。
発生源で位相をきちんと合わせてもアナログ乗算器の入力となる時点でずれるということがあります。位相を合わせるより位相がずれていることを前提にしたほうが生産性がいいです。
それから正弦波と余弦波の入力があるとアナログ乗算器の出力は(直流としては)0Vになります。ただこれには正弦波と余弦波の積からできる周波数が二倍の振幅の大きな正弦波が重畳されています。回路で取り扱える振幅を超えていないかも注意します。
2. コンデンサを直列あるいは並列にしたときの容量とESRを測る
直列にしたときは(だいたい)容量は半分になってESRは倍になり、並列のときはこの逆になります。この関係がきちんと成り立っていればそれなりに信用できる結果といえると思います。
直列にしたきの容量は 1/C = 1/C1 + 1/C2 で計算するのではなくちゃんと Z = Z1 + Z2 とESRを含んだインピーダンスで計算を行いその抵抗分とリアクタンス分で比較します。並列の場合も同様です。
直列あるいは並列にしたときの容量・ESRがヘンというのはだいたい1.と“セット”で起きます。
3. 純抵抗の測定結果にリアクタンス分が含まれていないことを確かめる。
これは測定回路や得られた測定値からの計算方法の妥当性のチェックになります。
旧モデルではこの現象が起きていました。
実際に測ると純抵抗でも微小なリアクタンスは多少は残ってしまうのですが、1Ωを超えるようなリアクタンスがあるとか、抵抗値によってリアクタンス分が変化して行くというようなときは要注意です。
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関連
「記事一覧(測定、電子工作、天文計算)」
「LCRメータの仕組みと作り方」
「自動平衡ブリッジの原理と回路の作り方」
「(コンデンサ - ESR(誘電正接、tanδ、DF)とキャパシタンス(静電容量)の測定 - まとめ」
「コンデンサのESRの周波数特性を測ってみた - PET(ポリエステルフィルム)編」
“測定対象抵抗A,B”のところに抵抗、コンデンサやコイルを入れて測定しています。
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「確度0.0005ppmの周波数測定 - GPSの1PPS出力を使った高精度周波数カウンタ」
の記事にある水晶発振器
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「24ビットバイナリーカウンター(12STAGEリップルキャリー・バイナリー・カウンター TC4040BP+SN74HC4040AP)」
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「GPS/RTC(DS3234)の1PPS出力を利用した超高精度周波数カウンター」
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「自動平衡ブリッジの原理と回路の作り方」
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「複素数としての電圧・電流を測る方法 - 原理」
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