水の三重点セルの作り方を考えてみた
ITS-90(1990年国際温度目盛り)には“平衡水素の三重点 13.8033K”(つまり-259.3467℃)みたいな私なんかにはぜんぜんリアリティーが感じられないようなものがずらりと並んでいるのですが、唯一親しみを覚える(?)ものがあります。“水の三重点 0.01度”です。
“素人”にこの“水の三重点”が作れないものか以前から考えているのですが作れるのか作れないのかよくわかりません。作れそうな気がしないでもないのですが.....
いろいろ調べたので自分も作ってみようと思う方のためにまとめておきます。
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水の三重点とは?
状態図(相図)を見るのがわかりやすいと思います。
水は0度くらいから100度くらいの間だったら液体の水なのですが、温度が上がったり圧力が下がったりすると水蒸気になります。温度が下がればもちろん氷になりますが、温度が低くても圧力が高くなればとけて水になり圧力が低くなれば昇華して水蒸気になってしまいます。
ふつうは室内・屋外問わずだいたい大気圧での実験になりますから、水の状態はC、D、Eの間で変化します。室温にある水を冷やして行くと摂氏0度で氷になりそのまま温度が下がって行きます。ただDのところで凝固熱が放出されますので水がぜんぶ氷になるまではだいたい0℃が保たれます。
だいたい0℃と書いたのですが、ぴったり(?)0℃を保つのは意外と難しい面倒です。興味のある方は「氷点 - 摂氏0度の作り方」などを参考にしてください。
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大気圧以外での水の挙動というのは日常あんまり目にしないのですが、高い山でお湯が沸かない(というか温度の高いお湯がわかない)とか、氷の上に乗ると氷がとけて転ぶとか、水の入った容器の中の空気を抜くと水が室温でも沸騰するとかそういうところで経験することができます。
この“室温で沸騰する水”というのはYoutubeにも簡単にできそうな実験方法の説明がいろいろありました。比較的簡単に体験できます。私は試験管に水を入れて沸騰させたあとゴム栓をするという無精な方法でやってみました。試験管を手のひらで温めると中の水が沸騰するのを見るのはなかなか楽しいです。
水の三重点はこの“室温で沸騰する水”の“延長線上”にあります。
空気を抜いた容器だと中の気圧(圧力)は水蒸気圧だけで決まりますから容器内では水と水蒸気の平衡状態になります。つまり室温であればA点になります。手で温めると沸騰するというのは平衡がくずれたとき平衡状態に戻る過程です。
Aから容器を冷やして行くと内部の温度も下がって行くのですがそのとき平衡状態は保たれたままです。A点からT点の方へ変化していきます。T点で水は氷になり、その後今度は氷と水蒸気の平衡状態になってB点の方へ変化していきます。T点で凝固熱が放出されてそこでしばらく温度が変化しなくなるのは大気圧で冷やしていったときと同じですが、T点はちょっと特殊で水と氷と水蒸気の三つの状態が平衡していることになります。ここが水の三重点ということになります。
水の三重点のありがたみ
水の三重点というのは0.01℃しか違わない氷点とくらべて何がいいのかというと....
氷点の温度というのは上の相転移図からわかるように気圧が変わると(わずかですが)変化するはずです。一方水の三重点は相転移図の一点であってそこしかないわけですから水の三重点を作ることができればその温度は一つしかありません。もっとも“素人”でここまで精度が必要になるとも思えませんが....
上に書いたように水の三重点は空気を抜いたつまり密封した容器の中でしか作れません。だから誰かが氷水の中に指を入れたとか大気中の二酸化炭素が溶け込んだらどうしようというようなことを心配しなくてすみます。
“素人的”水の三重点の難しさ
容器内を減圧する必要があります。6hPa以下であれば水と水蒸気の平衡状態を作り出せるはずですから真空度としてはたいしたことはないです。でも一般家庭に真空ポンプなんてないですからこれをどうするかが問題です。
====> 早とちりしてこう書いてしまいましたが空気が少しでも入っていればその分誤差が出ます。
「続・水の三重点セルの作り方を考えてみた」
容器内の水を沸騰させておいてフタをするというのはどんなものでしょう?
あるいは容器に水を満たしたあと蓋をしてから注射器で水を吸い出すとか.....
水と書いていますがとうぜん純水が必要でしょう。どの程度純度の高い水が必要なのかがよくわかりません。ふつうの蒸留水でいいと思うのですが....
「Fluke Corporation - 水の三重点セル 5901」には水の三重点で不確かさ0.0001 ℃以下を実現するためにはただの蒸留水ではなく「海洋水」を蒸留したものでなければいけないと書いてありました。ちょっと考えると水道水を蒸留しようが海洋水を蒸留しようが蒸留すれば同じものだと思うのですが、そうじゃないんだそうです。水道水の蒸留水と海洋水の蒸留水とは何が違うかというと“同位体組成”が違うんだそうです。
“標準平均海水”の同位体組成は平成26年版の理科年表だと409ページの脚注にあります。
もちろん私は不確かさ0.0001℃とかそんなだいそれたことは考えていませんが。
不純物による凝固点降下を塩を例に考えたものが
「続・水の三重点セルの作り方を考えてみた」
にあります。
水の三重点を作るのは温度計の校正が目的でしょうから容器にはそのための“構造”が必要です。素人が作ろうとすると何か既成のものを組み合わせるしかなさそうです。
今考えているのは太めの試験管に栓をし、栓には穴を開けておいてそこに細めの試験管を差し込むという方法です。空気が流入して圧力が下がらないようにするには何を栓にしてどうやって固定すればいいのかがまだ見当がつきません。
あと使用する水を容器に入れるとき中に溶け込んでいる空気を抜いておく方法とか、水の三重点の容器を入れる氷水容器とか....
実際作り始めたらもっともっと解決すべき課題が噴出しそうです。
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関連
「記事一覧(測定、電子工作、天文計算)」
趣味の実験
趣味の気象観測
趣味の電子工作
PIC
「正確な温度を求めて (1)」
「氷点 - 摂氏0度の作り方」
「サーミスタや白金抵抗温度計の自己発熱の影響を補正する方法」
参考になりそうなリンク
「Fluke Corporation - 水の三重点セル 5901」
詳しい説明があります。記事中にあるように“雲の上”的な内容が多いです。
でも何がポイントかわかるので実際に作るときはけっこう参考になりそうです。
「フルーク|水の三重点の実現方法 - YouTube」
実際に水の三重点を作っているときの動画があります。
「大阪大学理学部化学科 - 温度計較正システムの整備」
水の三重点セルの使い方について“実用的”な記述があります。
「山里産業株式会社 - 温度校正装置/定点セル 標準温度計」
水の三重点セルを含む製品カタログですがいろいろ興味深いものがあります。
「水の三重点装置 - 製品案内|ガラス温度計・比重計の株式会社東亜計器製作所」
製品紹介の一部です。他にもいろいろあります。
「はじめての精密工学 - 白金抵抗温度計を用いた精密温度測定」
水の三重点セルの扱いについての説明もあります。
以下は参考の参考です。
「1990年国際温度目盛(ITS-90) - NMIJ」
「独立行政法人産業技術総合研究所 - 計量標準総合センター」
「産業技術総合研究所 - 温度計の校正・トレーサビリティ・国際比較」
「JEMIC 計測サークルニュースVol.26, No.2 ~ 4 連載(1997) - 浜田登喜夫 - 白金抵抗温度計の校正とその使い方」
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