サーミスタで温度を測る - 温度と抵抗値の相互変換 - B定数について
最近“温度オタク”的記事ばかりなのでそれぞれのセンサーについて基本的な(系統的な)記事も書いておこうと思います。最初はサーミスタです。今回は計算用のExcelファイルも用意しました。
サーミスタのメリット
意外と正確(確度がある)
温度によっては測温抵抗体にせまる確度があります。
室温くらいだと熱電対と比べるのは失礼なほど。
(参考「温度センサ(サーミスタ・熱電対・(白金)測温抵抗体)の誤差」)
実測データをもとにすると簡単な変換式でも60℃以下であれば
±0.1℃くらいまで行けます(ただし変換式の係数を決めるのがけっこう手間です)
「サーミスタで正確な温度を求める方法 - 抵抗値-温度変換計算の精度と誤差」
分解能が高い
素人には測温抵抗体で0.01℃の分解能はかなりきびしいのですがサーミスタなら朝飯前。
分解能が高いのであって±0.01℃の確度があるわけではありません。念のため。
回路が簡単、測定が容易
抵抗の温度係数が大きい(25℃で4%つまり40000ppm/Kと測温抵抗体の10倍)ので
比較的簡単な回路ですみます。
(参考「PICで作るお手軽サーミスタ温度計 (2) - ソース付き」)
他のセンサーとの比較は
「PICで作る温度計のセンサー比較(I2C/SPI温度センサ、サーミスタ、熱電対、白金測温抵抗体、pn接合など)」
にあります。
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サーミスタにもいろいろ種類があるのですがここでは温度測定に適しているとされる村田製作所のNTCサーミスタから NCP18XH103 を取り上げます。
サーミスタの特性は抵抗値R0とB定数で決まります。
R0はある特定の温度T0でのサーミスタの抵抗値です。 NCP18XH103 では“ある特定の温度”T0は25℃が使われ、そのときの抵抗値はR0=10000Ωです。
B定数は次の式で表されます。
B=ln(R/R0)/(1/T-1/T0)
ここでT0、R0は上に書いた25℃(上の式では 298.15Kを使います)であり、そのときの抵抗値です。ある温度Tでの抵抗値Rを上の式に代入すればB定数が求まるわけですが、この“ある温度”Tはデータシートに書いてあります。 NCP18XH103 ではT=50℃(上の式では 323.15Kを使います)とそのときの抵抗値Rで計算したB=3380Kが表示されています。
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例えば測温抵抗体の特性は温度係数で示されます。サーミスタではなぜ温度係数を使わないかと言うと温度係数は温度によってはげしく変化するからです。一方上のように定義されたB定数は(温度の関数ではあるものの)比較的温度に依存しない値になります。
より精度の高い温度測定ではB定数の温度変化を考慮する必要があるのですが、今回は“入門編”なのでB定数は温度に無関係に一定であるということで先に進みます。
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ふたたび
B=ln(R/R0)/(1/T-1/T0)
の式に戻ります。
lnは自然対数ですので計算するときは注意します。cであればlog()、Excelであればln()です。またT、T0は熱力学温度です。℃の値を使いたいときは273.15を加えておく必要があります。
さて上の式を次のように変形します。
B=ln(R/R0)/(1/T-1/T0)
B * (1/T-1/T0) = ln(R/R0)
1/T-1/T0 = ln(R/R0) / B
1/T = ln(R/R0) / B + 1/T0
T= 1 / ( ln(R/R0) / B + 1/T0 )
これでサーミスタの抵抗値から温度を求める関係式が求まりました。T、T0は熱力学温度ですので℃だと
T= 1 / ( ln(R/R0) / B + 1/(T0+273.15) ) - 273.15
ということになります。
余談ですが村田製作所秋月電子通商の資料では273.15ではなく273となっています。これはサーミスタで小数点以下の温度を測るのはムリと言いたいのだと思います。
今度は温度から抵抗値を求める式を作ります。
B=ln(R/R0)/(1/T-1/T0)
B * (1/T-1/T0)=ln(R/R0)
exp(B * (1/T-1/T0)) = R/R0
R=R0 * exp(B * (1/T-1/T0))
これも℃で表すと
R=R0 * exp(B * (1/(T+273.15)-1/(T0+273.15)))
ということになります。
以下実際に計算した結果を示しますが、計算に使用したExcelファイルもダウンロードできるようにしました。
「ダウンロード Thermistor-01.xls (43.5K)」
温度-抵抗値の関係
抵抗値-温度の関係
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上の表では抵抗値[kΩ]は小数点以下二桁、温度は小数点一桁まで示してありますが、これはどこまで信用できるものなのでしょうか。
例えば5℃での抵抗値は22.59kΩなのか、22.6kΩと考えるべきか、それとも23kΩ、あるいは20kΩと受け取るべきなのか?
(「サーミスタによる温度測定の精度 - 2 - B定数の温度特性」、「サーミスタ温度測定の精度と誤差 - 熱放散定数と自己加熱」などに続きます)
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参考
「村田製作所 - NTCサーミスタ」
関連
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「正確な温度を求めて (1)」
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「PICで作る温度計のセンサー比較(I2C/SPI温度センサ、サーミスタ、熱電対、白金測温抵抗体、pn接合など)」
「温度センサ(サーミスタ・熱電対・(白金)測温抵抗体)の誤差」
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「記事一覧(測定、電子工作、天文計算)」の表に参考となる資料へのリンクがあります。
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