コルピッツ発振回路の発振条件 - LCだけでは決まらない発振周波数(3)
コルピッツ発振回路を作るのにオペアンプを使う方はそうそういらっしゃらないような気がしますがCMOSインバータを使う方法はけっこうポピュラーなのではないでしょうか。
今回考えるのはR2の影響です。
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前回と同じくこの回路をもとにして調べます。
このR2なんですがESRが0の理想的なインダクタ、コンデンサを使った場合はじつは発振条件にも発振周波数にも無関係です。つまりR2は(0Ωでない限り)どんな抵抗値でもかまわないということになります。
このR2がゼロだとダメな理由とかどう影響するかということは、以前は金沢大学の先生の回路解析があるからそれを見てください、とリンクで済ませていたのですが昨日確認したら参照できなくなっていました。
幸いなことにedyさんが
「迷走の果て・Tiny Objects - LCR回路の伝達関数を求める 」
「迷走の果て・Tiny Objects - LCR回路の伝達関数を求める(2)」
「迷走の果て・Tiny Objects - LCR回路の伝達関数を求める(3):そろそろ限界かも・・・。」
「迷走の果て・Tiny Objects - LCR回路の伝達関数を求める(4):これでおしまい(多分)」
「迷走の果て・Tiny Objects - LCR回路の伝達関数を求める:まとめ(1)」
に解析結果を書かれていますので参考にしていただければと思います。
上の回路と同じ条件で計算された例もあります。
「迷走の果て・Tiny Objects - LCR回路の伝達関数を求める:maximaで数値計算(1)」
RL=100Ωのケースですが、幸いなことに同じ結果__22575.7Hz__が出ていました (^^)
記事の末尾にリンクのあるペンシルバニア大のコルピッツ発振回路に関する詳細な資料(こちらはbachさんに教えていただきました)も参考になると思いますが、一見R2に相当するものがない(つまりR2=0)ように見えます。こちらの方の増幅器はオペアンプではなくトランジスタを使っており、R2に相当するものはRです。出力はRの負荷を持つ電流源なのでRの内部抵抗を持つ電圧源と考えれば上の回路と同じことになります(上の回路のR3(資料のrπ)は極めて大きいとして省略してあります)
発振周波数は ω=√((C1+C2)/(C1C2L)) となっており、これはいいとして、発振条件の方がgmR > C2/C1 となっていますがgmRというのは増幅率ですのでC2=C1だとすれば 増幅率 > 1 が発振条件ということになります。
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R2=1、100、10k、100kΩのときの発振条件を前記事と同じ方法で求めてみました。
ご覧のとおり発振周波数も必要増幅率もまったくかわりません。
(よく見るとR2=1Ωのときの発振周波数がちょっと高くなっていますが、これはオペアンプの入力抵抗が無限大になっていないことの影響です。オペアンプの入力抵抗が無限大でないのはC4がESRを持つのと等価です似た状態です)
R2の大きさが発振条件に影響しないのは並列共振回路のインピーダンスが共振周波数で無限大になるからです。無限大と比べれば1Ωも100kΩも同じようなものですから。
インダクタやコンデンサのESRがゼロでなければ共振回路のインピーダンスは無限大にならないので事情が異なってきます。
インダクタのESRを1Ω、コンデンサのESRを0.1Ωという現実的な値にして再度調べてみます。今度はR2=100、1000、10k、100kΩでやっています。
R2が小さくなると必要とされる増幅率は理論値の(というかESRがゼロのときの)1に近くなりますが、周波数がLC並列共振周波数から離れます。
一方R2が大きくなると発振周波数は共振周波数に近づくのですが、必要とされる増幅率が大きくなってしまいます。
コンデンサのESRが0.1μF、20kHzで0.1ΩというのはFPPフィルムコンデンサ PPSフィルムコンデンサでなんとか実現できる値だと思います。ポリエステルフィルムコンデンサなんかだとESRはもっと大きくなりR2の影響も大きくなると思います。こういう回路にセラミックコンデンサを使ってしまうのは私くらいだと思いますが、そしたら悲惨なことになりました (^^;;
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最初のCMOSインバータを使ったような回路でR2を小さくしないと発振しないケースは発振周波数がLCの共振周波数からずれている可能性があるので私みたいに発振周波数からインダクタンスやキャパシタンスを求めようとするような場合は注意が必要ということになります(極端な例ですが発振周波数からインダクタンスを求めようとしたら測定値が実際の値の1/2だったということがありました)
またCMOSインバータの場合増幅率は一定ですからR2を小さくしすぎた場合必要以上の増幅率になり周波数がさらに高くなったり波形が汚くなるようにも思えます(これは想像です。さすがにExcelではこういう非線形のはムリ(困難?)です。以前過渡現象のときにやったようにExcelでも微分方程式を数値的に解くという方法はありますが)
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「インダクタンスの測り方・まとめ」
特に「インダクタンスの測り方 (3)」
「コンデンサ - ESR(誘電正接、tanδ、DF)とキャパシタンス(静電容量)の測定 - まとめ」
このあたりの記事がこんな“研究”始めた原因=発振周波数から計算したリアクタンスが実際と違っていた=です。
参考
「University of Pennsylvania - Practical Colpitts Oscillator Circuit」
(bachさんに教えていただきました)
「迷走の果て・Tiny Objects - LCR回路の伝達関数を求める 」
「迷走の果て・Tiny Objects - LCR回路の伝達関数を求める(2)」
「迷走の果て・Tiny Objects - LCR回路の伝達関数を求める(3):そろそろ限界かも・・・。」
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セッピナーさん、今晩は。
コルピッツ発振器の発振周波数、継続して研究されていますね。きっと、ブログに書かれている分の十倍以上は、試行錯誤されているのでしょうね。そのスタイルが、電子工学を目指す、若人に響けば幸せですね。教科書や一般の書籍、例えばCQ出版の本などに、書かれていることは、綺麗なところだけだと思います。今回のコルピッツ発振回路だけでも、これだけの記事になるのですから。引き続き、研究成果を発表されることを期待しています。(o^-^o)
投稿: bach | 2015年5月 6日 (水) 21時17分
教科書は学生にものごとの本質を教えるのが目的なのでできるだけ内容を単純化・理想化するというのはわかるのですが、こういう発振周波数の“理想と現実”(?)の関係・違いというようなことについて自由な立場で考えたり実験したりできるはずのブログの世界で教科書に書いてあることの延長でしかないように感じるものが多いのが不思議な気がして独自路線(?)でやってます (^^)
ところでコメントを拝見すると失礼ながらbachさんも若い人たちに注文をつけるお年のようですが、さきほどコメントをいただいていたEdyさんも私と同年代の方のようで、そうなると日本の将来が心配になってきます (^^;;
投稿: セッピーナ | 2015年5月 6日 (水) 23時25分
こんにちは。
ブログに理想的なインダクタ、コンデンサを使った場合の伝達関数を載せておきました。
虚部=0にしたときの意味はご理解いただけると思います。
昔々、この手の計算は何度もしたことがあります。
当時はシミュレーターなんか無かったですからね。紙と鉛筆を使って全部手計算でした。
ESRを加味したときの伝達関数は・・・、ちょっと考えます^^;;
投稿: edy | 2015年5月 7日 (木) 03時52分
記事拝見しました。
解析的な結果はさすがに見通しがいいですね。
せっかくなので記事に追記させていただきました。
投稿: セッピーナ | 2015年5月 7日 (木) 07時00分
セッピーナさんのご推察の通り、私は、年金生活者です。(;ω;)
コルピッツ発振回路との出会いは、今年の始め頃でした。知人から、Qマルチプライヤの動作解析の書類が送付されてきました。その解析結果を調べているうちに、コルピッツ発振回路のコイルの抵抗成分が発振周波数に及ぼす影響や、発振回路の発振寸前の共振回路のQを求める計算を強いられました。(o^-^o)
セッピーナさんのオペアンプで構成したコルピッツ発振回路のゲインを変数として、Qやf0を求めるようなことをやっていました。そこで、このブログを拝見して、良く似たことを同じような時期にしている方が、いらっしゃるのだなあと、感動したわけです。(o^-^o)
投稿: bach | 2015年5月 7日 (木) 11時10分
やはりそうでしたか (^^)
私はコルピッツ発振回路の発振周波数からLやCを求めようとしているときLCだけでは発振周波数が決まらないことに気づきこんな記事を書き始めました。でもあんまりすっきりしないのでその後LCの測定はベクトル電圧計を使ったLCRメータの方に走り記事がそのままになっていたのですがbachさんのコメントをいただいて続きも書いておこうと思った次第です (^^;;
大学の先生方のを拝見すると、基本は教えたから後は自分で考えてね、ということなのでしょうがなかなかそこから現実までが遠いです。私の能力不足が原因なのでしょうが、学問の世界は素人には厳しいです。
教科書と現実が結び付けられないものとして他にコンデンサのESRの周波数特性やpn接合電圧の温度特性などたくさんあって実験をしながら理解できた範囲でほそぼそと記事を書いていこうと思っています。
投稿: セッピーナ | 2015年5月 7日 (木) 13時07分
コイル抵抗やコンデンサのESRまで含めた伝達関数を求めようとしていますが、複雑な式が出来上がってしまい、歯が立ちません^^;;
数式ソフトmaximaで何とかならないかと悪戦苦闘中です。
投稿: edy | 2015年5月 8日 (金) 03時20分
ESRがなくてもたいへんそうでしたからね。
見通しのよい結果が得られることを期待しています (^^)
投稿: セッピーナ | 2015年5月 8日 (金) 05時32分
こんにちは。
インダクタに直列抵抗を入れた場合の伝達関数をブログにアップしました。
数式ソフトmaximaの助けを借りましたが、不慣れなソフトなので思うような処理が出来ず、最後の数式整理は手計算しました、それでも最初から手計算よりはるかに便利です。
便利になりました、シミュレーターも数式処理ソフトも無料。泥臭いことをせずに、手を汚さずにできるようになりましたが、それでいいのかな。
投稿: edy | 2015年5月 9日 (土) 18時43分
どのブログを見てもみんなおんなじようなことばかり書いてあるということが多いですから独自のアプローチというのはそれだけで貴重なんじゃないでしょうか (^^)
投稿: セッピーナ | 2015年5月 9日 (土) 22時00分