熱電対の規準起電力はあてになるか?
熱電対には規準起電力というのがあります。例えば理科年表にある表を見ると温度に対する起電力は0.001μVまで表示してあります。こういうのを見ると熱電対の起電力を測ればそこから0.1℃あるいはそれ以上の確度で温度がわかるような気がしてきます。
熱電対の起電力と規準起電力から温度を求め実際の温度と比較してみました。
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この記事には事実誤認の可能性があります。
さらに広い範囲で測定したところ全体的に熱電対が低い温度を示すことがわかりました。
こういう場合原因は冷接点が正しく0℃になっていないことが予想されますが、この記事の実験結果にある差が出るほど冷接点の温度が管理できていないということはないはずで、今のところ原因・理由は不明です。
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対象は秋月に売っていた“K型熱電対 ステンレス管タイプ”です。K型=クロメル・アルメルです。
結果を先に示します。
容器に入れたお湯の温度を熱電対と測温抵抗体で交互に測りグラフにしました。熱電対の冷接点は氷点に保ってあります。青い線(実際は点)が測温抵抗体、赤い線(一部緑)が熱電対です。
A点のところがちょっとヘンですが、水にお湯を継ぎ足したあと撹拌するのを忘れ、センサーを入れてから撹拌したためです。
体温くらいの温度の測定ですが上のグラフを見ると2℃近く違っています。
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理由を考えてみました。
・測温抵抗体の測定値が間違っている。
使った測温抵抗体は「(白金)測温抵抗体の氷点での抵抗値を測ってみた」で使ったClass 1/3 DINのものです。校正なしで使ってもこの温度であれば誤差は0.2℃もないはずです。
35℃のところに赤い○がありますがこれは許容誤差±0.1℃体温計で測った温度です。これともよく一致していますので測温抵抗体の測定値はそんなにはずしていないと思います。
・冷接点が0℃に保たれていなかった。
測定を始めて30分ほどたったところ(B点)で熱電対のグラフがちょっとだけ上にずれています。じつは氷水の状態を確認したところ氷点から0.1℃ほどはずれていたためあわてて撹拌したためです。冷接点はこのくらいの精度で温度を維持しています。
「氷点 - 摂氏0度の作り方」
・電圧計に誤差がある。
温度にこれだけの誤差が発生ということは電圧計に5%くらい誤差があることになります。さすがにそれはないと思います。いろいろやっているのでDMMなどの測定に比べると誤差は大きいのですが1%を超えることはありえないと思われます(詳しく検討していないのですが±0.2%~0.3%におさまっていると思われます)
・起電力から温度への変換方法が間違っている
「熱電対の起電力の近似式 - 起電力と温度の相互変換」で作った式を使っています。
-20℃~120℃のあいだで規準起電力表とは0.1℃の違いもないはずなんですが....
・オフセットの影響
熱電対の測定結果に緑の部分がありますが、これはオフセットの影響を調べるために熱電対の接続を逆にしたところです(測定値はマイナスになるのでグラフは符号を変えて表示しています)
オフセットはあるのはあるのですが、少なくともこのグラフのスケールでは影響はないと考えてよさそうです。
・じつは違うところの温度を測っていた
測温抵抗体と熱電対はセンサーの位置を合わせて密着させ固定してあります。
・熱電対が水温を測れていない
熱電対の先端がちょっとだけしか水に入っていなかったというようなケースですが、今回はシース全体を侵没させています(防水はしてあります)ということで結論は
個々の熱電対の起電力は規準起電力とは大きく異るケースがある
ということになりました。実際熱電対の許容誤差はこの温度帯ではClass 1が±1.5℃、Class 2が±2.5℃です。
この熱電対の許容誤差は秋月の製品紹介にはないようですが、Class 2とすれば規格内にはあるということになります。
記事冒頭に赤字で追記したとおり現時点でこの結果について何らかの結論を出すことができない状況です。
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秋月には“K型熱電対 リボンタイプ SE004”というものがありました。これは0℃~100℃で±0.5℃だそうです。Class 1より許容誤差が小さいです。ぜひ使ってみたいものだと思ったのですがお値段を見てやめにしました (^^;;
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