サーミスタの抵抗値とB定数を実測する(25℃編)
サーミスタは熱電対や測温抵抗体より取り扱いが簡単なのですが分解能が高くしかも意外と正確です。じゃあ測温抵抗体なんてやめてサーミスタにしてしまえということになるのですが困った問題があります。
測定した(抵抗値から算出した)温度の不確かさがわからない
測定結果というのは測定値と不確かさのセットですから測定器としては使えないということになります(念のために書いておくと25℃とB定数を定義するもう一つの温度の二点では不確かさはわかります)
村田製作所のNTCサーミスタの説明書を見ると目的として“温度検知・温度補償用”と書いてあります。“温度測定用”とは書いてないのは不確かさを明確に示せないからなのでは、と邪推しています。説明書には“不確かさ”や“許容誤差”という言葉より“参考値”とか“典型値”という言葉が目立ちます。
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そこでてはじめに特定のサーミスタについていろんな温度での抵抗値を実測し、B定数を求めてどのくらい参考値や典型値と違うか調べてみようと思います。
これをいろんなそしてたくさんのサーミスタでやれば“サーミスタによる温度測定の不確かさ”がわかってくるわけですが、それはやれたとしても遠い未来になると思います。
この(これからの)記事は
「サーミスタによる温度測定の精度 - 2 - B定数の温度特性」
の続編という位置付けです。
もっとも基本となる25℃での測定からはじめます。だから(タイトルにはB定数とありますが)今回はB定数の話はありません。
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測定の対象にするのは NCP18XH103F03RB です。
10kΩ@25℃(±1%)、B=3380K(25℃~55℃、±1%)とされているものです。
これをさらにシリコングリスを入れたアルミ管に収めてあります。測定は原則温度が安定している水中で行います。
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結果を先に書くと25℃での抵抗値は
9.974kΩ±0.045kΩ (k=2)
でした。データシート上は±1%ですが実際の誤差はかなり小さいです。これはこのサーミスタに限らずこれまで見たサーミスタはだいたいそうでした。
このサーミスタを25℃のときの抵抗値を実測せず10kΩと信じて温度計を作ったとすると、25℃のときの温度計の表示は25.1℃(25.0℃~25.2℃)になるはずです。とても正確です。
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こういう測定を繰り返して行くと矛盾するデータ・結果も出てきて何がほんとうだかわからなくなることも多いので今回は(自己流ですが)バジェットシートを作ってみました。
やっていることは“抵抗値の測定”ですが測定の不確かさは温度測定がどれだけ正しくできるかでほとんど決まります。
注1 サーミスタが測温抵抗体と同じ温度になっているとは限りませんし、どちらの温度が高くなっているかも調べてみないとわかりません。そこでその分を不確かさとしています。
これと似た条件で測定して温度差が0.02℃だったというのがあるので今回は0.05℃としています。実験を続ければ温度差を抵抗値に反映し温度差の不確かさだけにできると思います。そうなるとこの項目は実質ないのと同じになります。
注2 今回の抵抗値は自己発熱を含んだ値です。だからバジェットシートは空白になっています。
この測定条件での熱放散係数を測定できていないからなのですが、基板にハンダ付けした時点で熱放散係数は6mW/Kもありました。これはそれよりさらに熱拡散係数が大きい状態になっていますし発熱も30μW程度しかありません。そのうち実際自己加熱による温度上昇を測ってみるつもりですが今回の測定条件だとおそらく結果は“小さすぎて測定不能”だと思います。
注3 氷点の実現精度は正直よくわかりません。専門家の書いたものを見ると、水道水でも0.0℃は可能だが0.00℃はムリ、とありました。実際にいろんな方法で氷点を作り、いろんな方法でそれを測ってみると0.01℃の分解能で見ても再現性は良好です。そこで今回は0.03℃にしています。そのうち蒸留水(精製水)でもやってみるつもりです。
なお25℃での測定に氷点の実現精度が関係してくるのは測温抵抗体(白金薄膜抵抗)の温度測定は抵抗値の0℃のときのとの比から温度を求めるからです。
氷点の実現精度に依存しないやり方もありますが、そうすると氷点の実現精度の不確かさへの寄与がなくなるかわりに測温抵抗体の不確かさが今の4倍近い大きさになります。
注4 抵抗や測温抵抗体の不確かさは許容誤差という形で表されます。“許容誤差”というのがどういう意味なのか正確にしらないのですが、“その範囲内にあることは保証するが、それ以上のことは何もわからない”という意味だと解釈し分布は一様分布と考えています。
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この後実験の生データ的なものを紹介するつもりだったですが16時間ほどかけた実験で整理がつかないので実験内容についてはあらためて記事にします。
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