サーミスタの抵抗値に見る村田製作所の驚くべき温度測定能力
ここのところサーミスタの記事が続いています。これもサーミスタの話題ですがどうでもいい部類の話です。
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「村田製作所 - NTCサーミスタ」という資料があってこれには一部のサーミスタについては5℃ごとの抵抗値がとして示されています。このデータは校正なしでサーミスタ温度計を作るときは必須と言ってもいいくらい重要な(つまりたいへんありがたく使わせていただいている)データです。
日頃たいへんお世話になっているのにこういう記事を書くのもどうかと思うのですが....
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以下の話の“真相”は「村田製作所 - サーチエンジン」でNCP18XH103F03RB の“抵抗温度特性表”を見るとすぐにわかります。
私みたいに早とちりする人間もいるだろうから、ということでわざわざ“中央値”と書いてあるのでしょうが、中央値だとしてもやっぱりこの資料の数値の示し方はいただけないと私は思います(ふつう不確かさが最後の二桁を99とした数値を超えることになるような数値の示し方はしないと思います)
<=== ネットに上げる前の測定データには不確かさが書いてあったはず、との前提での話です。一般的には195.652kΩとあったら195.652±0.001kΩと解釈するのが正しいようです。
もっともこの一件でいろいろ調べたおかげでサーミスタによる温度測定の不確かさについてやっとわかった気がします。次の記事にする予定です。
===> 「サーミスタ温度測定の精度と誤差 - 製品のばらつきによる不確かさ」
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(ここから“勘違い”(=意地悪な解釈)的本文)
例えばNCP18XH103F03RB の場合資料にある“温度検知・温度補償用チップタイプ 抵抗-温度特性データ(中央値)”を見ると-40℃のときの抵抗値として195.652kΩとなっています。
つまり有効数字が6桁あります。これだけ見ると最低でも5ppmの分解能・確度での抵抗値の測定が行われているように思えます。私にはもちろんムリですが、これはまあ抵抗値の測定としてはべつにできないことではないと思います。
私が不思議に思うのは、サーミスタの抵抗値は温度がちょっと変化しただけ大きく変化するのにこんな確度での測定がほんとにできるのだろうか、ということです。195.652kΩということはふつうに受け取ると195.651kΩでもなければ195.653kΩでもないということでしょう。
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温度による抵抗の変化率は抵抗値を温度を表す関数を温度で微分すればわかります。-40℃ではdR/dTは-10000(Ω/K)を(マイナス側に)超えます。
つまり温度が0.0001℃変化すると抵抗値は1Ω以上変化します。このことは195.651kΩという0.001kΩまで示した抵抗値を見るとその測定が-40.0000℃±0.0001℃(あるいはそれ以下の不確かさ)で行われたことを意味するように感じます。
そこで今度は±0.0001℃以下という温度測定が可能かどうかが疑問になります。
理科年表のITS-90国際温度目盛を見てみたらこの温度帯での温度測定は“所定の条件を満たす測温抵抗体のアルゴンの三重点(-189.3442℃)と水銀の三重点(-38.8344℃)での抵抗値から厳密に定められた補間方法にしたがって求めるのが“正式”なやり方らしいです。どちらの三重点も0.0001℃の位まで示されているので±0.0001℃での測定というのもがんばれば可能なのかもしれません。
そこでタイトルにある通り、すごい温度測定能力を持ったメーカがあるものだ、と感心したわけです。
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このサーミスタの-40℃での抵抗値はメーカーの資料を参考にすると
196kΩ±8kΩ
と考えるといいようです。
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