サーミスタ温度測定の精度と誤差 - 熱放散定数と自己加熱
サーミスタでやっかいなのは自己加熱があることです。
なぜやっかいなのかと言うと.....
例えば25℃、10kΩのサーミスタに0.1(mA)の電流が流れると1Vの電圧降下ですから0.1mWの電力が消費されその分温度が上がります。
何度上がるかはデータシートにかかれています。熱放散定数と言うのがそれでふつう1.5mW/Kと1.0mW/Kという数字が示されています。消費電力が0.1mWだったらそれを1.0mW/Kで割って得られる0.1K、つまり0.1℃が上昇する温度になります。
問題はデータシートにある熱放散定数は特定の条件(無風の空気中?)のものであることです。つまり熱放散定数は使用状態によって変化します。自己発熱の計算は一度決まった定数で計算式をコーディングしておけば済む、というわけには行かず使用状態が変わるたびに熱放散定数を測らなければいけないことになります。
この問題は測温抵抗体(じっさいに簡単に入手できるのは白金薄膜抵抗)でも起きるので測温抵抗体を使う温度計では測定中に自己加熱を確認するための回路が用意されているようです。
「サーミスタや白金抵抗温度計の自己発熱の影響を補正する方法」
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熱放散定数を実際に測定してそれを使うという方法もありますが、これは実際にやってみるとそれほど簡単ではありません。
「サーミスタ/測温抵抗体の自己発熱(熱放散係数)の測り方」
「サーミスタの自己発熱・熱放散係数を測ってみた」
熱放散定数を大きくするという手もあります。自己加熱の影響が小さくなるからです。これはサーミスタと測定対象の熱抵抗を小さくするということですからやり方はいろいろありますが測定条件によっては効果的にできないこともあります。
実用的にはサーミスタに流す電流を小さくすることでしょうか。電流が半分になれば自己加熱は1/4になります。これは「TDK - NTCサーミスタ 概要」にも書いてあります。
温度測定にサーミスタを使用する場合、当然のことながら、自己加熱による測定誤差を小さくするために、極力印加電流を小さくする必要があります。
測定の目的や必要とする精度によってこれらのうちどれかを選ぶことになります。
気温を度の単位で知りたいというようなことであればぜんぜん気にすることはありませんが。
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実際問題としてふつうに使っていれば自己発熱が問題になることはあんまりないと思いますが判断材料として自己発熱がどの程度あるのか具体的な数値をあげておきます。
まずサーミスタに一定の電流を流すというオーソドックスな使い方をしたときです。
25℃で10kΩのサーミスタに標準的な0.1mAとその√2倍、1/√2の電流を流したときの計算値を示します。熱放散定数はデータシートにある1.5mW/Kを使っています。
サーミスタは温度が下がると抵抗値が大きくなりますから低温側が要注意です。
サーミスタに直列に10kΩの抵抗を入れ1V、2V、3Vの電圧をかけたときです。サーミスタの電圧降下から抵抗値を求める方法です。
この方法だととうぜん25℃10kΩのときがいちばん自己加熱が大きいので他の温度の自己加熱は小さくなります。精度を考えると必ずしもいい方法とは限りませんが....
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余談ですが....
これまでの記事では“熱放散係数”とか“熱拡散係数”という言葉も使っているのですが“熱放散定数”というのが正式(?)な用語のようです。
私としては“熱拡散係数”がいちばんあっているような気がするのですが、そう感じる方もいらっしゃるようでこういうので検索にヒットすることもあります (^^;;
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