(事実誤認記事)じつはT型のような気がする秋月のK型熱電対
秋月電子通商で買ったK型熱電対(「K型熱電対 ステンレス管タイプ」)なんですが、T型のような気がしてきました。
こんなこと軽々しく書いてはいけないとは思うのですがどうしてもK型とは思えないのです。
この熱電対について線材として使われている銅=コンスタンタンが補償導線であることを示す実験結果(=補償銅線に起因すると思われる誤差の検出)が得られました。
事実と反する内容の記事を書いたことを秋月電子通商様をはじめ各位にお詫びするとともに訂正させていただきます。
またこの件について的確なコメントをいただいたSECさんに御礼申し上げます。
なお“クロメル・アルメルの在庫が切れたので代わりに銅コンスタンタンを使った”説はまだ引っ込めないことにします。理由は「“K型熱電対 ステンレス管タイプ”(秋月電子通商)に関するディベート」にもちょっと書きましたが
・FAQにある写真と私の手元にあるものとくらべると線材が違うようだ
・誤差が大きくなる補償導線を使っているのに製品紹介・説明書はそのことに触れていない
・類似品の“K型熱電対プローブ”では補償導線が使われていない
というのがその理由です。
補償導線であることを示すと思われる実験結果
「K型熱電対 ステンレス管タイプ(秋月電子通商)による温度測定」
2015.06.18
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この記事についてSECさんから(この記事で対象にしている)プラグのところにあるケーブルは補償導線ではないのかというご指摘をいただきました。
クロメル・アルメルのような安価な熱電対に補償導線を使うはずがないという思い込み、補償導線との結合点らしきものがみあたらないことから記事の対象にしたものが補償導線である可能性はまったく考えていませんでした。
ただご指摘をいただいてから調べてみると確かにクロメル・アルメル用の補償導線というものは存在し、その中にはこの記事にある銅-コンスタンタンと同じか少なくとも類似している組成と思われるものがありました(「あんまり違いがないK型熱電対とT型熱電対の熱起電力」に書いたように室温付近ではクロメル・アルメルと銅・コンスタンタンの起電力はよい一致を示します)
(この場合補償導線を使うことにどういうメリットがあるかわからないので)私まだこれが補償導線であることには否定的なのですが今回の記事の対象にしたケーブルが補償導線である可能性があるのは間違いないのでこのことを追記しておきます。
今のところ秋月電子通商さんからの回答はいただいていません 2015.06.13
この記事も参考にしてください。
「“K型熱電対 ステンレス管タイプ”(秋月電子通商)に関するディベート」
------なおこの記事は秋月電子通商を非難するつもりで書いているわけではありません。
計測器と接続するためのプラグにははっきり“K CHROMEL+ ALUMEL-”と書かれています。もしこの記事に書いた内容が正しければ秋月電子通商さんも被害者でしょう。
この件については秋月電子通商に問い合わせています。いくらなんでも私の熱電対だけTタイプだったということはないでしょう。おそらくロット単位でそうなっているんじゃないでしょうか。======
探したらレシートが出てきました。レシートの日時は2014年8月22日、18時32分になってました。同時期に購入された方はチェックした方がいいかもしれません。
K型ではなくT型だと思う理由
・線材の色
K型の場合プラス極がクロメル、マイナス極がアルメルです。秋月の熱電対は赤い被覆の方が赤みを帯びています。赤みを帯びているということはアルメルのはずですから逆のような気がします。
・磁性
アルメルは磁石にくっつくらしいです。でもこの熱電対の線材はどちらがわも磁石には反応しないようです。
・ハンダののり
クロメルはハンダ付けが難しいらしいですがどちらの線材も簡単にハンダ付けできました。
このことは「熱電対素線(タイプK、クロメル=アルメル)をハンダ付けしてみた」に書いたとおりです。このとき線材の被覆の色と合わせて変だというのはありました。記事の歯切れが悪かったのはそのせいです (^^;;
・熱の伝わり方
クロメル・アルメルはどちらも熱伝導率が低いはずなので銅線のときのように外部の熱が線材を通して伝わることの影響はあんまり考えていなかったのですが、そうとうに熱が伝わっているように思えます(室温での氷点の測定で0.5℃~1℃程度の測定温度の上昇が見られました)
ここはちょっと微妙で冒頭に追記した補償導線だとすると、適切な補償ができていないとか補償接点での温度ムラの可能性も出てきます。
今は今後に備えて冷接点で外部からの熱の出入りができるだけ少なくなるよう作りなおしているところです。
・電気抵抗
素線を3cmほど切り出して抵抗を測ってみました。
赤い被覆の素線 0.010Ω
青い被覆の素線 0.180Ω
素線の経はどちらも0.3mmくらいみたいですから青い被覆の線の方が20倍くらいの抵抗率を持つことになります。
クロメルとアルメルの体積抵抗率は「八光電機 - 各種物質の性質: 金属の電気抵抗」にあってクロメルの方がアルメルの二倍強の抵抗率をもつようです。
明らかに上の測定結果とは矛盾しています。
一方銅とコンスタンタンの体積抵抗率は20倍以上の差があり上の測定結果に近いです。
データ点数が多い理科年表で調べてみると室温程度での銅とコンスタンタンの抵抗率の比は17倍強のようですからこちらは上の結果によく一致しています。
もっとも有効数字一桁の測定結果ですからどちらでもかまいませんが。
それぞれの素線の材質が何かわからないのですが、クロメル-アルメルか銅-コンスタンタンのいずれかの選択肢しかないとすれば後者でしょう。
・銅に対する熱起電力
上の氷点測定での熱伝導の影響の問題があり冷接点を作りなおそうとして再度ハンダ付けをしました。今回もあっさりハンダ付けはできました。そして今回はハンダ付けするときの熱起電力の変化を記録していたらこんな現象が発生しました。
まずアルメル(のはずの)線材を銅線とハンダ付けし、次にクロメル(のはずの)線材を銅線とハンダ付けします。
ハンダ付けするときそこで大きな熱起電力が発生するはずですのでグラフには二つのピークが現れるはずです。6分経過したところで-11000μVのピークがありますがこれはクロメル(のはずの)線材をハンダ付けしたときです。
ではアルメル(のはずの)線材をハンダ付けしたときのピークはどこにあるのかというとどこにもありません。
“-11000μV”とマイナスになっているのは冷接点の方を加熱しているからです。この起電力は(T型=銅・コンスタンタン熱電対だとすると熱接点は氷点にあるので)冷接点が230℃前後になったことを意味します(使ったハンダはSn60Pb40、ハンダゴテは30Wターボ付き)
もしこれが銅・クロメルの接合点であれば500℃を超えていることになります、というかその前に極性が逆ですが。
ここが銅・アルメルの接合点なら極性は合っていますがやはり500℃超えです。
上のグラフの縦軸を拡大したものです。ふつうだったら指先で接点をつまんだだけでこのグラフからはみ出してしまうはずです。二つの接点にハンダゴテをあてたのに温度が激しく変化した形跡は一箇所しかありません。
T型熱電対ではないかもしれないと思う理由
・補償導線
冒頭に追記しましたが、今回の記事の対象にしているものがK型熱電対の補償導線の可能性があります。
・線材の固さ
赤っぽい線材の方は銅にしてはちょっと固すぎるような気がします。
・炎色反応
赤っぽい線材の方で銅の炎色反応が見られませんでした。
ただ炎色反応の実験をやったのは遠い昔なので手順が間違っているかもしれません。
ふつうの銅線で手順を確認してもう一度確かめるつもりです。
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理科年表で調べてみましたが銅-アルメルだったら(極性は逆ですが)銅-クロメルとだいたい同じ大きさのピークになるはずです。
銅線とハンダ付けして熱起電力が発生しないのは銅と同じ熱起電力をもつものとなります。金とか銀が銅とほぼ同じ起電力でしたが金や銀だったらひと目でわかりそうです。
もっともこんなこと調べなくてもピークがまったくみられない(拡大しても見られない)ということは結論は一つしかありません。
アルメルと思っていた線材はじつは銅だった。
となるとクロメルと思っていた線材はなんだったのでしょう。理科年表で室温くらいのところでクロメル・アルメル熱電対と同じくらいの起電力になる(片側は銅の)組み合わせを探してみるとコンスタンタンがあります。
銅・コンスタンタンつまりT型熱電対だとすれば赤い被覆の線材は銅ですから赤っぽくてあたりまえです。
実際に起電力を測ってみたら規準起電力より小さかった規準起電力は信用しないほうがいい、なんてことも書いてしまったのですが、銅・コンスタンタンの室温近辺の起電力はちょっとクロメル・アルメルより小さいです。
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ということでK型(クロメル・アルメル)ではないのではないかという疑念は膨らみつづけ、T型熱電対であるという予想は確信に変化しつつあります。
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プラグには“K CHROMEL+ ALUMEL-”の表記がありますが.....
赤い被覆(プラス極)の方の線材が赤みを帯びています。
これは銅線をハンダ付けした後です。クロメルのはずの線材にもきれいにハンダがのっています。
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関連
以下のリンクで熱電対関連の記事の中にはこの記事に書いた熱電対がK型であるという前提で書かれた部分があります(“規準起電力はあてにならない”みたいな内容)
これから訂正して回りますが参照されるときは注意していただきますようお願いします。
「記事一覧(測定、電子工作、天文計算)」
趣味の実験
趣味の気象観測
趣味の電子工作
PIC
「熱電対起電力を直接測定できる22bit(20.6bit)ADコンバータMCP3553」
「PICとMCP3425で作るK熱電対温度計 - OPA277PAでプリアンプを作る」
「熱電対による温度測定の課題 - K型+インスツルメンテーション(計装)アンプ編」
「K型熱電対による温度測定の課題 - 2」
「熱電対の起電力の近似式 - 起電力と温度の相互変換 (250℃~1300℃編)」
「熱電対の起電力の近似式 - 起電力と温度の相互変換」
「正確な温度を求めて (1)」
「氷点 - 摂氏0度の作り方」
参考
「学習院 - 仲山英之・石井菊次郎 - 2-1 温度測定」
「岩手大学農学部 岡田益己 - 温度の正しい測り方(3)熱電対の作り方・使い方」
「アナログ・デバイセズ - 熱電対温度計測に関する不明瞭な部分の理解」
「株式会社東京熱学 - 2-3 熱電対の許容差」
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きちんと実験して疑念を考察するあたりがさすがですね^^。
赤い被覆線のほうはまさに銅に見えますね。
アルメルもクロメルもニッケル主成分の合金みないなのでこんな銅色っぽくなるとは思えませんよね。
銅-コンスタンタンの熱電対のほうが値段が安いとか・・・裏があったりして^^;
投稿: ほよほよ | 2015年6月12日 (金) 14時58分
アルメルは赤褐色に見えることもある、というのがあったんですがニッケル合金の色には見えないですよね。
銅との接点で熱起電力が完全にゼロのようなのでT型に間違いないとは思うのですが銅にしてはちょっとやわらかくないようでそこが気になります。
銅の炎色反応を確かめればいいのかもしれません。
素線としてはどっちかというとクロメルアルメルの方がちょっと安いようですよ。
投稿: セッピーナ | 2015年6月12日 (金) 16時09分
こんにちは
いつも参考にさせていただいています
補償導線と熱電対は別物の金属
http://www.hakko.co.jp/use/use18.htm
なので、コストが安い金属を使用しているはず
熱電対素線は凄く高価ですが購入可能です
細くてテフロン線など計測に取り回しが良いものがあります
投稿: SEC | 2015年6月13日 (土) 10時23分
コメントありがとうございます m(._.)m
いつも記事で紹介されているものをよだれを流しながら拝見しています。
記事に書いてあるように、まず
赤い被覆の方は
銅とのハンダ付けで熱起電力が発生しなかった --- > プラス極は銅線
青い被覆の方は
電気抵抗が20倍近くあった
ハンダ付けのときの起電力が11mVであった
----> マイナス極はコンスタンタン
というのは間違いないと思います。
調べたら確かにK型熱電対の補償導線としてCu/Cu-Niというのはあるようですが、クロメルもアルメルも15フィート2000円くらいのものがありコンスタンタンと同じような価格のようです。
1mもないわけですから高価な白金-白金ロジウムのようにここに補償導線を使う意味はないように思います。
(クロメル・アルメルより銅コンスタンタンの方が取り回しが楽だからという理由ならわかりますが、私はクロメル・アルメルの現物を見たことがないのでこれはなんとも言えません)
ということでおそらく製造元で使用する素線を間違っただけではないでしょうか。補償導線との結合部らしきところも見当たりません。C/C-Niの補償導線の使用温度上限は100℃だったのでセンサー部分に結合部があるということはないでしょうし。
とは言え補償導線である可能性を否定できるわけではないのでそのことは記事に追記しておきます。
投稿: セッピーナ | 2015年6月13日 (土) 11時39分