恒温槽は万能か? - 温度センサーと測定対象の温度差
これまで何度か
サーミスタを使った温度計を校正するのはめんどう
そのためには(例えば)25℃であることを正確に測定できる温度計が必要だから
ということを書いたのですが、じゃあ正確な温度計があればそれだけでサーミスタ(などの温度センサー)を校正できるかというとそう簡単でもありません。そのうち記事にしたいと思いますが先日サーミスタの抵抗値の測定がいかにたいへんか思い知らされたできごとがありました。
またこの記事は恒温槽(恒温水槽)の中の温度は一定であるという前提で書いていますがほんとうに一様かどうかもちゃんとチェックした方がよさそうです。
「(pn接合による)水温測定時の対流の影響?」
恒温槽の中に正確な温度計(例えば測温抵抗体(白金薄膜抵抗)温度計)と測定対象(サーミスタ)を入れて温度とサーミスタの抵抗値を読み取るわけですが問題があります。
一つはサーミスタの抵抗値を読み取るとき電流を流すので熱が発生しこのためサーミスタの温度が上昇します。要するに“自己加熱”が発生するわけでこれは測温抵抗体でも同じです。自己加熱はその大きさを見積もる(測定する)方法があるので補正が可能です。
「サーミスタや白金抵抗温度計の自己発熱の影響を補正する方法」
(これは理屈は簡単ですが素人にはむずかそうです)
「サーミスタ/測温抵抗体の自己発熱(熱放散係数)の測り方」
「サーミスタの自己発熱・熱放散係数を測ってみた」
(この二つの方法の方が現実的でしょう)
もう一つは配線材料やシースを通して流れ込んでくる(あるいは逃げ出していく)熱があるため温度の上昇あるいは低下があることです。こちらはやっかいです。
自己加熱を除いたモデル図です。
T0は媒質(水、空気、銅ブロックなど)の温度、Teは環境の温度(室温)です。
R1、R2は媒質とそれぞれのセンサーの間の熱抵抗、R3、R4は環境とそれぞれのセンサーの間の熱抵抗になります。
それぞれのセンサーの(定常状態での)温度は
Tsensor1 = (Te-T0) *R1/(R1+R3)+T0
Tsensor2 = (Te-T0) *R2/(R2+R4)+T0
となります。 つまりふたつのセンサーの間には一般的には温度差ができます。
ふつう R1 << R2、R3 << R4 ですから Tsensor1≒T0、Tsensor2≒T0 と考えていいのですができるだけ正確な測定をしようとするとこれらの熱抵抗を正確に知る必要があります。
本気で(?)サーミスタの抵抗値を測ろうとすると“とんでもないこと”になることは
「サーミスタの抵抗値に見る村田製作所の驚くべき温度測定能力」
に書きました。
理屈の上ではセンサーなどの形状、材質(物性)がわかれば熱抵抗は求められるはずですが、実際にはなかなか難しいです。細かい話をはじめると熱抵抗の温度依存性なんかどうだろうという方向にも行きます。
氷点の場合はセンサーの形状・材質が同じでも氷の形状・分布で熱抵抗が変わってきます(このことは「配線を通して伝わる熱 - 氷点/摂氏0度の作り方と使い方」でちょっとふれています)
けっきょく二つのセンサーのそれぞれの温度が恒温槽の温度とどれだけ差があるかよくわからないという結論になります。基本的にはR1とR2を可能な限り小さくし、R3とR4を可能な限り大きくしてTsensor1=Tsensor2=T0 と“信じる”ことになります。
ところで目的は最初の図で言うと“ある温度でのサーミスタの抵抗値を測ること”ですから恒温槽とサーミスタあるいは温度計の温度が一致している必要はありません。サーミスタと温度計の温度が一致していれば(あるいはサーミスタと温度計にどれだけの温度差があるかわかれば)測定の目的を果たすことができます。
じゃあそれにはどうすればいいのかを次に考えます。
==> お急ぎの方はこちらをどうぞ。
「抵抗器温度係数の実験データからの算出の方法」
このモデルの解があります。その先はご自分で。
(続く)
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