サーミスタのメーカー資料についての素朴な疑問 - 温度と抵抗値(B定数)
今実験に使っているサーミスタNCP18XH103 の資料を見ると不思議なことに気がつきます。
温度に対する抵抗値はなめらかな(つまり微分可能な)変化をしているのですがそうでないところがあります。温度=抵抗値だと細部がわかりやすいグラフにしにくいので抵抗値をB定数に変換して温度=B定数のグラフを作ります。
60℃のところでグラフが折れ線になっているのです。
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これはdB/dTが、つまりdR/dTが60℃で不連続であることを意味します。素直に考えるとここで相転移が起きているようです。
金属酸化物を焼結したものがこんな温度でどうして相転移を起こすのかよくわからないのですが、上のグラフを見る限り相転移が起きているとしか思えません。
NTCサーミスタはともかくPTCサーミスタは抵抗値が急激に変化するところでは相転移が起きているようです。このことは
「TDK - 一定温度を境にして結晶系が変わるPTCサーミスタ」
に書いてありました。もっともPTCサーミスタは金属酸化物ではなくチタン酸バリウムを焼結したものです。
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ほんとに60℃で相転移が起きているかどうかはすぐにわかるはずです。「はんだの融点/共晶点での相転移と過冷却現象」に書いたのと同じ方法で調べればじょじょに加熱あるいは冷却したとき相転移を起こしたところで温度の動きに変化がみられるからです。
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ただ相転移が起きるということには私は否定的です。抵抗値を実測したときの結果を見ると60℃で相転移が起きたような形跡がありません。
メーカーの資料は抵抗値を測定するとき60℃を境に測定方法を変えたから___例えば60℃以下では水槽、60℃以上ではオイルバスを使ったから__ではないかと密かに疑っています。
もちろん私の使っているサーミスタは60℃ではなくもっと高い温度で相転移が起こるという可能性もあるのですが。
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実験方法によってはこういう現象はよく起こります。例えば「計測の腕が試される? サーミスタの抵抗とB定数の測定」の最初にあるグラフを見ると50℃のところでB定数の変化に段差ができています。なぜこうなったかというと50℃のところを境に温度の時間あたりの変化を変えたからです。50℃以下では時間あたりの温度の変化を大きくしてしまったため温度計(測温抵抗体)とサーミスタに温度が発生したためと思われます。
(じつは上にあるグラフは「計測の腕が試される? サーミスタの抵抗とB定数の測定」のグラフを作ったときと同じデータを使っているのですが、温度計とサーミスタの温度差を補正したものです)
いずれにしても60℃あたりのサーミスタの挙動を精査すれば真相ははっきりしてくると思います。
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