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2015年7月11日 (土)

抵抗器温度係数の実験データからの算出の方法

金属皮膜抵抗や炭素皮膜抵抗(や金属箔抵抗)の温度係数を調べようと思ったら温度を変化させ抵抗値の変化を温度の変化で割って温度係数を求めればいいはずですが、現実にはそう簡単ではありません。

というのは実際に抵抗値の温度変化を測ると次のような変化を示すからです。
Mf14cc1001f_drdt

ふつう温度が上昇するときと下降するときでは同じ温度に対する抵抗値が違ってきます。
一般的には上の図のように温度が上昇するときから求めた温度係数と下降するときから求めた温度係数も違います。

この温度による変化にはいろいろなパターンがあります。模式図的に書くとこんなのとか。
Photo
まあ磁化曲線みたいなのを想像すればいいと思いますがバリエーションがいろいろあります。

なぜこのような現象が発生するのかは感覚的にわかりますが、こういう場合どう考えたら正しい温度係数を求めることができるかを理屈できちんと考えようというのが今回の記事です。

※ この記事でいう温度係数というのは単に抵抗値の変化を温度の変化で割ったものですが、データシートなどにある温度係数というのはT.C.R.と言われるもので温度を変化させる範囲がきちんと(例えば25℃~125℃)決まっています。

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まず次のようなモデルを考えます。
(これは「氷点を電気的モデルで考えてみた - 摂氏0度の作り方と使い方」にあるモデルを簡略化したものです)
Model02

Te: 環境の温度、ふつうは室温です。
T0: 抵抗や温度計を加熱するための“もの”の温度です。
   水であったり空気であったり、アルミのブロックであったりします。
Sensor1: 温度計です。
Sensor2: 測定対象です。今回は抵抗器です。
R1、R2: 上の水やアルミブロックとSensor1・Sensor2との間の熱抵抗です。
R3、R4: 外部とSensor1・Sensor2との間の熱抵抗です。
      これは具体的には温度計や抵抗器から引き出された配線やシースの熱抵抗を意味します。

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Sensor1とSensor2は定数が違うだけなのでSensor1の方を考えてみます。

Sensor1の温度をts、熱容量をC1、R1を流れる熱量をi1、R3を流れる熱量をi3とします。
一定の速度で加熱することを想定しT0を v0*t + T0 とします。

i1 は R1の両端の温度差とR1の熱抵抗で決まります。
    i1 = ( v0*t+T0 - ts ) / R1
同様に
    i3 = ( Te - ts ) / R3
です。

Sensor1については(i1、i2の電流が流れ込む容量C1のコンデンサと同じことなので)

    dts/dt = ( i1 + i3 ) / C1

が成り立ちます。この微分方程式を解けばSensor1の温度がわかるはずです。

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日常の経験からするとこういう場合(過渡的なところは別として)T0が一定の速度で上昇すればtsも一定の速度で上昇するはずです。そこで

    ts = vs * t + Ts    (1)

と仮定し上の微分方程式に代入してみます。

(途中は省略して)

    vs = 1 / (C1*R1*R3) * ( R3*v0 - (R1+R3)*vs ) * t
        + R3*T0 + R1*Te - (R1+R3)*Ts )      (2)

が得られます。(1)式が微分方程式の解であるためにはtの係数がゼロである必要があります。このことから

    vs = R3*v0 / (R1+R3)

であることがわかります。ふつうR1はR3に比べとても小さいですからセンサーの温度は“加熱(冷却)装置”の温度とだいたい同じペースで変化するということを意味しています。

次にこの結果を(2)式に代入し等号が成り立つ条件を求めます。そうすると(これも途中は省略して)

    Ts = (R3*T0 + R1*Te) / (R1+R3) - C1*R1*R3^2*v0/(R1+R3)^2

が得られます。 これで上の微分方程式の解(特殊解)が見つかったことになります。
加熱(冷却)を始めてしばらくするとセンサーの温度変化はこの解で表されると考えて差し支えありませんが、どんな場合の温度変化もこの式で表されるわけではありませんので念のため。

ふつうR1は最小に、R3は最大になるように作りますから R1 << R3 を前提に

    Ts ≒ T0 + R1/R3*Te - C1*R1*v0
    Ts - T0 = R1/R3*Te - C1*R1*v0

となります。これは

  1. センサーの温度はT0に近いが
  2. 外部に逃げ出す(あるいは外部から流れ込む)熱で多少外部の温度に引っ張られ
  3. センサーの熱容量が小さいほど、またセンサーと“加熱装置”の熱抵抗が小さいほど
    そして温度変化が小さいほど“加熱装置”との温度差は小さくなる


ことを意味しています。

--------

同様に加熱装置とSensor2の温度差は

    Ts - T0 = R2/R4*Te - C2*R2*v0

となります。ここから二つのセンサー(あるいは温度計と抵抗器)の温度差は

    (R2/R4 - R1/R3)*Te - (C2*R2 - C1*R1)*v0

ということになります。

左側の項は温度変化があろうとなかろうと(設置条件が変わらなければ)一定です。ある温度に対する抵抗値を知りたい場合(例えばサーミスタの温度と抵抗値の関係を調べる場合)は問題ですが、温度係数を求めるので(温度係数が温度によって極端に変化するような場合をのぞき)実際上問題にはなりません。

今回の場合

  - (C2*R2 - C1*R1)*v0

だけが問題です。 (C2*R2 - C1*R1)はセンサーや温度計の設置条件を変えなければ一定ですから、けっきょく“温度計とセンサーの温度差は温度の変化速度に比例する”という常識的な結論が得られます。

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実用的には次のようなことになります。

  1℃/分の速度で温度を上昇させたとき10kΩの抵抗値になったのは25.2℃だった
  1℃/分の速度で温度を下降させたとき10kΩの抵抗値になったのは25.6℃だった

ということであれば10kΩの抵抗値になるのは(ほんとうは)25.4℃のときということになります。

また

  1℃/分の速度で温度を上昇させたとき10kΩの抵抗値になったのは25.2℃だった
  2℃/分の速度で温度を下降させたとき20kΩの抵抗値になったのは25.6℃だった

ということであれば10kΩの抵抗値になるのは(ほんとうは)24.8℃のときということです。

-----

私のようにヒータで加熱し、加熱が終わったら自然に冷却するのを待つ、という方法をとると温度の低いときと高いときで、また加熱するときと冷却するときで温度変化の速度は異なりますので温度計の温度と抵抗器の温度の差はいろいろと変化するはずです。

これが温度の上昇時と下降時で温度=抵抗値のグラフがさまざまに変化する理由であり、上昇・下降で温度係数が違ってくる理由になります。

以上の理論で現実のデータを説明できるかが今後の課題です。

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おまけ

これは加熱するとき途中でいったん中止したりパワーを変えたりしたものです。
_1k

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