四線式抵抗測定用マルチプレクサ(4回路2接点スイッチ相当)
二つの抵抗器の抵抗値を一つの計測装置で測れるようにマルチプレクサを作りました。
測温抵抗体(白金薄膜抵抗)も増えましたし、サーミスタはこの間表面実装タイプを20個買いました。pn接合(温度計?)の材料はいくらでもあります。ADコンバータも16bitMCP3425が三個、20.6bitMCP3553が一つあります。
ところがこういう電流を流して測るための定電流源は二つしかありません。定電流源を増やすのはけっこうたいへんです。作るのがたいへんという以上に抵抗の抵抗値(さらに場合によっては温度係数)を選別するのがたいへんでとても時間がかかります。そこでマルチプレクサを作って複数のセンサを一つの計測システムで使えるようにしようと考えました。
今回作ったものは
「PIC+SPI+I2C 自記温湿度計+気圧計+8ch電圧計+周波数カウンタ(技術要素一覧)」
「PIC+SPI+I2C 自記温湿度計+気圧計+8ch電圧計のソース - main()」
のモジュールの一つとして使う予定です。
用途は当面
・二つの測温抵抗体やサーミスタの抵抗値/温度測定値の比較
・自動キャリブレーション
・抵抗温度係数測定の精度の向上
を考えています。
なおこういう目的には正負電源用のアナログスイッチがあるそうです。
居酒屋ガレージ店主(JH3DBO) から教えていただきました。
(この記事のコメント欄にあります)
それからこのマルチプレクサの応用例として
「脇の下と口の中の体温をいっしょに測ってみた - 腋窩温と舌下温」
を書きました。
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マルチプレクサはアナログ・スイッチ4066を使った別に説明を書くまでもないものです。アナログスイッチのオン抵抗はけっこう大きいのですが四線式ですし、等価並列抵抗が数百MΩあるはずの定電流源を使っているので理屈の上ではマルチプレクサを使っても得られる結果は同じはずです。
ただ電源は+3.3V/-1.7Vで動作させています。(抵抗値測定自体では必要ないのですが)マイナスの電圧も測れるようにするためです。
東芝セミコンダクタのTC4066BPだったら±9Vでも使えるのですが、SN74HC4066Nはそういうわけにも行かないのでギリギリの線に押さえています。
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いちばん気になるのは、ほんとうにマルチプレクサを使って正確な抵抗値測定ができるのか、という点です。
そこで比較的精度の高く安定しているタクマン電子の金属皮膜抵抗1000B(100Ω、±0.1%、温度係数(T.C.R.)のスペック値は50ppm/Kですが、25℃での微分温度係数の実測値は1ppm/K程度)の抵抗値をマルチプレクサなし、ありで測ってみました。
抵抗値測定の基準にはアルファ・エレクトロニクスの100.00Ω、±0.01%の金属箔抵抗を使っています。
青い点はアルファ・エレクトロニクスの金属箔です。これを基準にキャリブレーションをやっているわけですからとうぜん100.00Ω近辺の抵抗値を示しています。
一方測定対象にしたタクマン電子・1000Bはマルチプレクサを使おうが使うまいが99.96Ωです。マルチプレクサを使ってもまったく問題ないようです。
細かく見るとマルチプレクサを使った方がほんのすこし抵抗値が低くなっているようにも見えます。これはおそらくオフセットの影響でしょう。オフセットもマルチプレクサを使った方がちょっとだけ小さいです。1mA弱の電流を流して測っていますから1μVのオフセットは0.001Ωに相当します。
これは20.6bitのADコンバータMCP3553で測っています。MCP3553は自動オフセット調整機能があるのでオフセット電圧はゼロのはずですが、このオフセットはオフセット電流が測定対象に流れて発生したオフセットのようです。
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参考
「白金抵抗温度計の校正とその使い方 - JCSS:計量法認定」
「はじめての精密工学 - 白金抵抗温度計を用いた精密温度測定」
「JEMIC 計測サークルニュースVol.26, No.2 ~ 4 連載(1997) - 浜田登喜夫 - 白金抵抗温度計の校正とその使い方」
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マルチプレクサ(アナログスイッチ)単電源系の「4016」「4066」ではなく、±電源(VDDとVEE)の
ある4051、4052、4053が使いやすい(オン・オフ制御がVDD-VSS間の電圧でできる)と思うの
ですが…
HC4051、52、53は±5Vで使えます。
投稿: 居酒屋ガレージ店主(JH3DBO) | 2015年7月21日 (火) 08時45分
あれ、そういうものがあるんですか (@@)
ムダなことをしてしまいました orz
投稿: セッピーナ | 2015年7月21日 (火) 08時58分