Steinhart-Hart式の精度 - サーミスタの温度抵抗値変換の近似式
「Wikipedia - サーミスタ」を見るとSteinhart-Hart式というのがあります。どの程度サーミスタの温度抵抗値特性に合っているものかメーカの資料と比較してみました。
上のグラフはメーカーの資料をもとにまず近似式の係数を決め、得られた係数を作って抵抗値から温度を算出し実際の温度との差を示したものです。
B定数が一定としたとき
緑色の線です。サーミスタの特性を説明するもっとも簡単でわかりやすい式です。
「温度と抵抗値の相互変換 - B定数について」
T= 1 / ( ln(R/R0) / B + 1/(T0+273.15) ) - 273.15
いつも例にするNCP18XH103F03RB では
T= 1 / ( ln(R/10) / 3380 + 1/(T0+273.15) ) - 273.15
となります。
この式で温度を小数点以下二桁まで計算しているのを見たことがありますが高温側、低温側での誤差が大きく高温側では+4℃を超えます。製品個々の特性のバラ付きが±1.8℃に収まっていることを考えると広い温度範囲を対象にするときはちょっと使いづらい式です。
B定数を温度の一次関数としたとき
紫の線で示したものです。一次関数と言っても60℃くらいで係数を変える必要があります。
「B定数の温度特性」
「B定数の近似式の作り方」
T= 1 / ( ln(R/R0) / B + 1/(T0+273.15) ) - 273.15
でのNCP18XH103F03RB 場合次のようにして計算したBを使います。
61.8℃未満
B = 3266.9 + T * 2.233
61.8℃以上
B = 3404.9 + (T-61.83) * 1.276
メーカーの資料とよく一致しています。製品の個体差がかなりあることを考えるこれ以上誤差の小さい近似式を作ってもあまり意味はないでしょう。
メーカーの資料にはちょっと疑問もあるのですが....
「サーミスタのメーカー資料についての素朴な疑問 - 温度と抵抗値(B定数)」
Steinhart-Hart式
Wikipedaiによれば
1/T = a + b * ln(R) + c * ln(R)^3
です。Tは熱力学温度なので℃でTを算出する式であれば
T = 1 / ( a + b * ln(R) + c * ln(R)^3 ) -273.15
ということになります。a、b、cについてはNCP18XH103F03RB の場合次の値になりました。
a = 2.6764e-3
b = 0.2921e-3
c = 0.5153e-6
緑の線とくらべるとはるかに実際の抵抗値に合っていますが、紫の線にくらべると差はかなり大きいです。度の桁までしか必要ないのならそう問題にはならないと思いますが、温度から抵抗値を計算するのがめんどうとかいうこともありわざわざ使うほどのものではないように感じます。この式を使うことに何か意味があるのかもしれませんが、そのあたりの事情はよくわかりません。
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すべてに共通するのですが以上は計算結果をメーカーに資料と比較したものです。実際のサーミスタと比較したものではありません。
このことについては「抵抗値-温度変換計算の精度と誤差」などを参考にしてください。
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コメント
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Steinhart-Hart式ですが、
http://www.nktherm.com/tec/linearize.html
をつかって-40℃、40℃、120℃の抵抗値で係数を算出すると、
a=0.000865277
b=0.000255620
c=0.000000171
となり、上で使われている係数とは異なります。
これで計算すると、途中で計算式を変えなくても
-40℃から120℃で誤差は0.1℃以内に収まります。極端な話、B定数の近似式でされているように途中で計算式を変えてよいのなら、0.01℃以内に収まります。
投稿: | 2018年2月24日 (土) 10時28分
コメントありがとうございます m(._.)m
のちほど確認して返信させていただきますのでよろしくお願いします。
投稿: セッピーナ | 2018年2月25日 (日) 16時11分