水深と海水の密度・水圧の関係 - 海水の状態方程式
“海水の状態方程式(UNESCO (1981))”により求めた海水の密度を海面から対象水深まで積分して水圧を求めるという方法で水深と水圧の一覧表を作ってみました。
(実用(?)向けの「水深から水圧を求める計算式(海水編)」というのもあります)
水深6500mの水圧については約680気圧(文部科学省、熊本大学横瀬先生)とするものと約680kgf/cm^2とするもの(海洋研究開発機構)とするものがあるのですが、後者の方が正しいのであればこの表でだいたいあっていると思います。
(「水深6500mの深海の水圧は何気圧? - 専門家でも意見が違う?」)
g=9.80665m/s^2 (重力加速度、水深によらず一様と近似)
S=37 (海水塩分、水深によらず一様と仮定)
T=0 ℃ (現場水温、水深によらず一様と仮定)
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水深と(海水面に対する)水圧の関係を計算するときあんまり水深が大きくなければ次の計算式で十分です。
P = ρgh ( ρ 海水の密度、g 重力加速度、h 水深 )
これはWikipediaにもある式です。
水深が大きい場合事情が違ってきます。海水の場合は水深によって塩濃度が異なることがありますし、水圧で圧縮されて同じ塩濃度・温度でも密度が変化します。さらに重力加速度も一様ではなくなります。そういう場合は
P = ∫ρ(x)g(x)dx ( x=0, h )
となります。ただ水深が大きいと言っても地球の直径に比べたらわずかなものですのでたいていの場合
P = ∫ρ(x)gdx ( x=0, h )
つまり重力加速度一定で問題ないはずです。
ここで問題になるのは海水の密度ρ(x)の求め方です。
密度が何で変わるかというと、塩濃度、温度、水圧です。したがってこれら三つから密度を求める必要があります。
この方法として「海面下6500mの水圧は680気圧? - Excelで水深と水圧の関係を計算する」では
「Little Waves - 海水の密度」
にある式を使わせていただきました。ただ式の出典が明記されておらず(Little Wavesさんには申し訳ないのですが)係数に転記ミスとかないだろうかとちょっと使うのに不安がありました(実際カッコの数が合わないというようなところがありました)
これについて資料が見つかりましたので紹介しておきます。
「気象庁気象研究所(刊行物)
- 気象研究所技術報告
- 第47号 気象研究所共用海洋モデル(MRI.COM)解説
- 第1章 支配方程式」
この資料の「1.2.2 水温(温位)・塩分方程式」に海水の状態方程式に関する説明があります。ただこの部分には単位の記述がありません。これについては変数名解説 やLittle Wavesさんの記事「海水の密度」を参考にすると
塩分 (PSU)
水圧 bar
温度 ℃
となります。
塩分(塩濃度)は“無次元数”ですが、PSUとかつけたりもするみたいです。これについては
「三洋テクノマリン - 通信No.7 海の言葉⑦ Salinity」
にある説明がいちばんわかりやすかったです。
なお海水の状態方程式についてはこれ(UNESCO (1981))より新しいモデルがある模様ですが、おそらく素人の計算の精度では結果は変わらないのではないかと思います。
(「日本海洋学会 海の研究 - Vol.19-2 新しい海水の状態方程式と塩分の定義」)
ところで上の資料には“現場水温”、“ポテンシャル水温”という言葉が出てきますが、“現場水温”というのはふつうの意味での水温です。計算には現場水温を使えばいいです。
海面にある海水が深層に移動したとすると圧力のため圧縮されて温度が上がります。したがって深層にある海水が海面にあるとしたら“現場水温”より低い温度になるはずです。それが“ポテンシャル水温”です。
つまり水深の大きいところにあるポテンシャル水温4℃の海水を採ってきて海面にある水温4℃の海水と混ぜると4℃の海水になりますが、現場水温4℃の海水を採ってきて海面にある水温4℃の海水と混ぜても4℃にはならないということです。
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関連
「水深と水圧の関係 - 海面下6500mでの水圧は? (1)」
「海面下6500mの水圧は658気圧 - Excelで水深と水圧の関係を計算する 」
「水深6500mの深海の水圧は何気圧? - 専門家でも意見が違う?」
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「しんかい6500の受ける(水深6500mの)水圧 - 文部科学省『どんな?文科!』編」
「続・しんかい6500の受ける(水深6500mの)水圧 - 文部科学省『どんな?文科!』編」
「海水の塩濃度(PSU、塩分)、水温と水深の関係」 (この記事)
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