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2015年9月17日 (木)

バーナード星の固有運動量(赤経・赤緯成分)と年周視差を写真から求める方法

日時をおいて撮影された複数の写真からバーナード星の固有運動を算出する方法について記します。ここでは「バーナード星の2枚の写真から固有運動の赤経・赤緯成分を計算してみた」に書いたものを例にします。

この方法を応用すると年周視差も求めることができますが年周視差を求めるためには焦点距離の長いレンズ・反射鏡での注意深い撮影が必要です。年周視差を検出できるだけの写真が撮れる方はお持ちの機材や撮影技術、天文の知識を誇っていいと思います。
応用例としては

  「バーナード星の年周視差と固有運動の観測・まとめ
  「バーナード星の年周視差と固有運動を6枚の写真から計算してみた

があります。

なお固有運動・年周視差の影響など恒星の位置計算については

  「恒星の位置計算 - ヒッパルコス星表の使い方から大気差の計算式まで

が参考になると思います。

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固有運動、年周視差算出の概要

0. 日時を隔てて撮影されたバーナード星の写真を2枚(以上)用意します。

年周視差の正確な検出にはできるだけ多くの写真、特に3月~4月、9月~10月に撮影した写真があることが望ましいです(3月の撮影は難しいかもしれませんが)

1. それぞれの写真(画像)から星像の位置を読み取ります。

2. 既知の恒星と星像の対応関係(と撮影日時)をもとに写真の撮影条件(画像中心の視赤経・視赤緯、カメラの傾き、カメラの焦点距離、レンズの光軸中心と画像中心のずれ、歪曲収差等)を求めます。このとき高度にかかわらず大気差は必ず補正します。

3. 撮影条件とバーナード星の星像位置をもとにバーナード星の視位置を求めます。

4. バーナード星の視位置をICRS(≒J2000.0)での位置に変換します。

5. 二つの写真のバーナード星のICRS位置から固有運動の赤経・赤緯成分を求めます。

以下詳細を記します。

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0. 写真

まず時間を隔ててバーナード星を撮影した写真を2枚以上用意します。どの程度時間を隔てた写真を用意したらいいかは「「バーナード星の固有運動は何日でわかるか?」ランキング」が参考になるかもしれません。
言うまでもなく長い期間を隔てて撮った写真ほど精度の高い結果が得られます。
年周視差の場合は1年の間にできるだけ多くの写真を撮ります(複数年に渡っても撮影月がばらばらならいいですが、毎年7月1日に撮る、というようなやり方だと年周視差は検出できません)

今回は1年4ヶ月ほど隔てて撮った写真を使いました。

A. 2014年5月9日撮影
  「星空のおぼえ方-ソラのソムリエから自由をめざす - ウチから見える一番近い夜空の恒星!初GET☆彡

B. 2015年9月12日撮影
  「ほよほよのブログ - 九十九里浜SSAC その2

A.についてはサダルテミス さんから記事にある画像のオリジナルの画像を提供していただいていますのでそれを使います。

B.については記事にある画像(=オリジナルの画像を1/2に縮小したもの)を使っています(B.についてはオリジナル画像から星像位置を求めた結果をほよほよさんからいただきましたので、それを使った計算結果についてはあらためて記事にします)

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1. 星像位置の読み取り

画像から星像の位置をできるだけ正確に読み取ります。これは画像処理アプリで目視で位置を読み取るというような方法では画像のもつ情報を十分に引き出せません。具体的な方法については

  「「写真から星の座標を得る」アプリ
  「「写真から星の座標を得る」アプリ・JPEG対応版

を御覧ください。ピクセル以下の分解能が得られます。

読み取った星像位置から改めて画像を作ったものを示します。

A. 2014年5月9日撮影
Barnard_image

B. 2015年9月12日撮影
201509120

いずれも赤い星像がバーナード星のものです。二つの写真は撮影条件がまったく違いますし、星像位置の画像化のパラメータも違うのでバーナード星のマークがないと同じところを写したものと気が付かないかもしれません。星図と実際の星空を見比べたときどこがどう対応しているのかさっぱりわからないというのに似ています (^^;;

このときバーナード星とその他の恒星最低1個の位置を特定しておきます。その他の恒星としては HIP87901 が見つけやすいと思います。画角・撮影方向によってはHIP87860HIP88056 が写っているかもしれません。

バーナード星ともう一つの恒星が特定できればあとの恒星は下記の操作の過程で芋づる式に特定できます

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2. 撮影条件を求める

これはExcelの機能(ソルバー)を使っています。
バーナード星は動いているか? - 2 - その固有運動と年周視差」に具体的な方法と実際に計算に使うExcelファイルがあります。

注意すべき点を書いておきます。

まず撮影条件と撮影日時、撮影地の位置、星表位置から星像の位置を計算するシートを作ります。最初に撮影条件を適当に仮定します。こうするととうぜん計算で求めた星像位置と写真の星像位置は一致しません。そこで計算で求めた星像位置と写真の星像位置に一致するような撮影条件をソルバーで見つけます。

撮影条件のパラメータは多いのでいっぺんに決めようとするとヘンな値に収束する(あるいは収束しない)ことがあります。

まず恒星一個を対象にだいたいの撮影の方向(視赤経・視赤緯)を決定します。

次に恒星をもう一個追加しカメラの傾きと焦点距離を決定します。この段階ではバーナード星を使ってもかまいません。

ここまで来たら星表位置から計算した星像位置と写真にある星像位置はだいたい一致するようになるので各々の星像がどの恒星に対応するものかはすぐに特定できるようになります。

計算にはできるだけ多くの恒星を使うようにします。大気差や歪曲収差の補正が必要なためです。といっても数ヶ月~十数ヶ月でバーナード星の固有運動が検出できるくらいの画角になると恒星を10個も特定できれば上出来の方だと思います。

特定できたすべての恒星(ただしバーナード星を除く)でいったんソルバーを収束させておき、そのあと光軸のずれ、歪曲収差を変化させるセルに追加して再度ソルバーを適用します。

ソルバーを使うにはちょっとしてコツみたいなものがありますので、ソルバーに慣れていない方は簡単なもので練習してからの方がいいかもしれません。

B.の写真から得た星像位置に撮影条件の算出に使った恒星の位置を追記したもの
201509121


--------

3. バーナード星の視位置を求める。
4. バーナード星の視位置をICRS(≒J2000.0)位置に変換する。

これも「バーナード星は動いているか? - 2 - その固有運動と年周視差」(の後半)にあります。この記事にあるExcelファイルを使うと直接ICRS位置を求めることができます(視位置もいっしょに求まります)

今回使った491日間隔てて撮った写真では固有運動(+年周視差?)によって赤い線で示しただけ動いています。
20150912

5. 固有運動(赤経、赤緯成分)を求める。

これは「バーナード星は動いているか? - 2 - その固有運動と年周視差」のExcelファイルにはないのですが、バーナード星のICRS位置を求めるところを利用して行うことができます。

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バーナード星のICRS位置を求めるとき

写真のバーナード星の星像位置を入力する
バーナード星の星表位置を(適当に)入力する(ただし固有運動、年周視差は0とする)
元期は適当に設定します(固有運動、年周視差が0なので元期は計算結果に影響しない)

バーナード星の星表位置(赤経、赤緯)を変化させるセル、星像位置の残差を目的セルにして残差が最小になるようにソルバーを適用する。

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バーナード星の固有運動を求めるとき

2枚目の写真のバーナード星の星像位置を入力する
バーナード星の星表位置に1枚目の写真のバーナード星のICRS位置を入力する。
固有運動赤経・赤緯成分と年周視差は0とする。
元期は1枚目の写真の撮影日時とする。

バーナード星の固有運動(赤経・赤緯成分)を変化させるセル、星像位置の残差を目的セルにして残差が最小になるようにソルバーを適用する。

-------------

バーナード星の固有運動と年周視差を求めるとき

バーナード星の写真が3枚以上あるときはそれぞれの写真の観測結果について上の計算を行うようにしてそれぞれの残差の合計を目的セルにして実行します。
この場合年周視差を変化させるセルに追加すれば、固有運動と同時に年周視差を求めることができます。

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関連

  「バーナード星・記事一覧

  「バーナード星の年周視差と固有運動の観測・まとめ
  「バーナード星の年周視差と固有運動を6枚の写真から計算してみた
  「バーナード星の2枚の写真から固有運動の赤経・赤緯成分を計算してみた
  「バーナード星の固有運動量(赤経・赤緯成分)と年周視差を写真から求める方法

  「バーナード星は動いているか? - 1
  「その後のバーナード星
  「バーナード星は動いているか? - 2 - その固有運動と年周視差
  「バーナード星は動いているか? - 3 - その固有運動と年周視差を測定する
  「バーナード星 - 固有運動の実測値
  「固有運動だけでは説明できないバーナード星の動き
  「「バーナード星の固有運動は何日でわかるか?」ランキング
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コメント

図を見ると、かなり動いているのがよくわかりますね!
そして、さすがの分析です。
次の記事と合わせて、年周視差の影響も大きいことがわかりました。
バーナード星の相対速度まで計算できちゃうのではないでしょうか。
こういうのがまさに天文学って感じがしますよね^^。

今回はほよほよさんやサダルテミスさんの撮影された写真を使っていますし、それにkeypointsのおかげです。
keypointsがなかったら、こんなことはできなかったというよりやってみようとも思わなかったと思います感謝です m(._.)m

それにしてもせめて1枚でも自分でバーナード星を撮ってみたいです (^^;;

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