月縁の凹凸が掩蔽(星食、出現/潜入)時刻に与える影響
掩蔽の時刻予測用のExcelシートは0.1秒単位での予測が可能です。予測時刻はいつも数秒ははずれているわけで0.1秒単位で予測することに意味があるのかと思われそうですが、これには理由があります。以下を読んでいただければ理解していただけると思います。
この記事について注意していただきたいこと
月縁の凹凸がどう出現潜入時刻に影響を与えるかはケースバイケースでこの記事の内容はあくまで一例です。一般的に接食に近い場合影響はとても大きくなります。極端なケースとしてはほとんど接食の場合は掩蔽が起きるのに起きないと予測してしまうことも多いです。またそのことと関連しますが、この記事にはアバウトなところがあります。月と恒星の相対的は動きは月縁に垂直とは限りません。この記事ではそこを厳密に考えていません。ただ垂直でなければここに書いたことがまったく成り立たないということではないです。この掩蔽予測のExcelでは月までの距離と月の半径の比を重視しています。そのため月までの距離の精度チェックは細かくは行っていません。したがって月までの距離についてはひょっとしたら少し違っているかもしれません(違っていても”少しだけ”のはずです)
<==== これは勘違いです。ちゃんとチェックしていたと思います。
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まず2015年10月2日のアルデバラン食(R692 暗縁出現)の名取市での出現時刻を予想します。
21時18分03.3秒です。実際は「天文はかせ入門(仮) - アルデバラン食:出現(2015.10.2)」にあるとおり21時18分06.1秒に出現していますので2.8秒早めに予測してしまったことになります。
さて次に名取市から観測したときもし月縁が1000mふくらんでいたらどうなるでしょうか?
これは“月縁”のところに“1”と入力すればわかります。ここには月縁の凹凸を示す任意の数値(マイナスでも可)が入力できます。
出現予想時刻は21時18分04.5秒となります。つまり月が膨らんでいたため1.2秒出現が遅れることになります。
※ ここの計算結果は恒星と月の相対的な運動の向きには依存しません。というかここの計算は相対的な運動の向きをちゃんと考慮しています。
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この21時18分04.5秒という予想時刻が正しくないとしても__上に書いたように実際正しくないのですが__仮にこの掩蔽で月の半径が1㎞大きかったら1.2秒出現が遅くなるという相対的な値を疑う理由はないと思います。
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今、月の半径が1㎞大きいと仮定したのですが、これを名取市から見た視角に換算します。月までの距離が必要ですが、これは“出現”のシートにあります。
“測心直交座標”というのが観測地つまり名取市を原点にした座標です。この値から名取市から月(の中心)までの距離は372,000㎞であることがわかります。これから視角を求めることができます。
1 / 372000 / π * 360 * 3600 = 0.55 arcsec
名取市から見た月の(視線に直交する)1㎞は0.55秒に相当することがわかります。月の半径が0.55秒大きければ出現の時刻が1.2秒遅くなる、とも言えます。
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名取市でアルデバランの出現が見えたときの月縁の様子です。
出現位置は平均的な月縁より0.71秒膨らんでいることがわかります。これは上の計算から月縁が1,300m(名取市から見て直交する方向に)高くなっていることになります。
以上から出現位置がふくらんでおらず平均的な月縁であったとしたとき出現が1.5秒早まることが求まります。
※ ここのところがほんとうは相対的な運動の向きを意識しなければいけないところです。
たいていの場合あんまり意識してもしなくても結果はそんなに変わらないでしょうが....
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出現時刻を観測された時刻から1.5秒差し引いて event against profile を作ってみました。
ちょっとずれていますが月と恒星の相対的な運動の向きをきちんと考えていませんからまあまあの結果ではないでしょうか。
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ところで1.5秒早まるということは出現時刻が21時18分4.6秒になるということです。
となると私の(月縁の凹凸を考慮していない)出現予測21時18分03.3秒もけっこういい線行っているんじゃないでしょうか (^^;;
このオーダーでの予測精度を問題にするのであれば月の中心と重心が一致していないことの影響も考慮する必要があります(現在の予測シートでは中心と重心は一致しているとしています)
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『「掩蔽(星食)の予測と観測」記事目次とリンク集』
「アルデバラン食(2015年10月2日)出現時刻&予測図作成用Excel」
「速報・アルデバラン食 2015年10月2日」
「アルデバラン食の動画撮影とその分析(2015年10月2日)」
「掩蔽(アルデバラン食)観測の整約結果 - Occultの濡れ衣を晴らす」
「星食(掩蔽)予測アプリOccultで観測データの残差(O-C)を求める」
「星食(掩蔽)観測の残差と月縁の関係を見る - Occult」
「掩蔽(星食)観測の残差“O-C”について」
「月縁の凹凸が掩蔽(星食、出現/潜入)時刻に与える影響」 (この記事)
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1000mの差が、測定可能な時間差として表れるとは、面白いです。
ということは、月が公転によって相対的に1000[m]進むのに1.2[s]かかるわけですね。すると月の公転周期を27.3日として角速度に換算してω=2.66e-6[rad/s]。Lを月までの距離とすると
(Lω)1.2=1000m
から月までの距離が31万キロと求まりますね。
投稿: snct-astro | 2015年10月 9日 (金) 10時19分
月の1000mの差は地球の1000mの差でもあるわけで±0.04秒の精度での掩蔽観測が複数あれば観測地を数十mの精度で特定できることになります。
掩蔽観測の記事は匿名で書いてもじつは匿名になっていないという怖さがあります (^^;;
なお、この場合1000mというのは月の進んだ距離の月縁に垂直な成分になると思います。なので実際の速度はもう少し大きいような気がします。それと(今回は月の影は北向きに進んでいますのであんまり影響がないと思いますが)地球の自転速度の寄与を差っ引く必要があるのではないかと思います。
月までの距離が小さめに出ているのはおそらくここらあたりに原因があるのではないでしょうか。
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「今回は月の影は北向きに進んでいますのであんまり影響がない」というところは勘違いです。すみません。
投稿: セッピーナ | 2015年10月 9日 (金) 11時21分