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2015年10月 8日 (木)

掩蔽(星食)の観測結果から月までの距離と月の直径を求める方法を考えてみた

掩蔽(アルデバラン食)観測の整約結果」に書いたのですが、仙台高専天文部(「天文はかせ入門(仮)」)さんはアルデバラン食の観測結果から月までの距離と月の直径を推定しようとされているそうです。

どのような手法をとられているのかお聞きしていませんが、興味深いテーマなので私もちょっと考えてみました。今回は“考えてみた”だけです。実際にやってみたいのですがやりたいことが山積していて.... (^^;;

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日本各地と言っても数百㎞しか離れていないわけですから、三角測量的に考えると何十万㎞もある月までの距離はそう精度よく求まらないように思えますが、実際はそうでもないと思います。

観測地によって潜入(あるいは出現)の時刻が異なりますがこれは月の影が地表を移動しているためです。影の移動速度は月の速度と地球の自転速度を合成したものとなります。
影の移動速度と地球の自転速度から月の速度がわかれば月までの距離は(円運動と考えれば)自動的に決まります(ちなみに影の移動速度は毎秒1kmと言ったオーダーです)

たとえば東京と宮城であれば観測地間の距離も時刻の差も4桁あるいはそれ以上の精度で求まります。となると月までの距離もそのくらいの精度で求まってもおかしくないように思えます。

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まず掩蔽の時刻が何で決まるか考えます。

  観測地の位置
  恒星の位置
  月の位置

の三つであることは明らかです。

観測地の位置は三つのパラメータで決まります。緯度・経度・標高あるいは地心直交座標(X,Y,Z)などです。これは地図を調べればわかります。GPSのデータでも実用上は問題なさそうです。

恒星の位置視赤緯、視赤経の二つで「恒星の位置計算 - ヒッパルコス星表の使い方から大気差の計算式まで」に書いたようにそれなりに面倒なのですが、掩蔽の時刻から計算できます。

月の位置は予測するときは海洋保安庁海洋情報部の近似式を使っているのですが、今回は未知であるという前提ですから軌道要素で決まると考えます。月の軌道要素は時々刻々と変化しているわけですが今は各地で掩蔽の起きる数分間のことしか考えていないので(接触)軌道要素(軌道長半径、離心率、昇交点黄径、軌道傾斜角、近日点引数、元期の平均近点角)がわかれば月の位置が決定できるとします。

結局掩蔽の時刻は観測地の座標3個、恒星の位置2個、軌道要素6個と月の半径で決まりますが、このうち最後の7個が未知数です。

一つの観測で得られるのは出現(あるいは潜入)の時刻の恒星の位置から半径分離れたところに月の中心があるという情報だけです。となると月の軌道要素と半径を求めるためには7つの掩蔽観測が必要になりそうです。

一つの観測で赤経・赤緯の二つがわかるが、潜入点(出現点)の北極方位角が未知数となるのでけっきょく一つの量しかわからなかったのと同じだからという理屈です。このあたりは正直あんまり自信がありません (^^;;

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掩蔽観測は各地で行われたとしてもその時間間隔はたいしてありません。とすれば月の軌道を円軌道と考えても差し支えなさそうです。この場合は5つの掩蔽観測で月の軌道要素と半径を求めることができると思います。時間間隔があんまり離れていないということは離心率が正確に求まるわけはないから最初から円軌道と考えた方がいいのかも。

月が等速直線運動をしていると考えてもいいのかもしれません。月のこれからの動きはどうでもよくて掩蔽時の位置を知りたいだけですから。

未知数は月の座標で3個、月の運動の方向と大きさで4個、月の半径で1個あることになりますが、月までの距離が決まれば速度が決まり、また運動の向きは地球・月を結ぶ直線に直交していますから自由度は1で、未知数は実質5個ということになりそうです。
円運動と考えたときと同じですが、これはとうぜんでしょう。

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次に観測データから具体的にどうやって軌道要素と月の半径を求めるかという話になります。

上のどの方法にしてもまともに計算するとなると正直これは私の手には負えません。

そこで出てくるのはいつものExcelのソルバーになります (^^)

まず月の軌道要素と月の半径を適当に決めて、それぞれの観測地での潜入(あるいは出現)の時刻を求めます。

軌道要素や半径は適当に仮定しているわけですからとうぜんそれらの時刻は実際の時刻とは一致しません。そこでそれぞれの観測地で算出した時刻と実際の時刻の差の二乗和を目的セルとして軌道要素と半径を変化させるセルに指定して目的セルが最小になるようにソルバーを実行すれば軌道要素と半径が求まるはずです。

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現在の掩蔽予測シートを使うとすると....

月の視位置の計算をするところを現在の海洋情報部の近似式から軌道要素を使ったものに変更する必要があります。これは例えば天文年鑑に書いてある「軌道要素から赤経・赤緯の計算」ような式を使います。掩蔽の予測は相当の精度を要求されるので年周光行差など計算はきちんとやります。

月が等速直線運動をしているとしたときは求めた直交座標から赤経・赤緯に変換します。これは今のExcelシートにある測心座標から赤経・赤緯を求めるところが使えそうです。
直線運動とした場合は拘束条件(月までの距離と速度の関係等)をちゃんと入れます。

同一の恒星に対する複数の時刻・観測地での予測シートが必要になります。複数Excelファイルを用意してそれを連携させられればいいのですが、ソルバーがそういうのに対応できないようなら同一のファイル上でぜんぶやる必要が出てくるのでそうなるとこれはちょっとたいへんです。

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実際に計算するには同一の恒星に対する観測を必要な数だけ集めるめる必要がありますが、これは掩蔽データベースからデータを拾ってくればいいでしょう。掩蔽データベースにはプロ・アマ問わず過去の観測報告がすべて登録されています。

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記事を書いているうちにだんだんやってみたくなってきました (^^;;

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観測地同士の潜入(出現)点の違いがわかれば必要な観測結果を減らすことができるはずです。

潜入(出現)点北極方向角はクレーターがいくつかちゃんと写っていれば精度よく求めることができるのですが、実際の画像はこんな感じなのでそれは望み薄です。カスプ角ならそこそこの精度であれば求まりそうな気もしますが....

ただ北極もカスプも厳密にいえば位置は変化しているわけで、厳密にやろうとすればやっぱりできるだけたくさん観測結果を集めるべきでしょうか。

Imgp00790721_2

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  『「掩蔽(星食)の予測と観測」記事目次とリンク集

  「アルデバラン食(2015年10月2日)出現時刻&予測図作成用Excel
    「速報・アルデバラン食 2015年10月2日
    「アルデバラン食の動画撮影とその分析(2015年10月2日)
    「掩蔽(アルデバラン食)観測の整約結果

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コメント

各地での掩蔽時間の予想がすべて一致するように、月の半径と軌道を探索するという方法は思いつきませんでした。結果が楽しみです。

こちらでは既に計算はしたのですが、ブログの記事はまとめ中です。方法はとても単純で、まず月の視直径を写真のピクセルを数えて測定し(16.5分と天文年間の値より少し大きめになしました)ました。こちらで撮影した出現時の写真と、セッピーナさんの上の写真を重ねて、カスプ角の差として5.5度を得ました。あとはアルデバランからの光が平行線であるとみなして、名取と東京の距離を使えば、簡単な幾何学で距離が推定できました。コメントに書いた通り、でた距離は48万キロで、おそらくカスプ角の差の精度に1割くらいの誤差があり、それがそのまま出ています。

Excelのソルバーを使うというのは(精度はいいのですが)あんまり頭のいい方法じゃないので思いつかない方が健全です (^^)

この問題でいちばん興味を持ったのは距離と直径を決めるためにいくつの観測が必要かということでした。記事に書いたように5個というのが私の結論です。カスプ角の差と視直径を使えば二つ減りますが、それでも一つ足りないような気がします。
現実に観測結果は二つしかないわけですから、その二つで求める方法を考えなければならないわけですが、何か暗黙の仮定(あるいは自明な事実)みたいなのがあるのかなあ....
まあ、5つ必要というのが間違っている可能性も大きいですが (^^;;

記事、拝見するのを楽しみにしています。

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