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2015年11月 4日 (水)

バーナード星の視位置計算の誤差の原因を調べる - 1

現在“バーナード星の年周視差・固有運動を検出するプロジェクト”が進行中です。
ほんとは絶対的な位置測定から検出すべきなのですが、それはいくらなんでもアマチュアにはムリだと思うので周囲の恒星との相対位置の変化から検出しようとしています。

  「バーナード星の年周視差と固有運動の観測・まとめ

固有運動は時間をかければ簡単に検出できるのですが、年周視差は周期的な変化なので数か月間隔の観測から微小な変化を検出しなければならないのでやっかいです。

現在これまでの方法よりさらに精度を上げる方法を構想しており、その一環として(今さらですが)現在の恒星の視位置計算の精度を再確認しました。

バーナード星の近くにありバーナード星をはさむ位置にある二つの恒星の2015年3月29日02時13分の視位置の計算結果を見てみます(日時が中途半端ですが、サダルテミスさんの撮影された写真がこの日時にあるためです)

HIP87901

計算値 暦象年表 計算値 誤差
赤経(度) 269.522224 269.522218 -0.000006
赤緯(度) 4.886253 4.886253 0.000000

この誤差がどの程度のものか直観的に説明するとサダルテミスさんがお使いのf=1950mmの反射望遠にAPS-Cのカメラを(直焦点で)つけて撮影したとき 0.000010度が画像の0.1ピクセルに相当します。上の誤差はそれより小さいわけですからまったく問題にならないレベルです。誤差があるのは好ましくはないのですが、当面のミッションには支障はありません。

  

--------

もう一つ HIP87991

計算値 暦象年表 計算値 誤差
赤経(度) 269.791568 269.791556 -0.000012
赤緯(度) 4.460520 4.460518 -0.000002

これも 特に問題はなさそうです。

さらにバーナード星を調べてみます。

HIP87937

計算値 計算値 暦象年表 誤差
赤経(度) 269.638502 269.638508 0.000006
赤緯(度) 4.736262 4.736156 -0.000106

赤経はいいのですが、赤緯の誤差がかなり大きいです。この値は上に例をあげた条件で撮影した画像だと恒星の位置が1ピクセル違ってきます。

じつはこれは以前から気が付いていたのですが、バーナード星は観測の対象であって観測の基準ではないので、あんまり気に留めていませんでした。でももし恒星の視位置の計算に誤りがあったとするとこれまで算出した固有運動や年周視差もあやしいということになる可能性があるので理由を調べてみました。

他の恒星では問題なくバーナード星だけで起きているのでバーナード星に特有の特性つまり固有運動か年周視差のどちらかの取り扱いに問題があると思われます。

また赤緯でだけ誤差が大きくなっているのですから、年周視差は関係なく誤りがあるとすれば固有運動の数値あるいは固有運動を反映する計算だと思われます。

結論だけ書くとどう見ても固有運動の計算は間違っているとは思えませんでした。以前 星表には固有運動の赤経成分がμα*cosδで表示されているのに気づかずμαとして計算していたというミスがあり、そのときも他に間違いがないかは何度も確認しました(「恒星視位置(赤経・赤緯)計算が間違ってました!」)

かと言って固有運動の数値が原因とは思えません。固有運動の値は資料によって多少違いがあるのですが、どれを採っても上ほどの誤差の原因となるほどの違いはありません。

じつはこの誤差は(趣味の天文計算的(?)には)意外なところで発生していました。

恒星の視位置に対する固有運動と視線速度の影響」 に続く)

------------------------

  現在使用しているバーナード星のヒッパルコス星表のデータ

    座標系   ICRS
    元期    J1991.25
    赤経    269.4540231d
    赤緯     4.66828815d
    年周視差 549.01mas
    固有運動
       μα*cosδ  -797.84
       μδ      10326.93mas/year

    参考 「恒星の位置計算 - ヒッパルコス星表の使い方から大気差の計算式まで

サダルテミスさんの写真をもとに分析した結果
(これはバーナード星の位置を求める前段階としてカメラの向きや反射鏡の歪曲収差を求めるための分析シートで、ふつうはバーナード星は分析対象にはしません)

計算して求めたバーナード星の位置と画像の位置を比較すると1ピクセルくらいずれています。赤緯の誤差なのにx方向がずれているのはカメラの水平線が天の赤道と直交する向きで写真が撮られているためです。
Photo

視位置を暦象年表の値と置き換えるととうぜんのことながら位置は一致します。
Nao

----------------

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  「恒星の位置計算 - ヒッパルコス星表の使い方から大気差の計算式まで
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