反射鏡・レンズの歪曲収差を測る - 続・PENTAX Q7 + 01 Standard Prime
ただ「反射鏡・レンズの歪曲収差を測る - PENTAX Q7 + 01 Standard Prime」とはちょっと違います。今回はカメラの設定にある“収差補正”をオフにして測定しています。ふつうこんなことをやる方はめったにいないと思うのですが、レンズの生の特性を調べようと思ってやってみました。
ではまず結果から
(“収差補正”の設定は“OFF”にしてあり、これは通常の使用状態とは異なります。)

(ここでいう“収差”の定義はこの後に記してあります)
上下辺(1500px)で50ピクセル、左右辺(2000px)で110ピクセル、四隅(2500px)ではなんと200ピクセルも収差があります。激しい樽型収差が発生していることになります。
“収差補正”をONにして撮った「反射鏡・レンズの歪曲収差を測る - PENTAX Q7 + 01 Standard Prime」では広角寄りのレンズにしてはほとんど収差が見られなかったわけですから、この収差をカメラに内蔵されたソフトウェアで補正していることになります。
こうなってくるとレンズの光学設計というのは歪曲収差を小さくすることより色収差みたいな他の収差を減らした上で歪曲収差はソフトウェアで補正しやすい形に整えるというような方針になるのでしょうか。すごい世の中になったものです。
以下詳細です。
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今回測定に使った画像
オリオン座、うさぎ座を中心にシリウス(左)からアルデバラン(右上)あたりを撮っています。恒星の位置がわかりやすいようにトーンカーブを調整してあります。
分析結果
黄色いクロスが実際の星像の位置に入れてありますが、それ以外に青色のクロスを理想的なレンズで撮った場合の恒星の位置に入れてあります。
画像中心から画像の周辺に向かうにつれて理想的なレンズでの恒星の位置と実際に写った恒星の位置はおおきく離れていきます。
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拡大図
(画像左端のシリウス=HIP32349のある収差が大きい部分です)
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収差測定の原理のとても簡単な説明
星野写真を撮ることによって収差を検出します。
恒星の位置は有効数字11桁くらいの精度でわかっていますので、これから理想的なレンズで撮った場合恒星が画像のどの位置に写るかも高精度で計算することができます。計算誤差とか私の知識不足で精度は落ちるのですが、それでもデジカメの画像上の位置に換算すると±0.1ピクセルくらいの精度が確保できます。
理論上の星像の位置と実際画像にある星像の位置を比較することによりレンズの歪曲収差を測定することができます。
この記事では収差は次のように定義しています。
恒星像の理論的な画像中心からの距離 r
恒星像の実際の画像中心からの距離 r'
としたとき
r' = r + a * r^3 + b * r^2
で近似します。このときの a * r^3 + b * r^2 を収差としています。
以上の原理からわかるように測定できるのはピントを無限遠に合わせたときのものだけです。
なお分析はExcelで行っており今回使用したExcelファイルもこれまでの記事からダウンロードできるものとほとんど同じなのですが、使うのはけっこう面倒ですのでそのつもりでお願いします。
※ 原理はいたって簡単ですが実際にこれをやるのはそれなりの手間がかかります。
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関連
「反射鏡・レンズの歪曲収差を測る - PENTAX Q7 + 01 Standard Prime」
「「写真から星の座標を得る」アプリ」
「Astrometry.netの数値データを取得する方法 - 検出された星像の位置について」
「写真から未知の天体の赤経・赤緯を求める (1)」
「写真から未知の天体の赤経・赤緯を求める (2)」
「恒星の位置(赤経・赤緯・高度・方位)計算 - ヒッパルコス星表の使い方から大気差の計算式まで」
「過去記事の一覧(測定、電子工作、天文計算): セッピーナの趣味の天文計算」
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カメラ内のソフトウエアで補正しているのだとしたら、ずれが検知できないくらい補正してくれてもよさそうに思いますが、実際はまだ少しずれているのですよね。
補正に星の写真を使ってないんですかね^^。
投稿: ほよほよ | 2015年11月11日 (水) 19時09分
はい、私も最初はそう思いました。
でも連写でも(そしておそらく動画でも)収差の補正をしているとすれば必要最小限のことしかできないんじゃないでしょうか。
そう思うとさらにすごいことだと思います。
投稿: セッピーナ | 2015年11月11日 (水) 20時37分