JJYの秒信号の送出方法についてNICTに聞いてみた
「情報通信研究機構
- 電磁波計測研究所
- 時空標準研究室
- 日本標準時グループ
- 標準電波(電波時計)の運用状況
- 標準電波の出し方について」
にあり、これによると
(2)秒信号
秒はパルス信号の立ち上がりとし、パルスの立ち上がりの55%値(10%値と100%値の中央)が標準時の1秒信号に同期します。
とあります。
じつは恥ずかしいことにこの文章を最初読んだとき誤解してしまいました。10%振幅の波形が標準時の1秒信号とともに100%振幅の波形になりその最初の1サイクルの振幅が55%になったときが標準時の1秒信号に同期していると思い込んでいたのです。
でもこの解釈はちょっと考えるとわかることですがおかしいです。つまりちっとも考えていませんでした (^^;;
ほんとのパルスが送信されているということになりますから、ふつうの受信機で受信すれば波形がくずれてしまうはずです。
上の波形を帯域が2kHzかなり広い受信機で受信した場合のイメージ(のはず)です。一目盛りが1msくらいのつもりです。実際の受信機の帯域はふつうもっとずっと狭いです。電波時計によく使われるクリスタルフィルターだったら2桁以上狭いです。
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上のNICTのサイトの文章は“包絡線の立ち上がりの55%値が標準時の1秒信号に同期します”という意味なのでしょう。
となると包絡線が10%から100%になるまでに要する時間はどれほどかが気になるわけですが、これはNICTのサイトには書いてないようです。そこでNICTの問い合わせ窓口に聞いてみました。
公的機関(?)の問い合わせ窓口の対応について
「官公庁に質問してみた - 国立天文台とか気象庁とか.... 」
を書きました。そのうち追記しますがNICTの対応には最高点を差し上げたいと思います。ちなみに最低点を差し上げたいのは文科省です。もっともこれは私にも落ち度があって技術的なことを質問するんだったら文科省のサイトに書いてあることでも文科省ではなくその分野を専門にするところに質問すべきだったと思います。例えば天文のことだったら国立天文台に質問するみたいに。
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包絡線の立ち上がりについて質問したら2msくらいと即答がありました。要するにこんなことなんでしょう。実際は境目はなだらかになっているんじゃないかと思いますが。
これだと上と同じ帯域2kHzという条件であればさほど問題にならなくなります。
(想像ですが)送信自体こんな形で行われているのかもしれません。
立ち上がりが2msくらいであっても受信機の帯域が狭くなるとやはりまともにパルスを取り出せなくなります。
帯域200Hzを想定したイメージです。アクティブフィルターやメカニカルフィルターを使ったケースに近いと思います。クリスタルフィルターはもっとすごいことになります。実際クリスタルフィルターを使う電波時計用モジュールCME6005で測ったところ秒信号の出力は50msくらい遅れていました。
なお“2ms”ではなく“2msくらい”です。あくまで振幅55%のところが標準時の秒信号に同期しているのであってそれ以外のことは考えるなということでしょう。
実際できるだけ帯域を広げて実際に受信したJJYの波形を見るとサイン波的に振幅が変化しているようにも見えます。上の10%から100%まで直線的に振幅が変化するというのはあくまで説明のためのモデルであると考えていただければと思います。
それから最初にリンクした資料にはこんなことも書いてあります。
マーカー(M)及びポジションマーカー(P0~P5) パルス幅 0.2s ±5ms
2進の0 パルス幅 0.8s ±5ms
2進の1 パルス幅 0.5s ±5ms
±5msというのはちょっといい加減すぎる仕様のようにも思えます。このことについて聞いたらパルスの立下りは立ち上がりよりもっとユルイそうです。要するにパルス(包絡線)の立下りを正しい時刻を得るための判断材料にするなんてことはしてはいけないということのようです。
とにかくJJYからできるだけ正しい時刻を得ようとしたらクリスタルフィルターやメカニカルフィルターを使ってはならないことがわかります。使わなければ使わないで激しいノイズに苦しむことになりますからJJYから正しい時刻を得るのはそう容易なことではなさそうです。
理屈としては送信波の仕様と受信機の特性(と電波伝播の状況)が完璧にわかっていれば波形のくずれの影響を見積もることができますのでフィルターが入っていてもどうにかなるようにも思えますが、実際にそんなことをするのはとてもたいへんだと思いますし、あくまで推定できるだけだと思います。
余談になりますが、JJYの場合送信所からの距離に応じた遅延を補正する必要があります。例えば300㎞離れれば1ms遅延します。
自由空間の伝播ではないので光速を補正しなければならない(=同軸ケーブルの短縮率みたいなやつ)のでないかと思いそのことを聞いてみたら、それが影響するほどの時刻の精度は得られないから真空中の光速をそのまま使えばいいということでした。もっとも送信所から離れると電離層からの反射波の影響が強くなるので単純に送信所からの距離を光速で割って正しい補正値が求まるかというと必ずしもそうではないようです。
さらに余談になりますがコールサイン送出の仕様について教えてもらおうと思ったのですが、これについてはNICTのサイトに書いてある以上のことは教えてもらえませんでした。思うにコールサイン送出は時空標準研究室の担当ではなくて送信機を作ったメーカーが
「(非公式)JJY(標準電波/電波時計)の呼び出し符号(コールサイン)送出方法 」
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「JJY受信機/電波時計の製作記事を集めてみた」
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「クリスタルフィルターの効果を目と耳で確かめる - JJY受信機を作る」
「標準電波・長波JJYが停波するとき」
「JJY搬送波の周波数をGPS/1PPSで測ってみた」
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「高精度発振器の作成に向けて - VCTCXO・VM39S5GをPLLでJJYにロックする」
「JJY受信機/電波時計用クリスタルフィルターの設計」
「JJYに同期した高精度発振器用PLLの過渡特性」
「JJYの秒信号の送出方法についてNICTに聞いてみた」
「JJYの40kHzの電波をボイスレコーダーに録音してみた」
「JJY秒信号のシンクロダイン検波による取得の試み」
時刻
「時刻標準について」
JJY
「JJYの報時信号の送出方法」
「JJYの受信法」
「JJYを受信したい(要旨)」
参考 「NICT 情報通信研究機構 - 電磁波計測研究所 - 時空標準研究室
- 日本標準時グループ 」
PLL
「高精度発振器をGPS受信モジュールとPLLで作る - はじめに」
アナログ乗算器
「四象限アナログ乗算器(マルチプライヤー)EL4083の使い方 - 1」
アンテナ
「JJY受信機を作る - バーアンテナとその特性」
参考 「RFワールド - ラジオで学ぶ電子回路
- 第1部 ラジオのための基礎 第1章 ラジオの電波 」
クリスタルフィルタ
参考 「JA9CDE自作を楽しむホームページ - クリスタルフィルタ設計製作1 」
状態変数型フィルタ
「JJY受信機を作る - 状態変数型フィルタの周波数特性」
参考 「群馬大学 KobaLab@JP - 発振を利用したアナログフィルタの テスト・調整 」
JJY受信機
参考 「JR7CWK - 長波JJY受信機の制作」
補足
電波時計モジュール
「JJYを受信する(訂正あり)」
「電波時計モジュールを使ってみた(1)」
「電波時計モジュールを使ってみた(2)」
「電波時計モジュールが「使えない」理由」
「GPS受信モジュールあれこれ」
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