オペアンプを使った整流回路(ミリバル・交流電圧計)の周波数特性が悪いことの理論的根拠(のはず)
これは確かに直線性の改善・確保のためには有効なのですが、周波数特性を犠牲にしてしまうことになるようです。これまでそのことを実験によって示しましたが、今回は理屈で考えてみます。
なおこの記事についてはまだ続編を書くつもりがあるのですが、反響(?)らしきものもあったので紹介しておきます。
「居酒屋ガレージ日記NEW! - 半波整流回路 トラ技から 」
「迷走の果て・Tiny Objects - LTspiceを使った半波整流回路のシミュレーション(1) 」
--------
例えばオペアンプの入力に正弦波V=sinωt(0.7Vrms)を与えたとき(オペアンプのゲインが1であるとして)dV/dtが必要なスルーレートです。つまり dV/dt=ωcosωt です。もっともシビアなt=0のときスルーレートはω[V/s]です。
ふつうのオペアンプであればなんてことはないスルーレートですがミリバル(交流電圧計)に使われる次のような回路になると話ががらりと変わります。

------
この回路の場合(電流の向きが逆ですが)反転入力から帰還回路に流れる電流が正弦波になりオペアンプの出力はダイオードにその電流を流せるだけの電圧が必要になります。
(pn接合)ダイオードの電圧電流特性はよく知られた次の式で表されます。
I = I0 * ( exp(qV/nkT) - 1 )
この式を電流電圧の関係に書き直します。
V = nkt/q * ln(I/I0 + 1 )
入力に正弦波 sinwt の電圧を与えたときダイオードに流れる電流は sinwt/R でなければなりません。これを上の式に代入します(半角だけのところでωは手間なのでwにしてあります)
V = nkt/q * ln(sinwt/R/I0 + 1)
これを時間で微分すればオペアンプに要求されるスルーレートが求まるわけですが、今はいちばん条件が厳しいt=0あるいはその近辺での挙動を考えているので簡略化して
V = nkt/q * ln(wt/R/I0 -1)
として微分します。そのまま微分してもたいしたことはない(はず)です。
dV/dt = nkT/q /(wt/R/I10-1)*w/R/I0
特にt=0のときのスルーレートであれば
dV/dt(t=0) = nkT/q*w/R/I0
ということになります。
この式からすぐにわかることがあります。
スルーレートはダイオードの飽和電流に反比例する
つまり飽和電流がが小さいダイオードほどスルーレートの高いオペアンプが要求されることになります。
要求されるスルーレートの具体的な値を計算してみます。
k(ボルツマン定数)とq(素電荷)は理科年表の物理/化学部にあります。T(温度)は面倒なので300Kということにします。
n(理想係数)とI0(飽和電流)が問題ですが、これは電流電圧の関係の実測値あるいはグラフがあるデータシートがあれば求めることができます。(
じつは理想係数と飽和電流についてはあちこちで矛盾した内容を書いているのですが、ここではデータシートから「pn接合(VBE)の理想係数と飽和電流の簡単な求め方」に書いた方法で求めたn=1.9、I0=3.6nAを使います。
結果は 最大0.3GV/sつまり0.3kV/μsになりました。確かにふつうのオペアンプでついていけるようなスルーレートではないです。
でも4100V/μsのLM7171なら余裕でクリアできてる数値です。実験と矛盾する結果になってしまいました (^^;;
--------
以前VBEの温度係数が-2mV/Kであるのはどこから来ているのかと思って
I = I0 * ( exp(qV/nkT) - 1 )
をTで微分したことがありました。そしたら温度係数がプラスになりました (^^;;
つまりI0(とおそらくn)はじつは温度の関数だったのです。こういう式は意味や適用できる範囲・条件をよく考えて使わないと思わぬところに罠が潜んでいます。
だからこの記事の内容をそのまま信じるのはやめた方がいいと思います。でもシリコンダイオードで周波数特性が伸びない原因はこのあたりにあるとは思っているのですが....
計算例
-------
前の記事 「高速オペアンプLM7171を使えばミリバル(交流電圧計)の周波数特性はよくなるか?」
次の記事 --------
最初の記事 「ミリバル(交流電圧計)の周波数特性はゲルマニウムダイオードで改善する?」
--------
関連
「交流電圧計(ミリバル)の簡単な作り方」
「一歩進んだ交流電圧計(ミリバル)の製作 - 1」
「ちょっと凝った交流電圧計(ミリバル)の作り方 - 1」 (ベクトル電圧計)
「交流電圧計(ミリバル+高周波電圧計+ベクトル電圧計)の周波数特性」
測定に使用したもの
「PIC16F1705のDAコンバータを使った正弦波発振器(発生器) - 改良版」
「PIC16F1705のオペアンプの周波数特性」
「22ビット(21.9bit)ADコンバータMCP3551の使い方 - MCP3553との分解能の比較」
その他
「PIC+SPI+I2C 自記温湿度計+気圧計+8ch電圧計+周波数カウンタ(技術要素一覧)」
-------
「記事一覧(測定): セッピーナの趣味の天文計算」
「過去記事の一覧(測定、電子工作、天文計算): セッピーナの趣味の天文計算」
« JJYの電界強度と受信機/電波時計の必要利得(増幅率) | トップページ | JJY受信機を作る - すでに40kHzのキャリア(連続波)を検出できてるっぽい »
「趣味の実験」カテゴリの記事
- 100Ω抵抗器の端子間で発生した火花放電(沿面放電)(2018.07.18)
- Amazonで買った「400000V高電圧発生モジュール」の出力極性(2018.07.15)
- 高電圧モジュールの放電開始電圧 - 針状電極間の放電(2018.07.11)
- 高電圧モジュールの放電開始電圧 - 円筒電極と針状電極(2018.07.09)
- 放電開始電圧をパッシェンの法則から知る(2018.07.07)
コメント
この記事へのコメントは終了しました。
« JJYの電界強度と受信機/電波時計の必要利得(増幅率) | トップページ | JJY受信機を作る - すでに40kHzのキャリア(連続波)を検出できてるっぽい »
こんにちは。
前半のスルーレートの計算には計算間違いがあると思います。
振幅の事が考慮されていません。振幅をAとして
V=AsinωtのときのスルーレートはAωとなります。
A=1、周波数f=40KHzとすると ω=2*π*fですから
1*2*π*40000≒250000(V/s) すなわち 0.25V/μs となります。
後半の計算はまだ確かめてません^^;;
投稿: edy | 2015年12月 3日 (木) 04時30分
入力がV=sinωtという前提ですから2Vp-pというか0.7Vrmsの入力として考えているのですが、計算は間違ってますね (^^;;
ご指摘ありがとうございます。記事は訂正しておきます。
そもそもこの式をこんなことに適用していいのかというのがいちばん問題な気がします。
投稿: セッピーナ | 2015年12月 3日 (木) 09時28分
半波整流に関し、ちょっと古いですが、トラ技の記事を探し出してきました。
http://blog.zaq.ne.jp/igarage/article/4304/
投稿: 居酒屋ガレージ店主(JH3DBO) | 2015年12月 9日 (水) 11時11分
ありがとうございます m(._.)m
最近トラ技はぜんぜん読んでなくてバックナンバーもないので、図書館か何かで機会があったら見ておきたいと思います。
じつはこの特性を以前作った正弦波発生器のLPFに使おうとたくらんでいます (^^;;
投稿: セッピーナ | 2015年12月 9日 (水) 14時10分