分解能0.1mmの超音波距離計(ノギス)の製作 - 原理とその検証
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今回はそれとは違った位相差を使って距離を測る方法です。位相差(干渉)を利用する方法は(音ではなく光ですが)重力波望遠鏡KAGRAでも使われていますが、分解能がとても高いです。タイトルには0.1mmと書きましたがしっかり作れば条件次第では0.01㎜も可能なんじゃないかというような気がしてきました。
ただ(距離を測るためのものなので距離計には違いないのですが)距離計というよりノギスやマイクロメーターの代わりに使うようなものです。
なお干渉を使う方法というと疑問を持つ方もいらっしゃると思います。
1. 波長より長い長さは測れないのではないか?
2. 温度や湿度の影響で音速が変化し分解能に見合う不確かさが確保できないのではないか?
このどちらにも解決する方法はいくつかあると思います。
これらは原理的な問題ですが、実装上の問題もあります。例えば
3. 超音波送受信ユニットの位相特性の温度による変化の影響はないか?
というようなものです。こういうのは実際に作ってみないとなんとも言えません。
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位相差の測定は干渉を使ってもいいと思いますが、ここでは直接的に位相差を測定する方法を採用します。超音波送信器に送る信号を基準に超音波受信器から得られた信号をベクトル電圧計で測る方法です。
具体的な方法は「複素数としての電圧・電流を測る方法 - 原理」、「ベクトル電圧計の製作に向けて - 交流電圧計(ミリバル)」に書きましたが、今回は測定方法の検証という意味で単一の位相でのみ電圧を測定しています。

今回もアナログ乗算器としてEL4083CNを使っています。これは秋月でも扱っているのでそんなに特殊なものでもないのですが、ちょっとお高めです。この部分は同じく秋月で扱っているバランスド・変調/復調回路NJM1496Dで実現できないか検討中です。NJM1496Dだと一個100円です。
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分解能0.01mmを目標にするようなことを書いたのですが、それなのに今回の実験はかなり雑です。
写真を撮るために接続しなおしたのですが、ミノムシクリップがノギスの上に出てしまいました。これだとノギスを動かすことができません (^^;;
また実際に測定するときは反射波の影響ができるだけ小さくなるように宙に浮かすなどして測ります。このようにボードの上で測ったりするとろくなことになりません。
ノギスに超音波送受信器をパーマセルテープ(シュアーテープ)で括り付けただけです。
ノギスの読みと電圧計の読みの関係を調べます。なお今回はノギスの読み=送受信器の間隔になっているわけではありません。もちろんノギスの読みが1mm増えたら送受信器の間隔も1mm増えます。
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10mmと20mmの間で距離を0.5mmずつ離しながら電圧を測定してみました。再現性を確かめるために測定は2回行っています。
距離と電圧の関係はとても良好です。またいい加減な固定の仕方をしているわりには再現性もいいです。グラフは0Vを軸に対象になっていませんが、これはマイナス電圧は測れない(その上マイナス電圧に対する保護用ダイオードを追加してある)ADコンバータで電圧を測っているためです。この件の対応については「ADコンバータでマイナスの電圧を測定する方法」 にあります。
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さらに上の14mm~15mmの部分で0.1mmステップで測定したもの
ちょっとグラフが荒れてきます。ただ0.1mmステップですからそもそもセンサーをパーマセルテープで貼り付けて測定というのが間違っているように思いますし、ノギスを0.1mm単位で動かしていくというのもちゃんとできているか自信がありません。
言い訳めいたことを書いてしまいましたが、距離0.1mmの差に対して電圧は5%くらい変化しているわけですから0.01mmも夢ではないと思えてくるわけです。
ステッピングモーターとかラック&ピニオンがあれば実験を機械化/合理化できて精度も上がるんですが、そういうものはぜんぜん手元になくて....
上の方のグラフだけ見ると12mmあたり、あるいは17mmあたりでは電圧の変化が小さくなっており0.1mmの分解能も確保できないのではないかと思われるかもしれませんが、実際は90度位相がずれた信号も使って電圧を測定します。そちらの方はここでは大きく変化する(上のグラフと位相が90度ずれたグラフになる)ので心配は無用です。
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ところで上のグラフを見ると11.2mmのところから19.8mmのところまでで一波長になっています。差の8.6mmが波長ということになります。実験は40kHzで行っているので8.6mm*40kHz=344m/sが音速です。これは概算値で音速の測定が目的であれば10波長分の長さを測るとか工夫する必要があります。
音速はよく知られているように温度に強く依存します。国立天文台編 理科年表第86冊(丸善出版、2013年)によれば
気体中の音速は圧力にはほとんど無関係で、絶対温度の平方根に比例して増加する。
とのことです。また湿度の音速に対する影響についての説明(式)もあり、それによれば水蒸気の分圧が大きくなると音速は大きくなることがわかります。
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関連
「測定対象別記事一覧(測定、電子工作、天文計算)」
電圧をはじめいろんな物理量の測定方法について
「風速計・風向計を作る - 1」
温度に依存しない超音波風速計の原理
「分解能0.1mmの超音波距離計(ノギス)の製作 - 原理とその検証」
「過去記事の一覧(測定、電子工作、天文計算)」
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コメント
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これは面白いですね!
すごーく昔に超音波距離測定キットを買ったことがあるのですが・・・どこへいったんだろ^^;
キットは反射波の時間遅れを測っていたはずですが、これは位相差なので2桁くらい精度がよさそうです。
いるかやこうもりのように音でモノの形を映像として見てみたいです^^。
投稿: ほよほよ | 2016年1月29日 (金) 17時16分
パーマセルテープ、愛用しています (^^)
思ったより分解能が高そうで、もうノギスに固定してしまって電子ノギスにしようかとも思い始めています。
ただ、じつはこれは超音波風速計がターゲットなんです。たぶん次の記事はそちらの方向に行くと思います。
音でモノの形を映像、というのはおもしろいですね。具体的にどうしたらいいのか思いつきませんが (^^;;
投稿: セッピーナ | 2016年1月29日 (金) 18時23分