セル定数に依存しない水の電気伝導率(導電率、抵抗率)の測定方法 - ジョーンズセルをヒントに
ふつう水の電気伝導率の測定は次のような方法をとります。
1. 測定用セル・電極で電気伝導度を測る
2. 電気伝導度にセル定数を掛けたものが電気伝導率
3. 電気伝導率の逆数が電気抵抗率
※ 実際にはさらに温度の影響の補正が必要です。
ここで問題になるのは2.のところです。メーカー製の測定器を使うのならばセル定数は取説なり仕様書なりに書いてあるのでしょうが、自作するとなるとセル定数をなんらかの方法で知る必要があります。セル定数は容器・電極の幾何学的形状で決まる量のはず__単位もcm^-1あるいはm-1__ですが、形状からセル定数を求めるのは現実には難しそうです。
セル定数はJISその他の資料を読むと塩化カリウム標準溶液を使って決めるように書かれています。塩化カリウム標準溶液も自分で作ろうとすると難しすぎます。
じつはセル定数がわからなくても電気伝導率を測る方法があるようです(そうでないと校正に使う塩化カリウム標準溶液の電気伝導率もわからないということになってしまいます)
ジョーンズセル(differential cell designとかPiston type cellというのも書いてありましたが原理的には同じもののようです)というのがそれです。実際に作るのはたいへんそうなのでアイデア(原理?)だけ拝借してやってみました。
(写真と電極間距離を測る実際の位置は「水道水の電気伝導率(抵抗率)を測る - これまでのまとめ」にあります)
半径rのパイプを用意しそれに電極AとBを取り付けます。電極間の距離をLとします(Lはどこで測ってもかまいません)
まずL=L1のときの電気抵抗がR1だったとします。その後 L=L2 のところに電極Aを移動したら電気抵抗が R2 になったとします(説明の都合上 L2>L1 とします。このとき R2>R1 となります)
L2-L1だけ離したら電気抵抗が R2-R1 増えたことになります。なぜそうなるかというと水(水柱)が長くなったからでしょう。測定対象の水の電気伝導率がκとしたとき( L が十分長ければ)
1/(R2-R1)=κ*2*π*r^2/(L2-L1)
となるはずです。ここから
κ = (L2-L1) / (R2-R1) / (2*π*r^2)
あるいは
1/κ = (R2-R1) * (2*π*r^2) / (L2-L1)
ということになります。
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今回は電気抵抗を測るところはわりとちゃんと作りました。
(一部省略というか簡略化してあります)

これからインピーダンス(リアクタンス分)の測定をすることも考慮しベクトル電圧計の形にしてあります。帰還抵抗を切り替えればいいのですが、どうせオペアンプが余っているので増幅率の違うアンプを三つ用意しました。
省略した部分に興味がある方は以下の記事を参考にしてください。
信号源(位相が90度異なる正弦波を作る)
「PIC16F1705のDAコンバータを使った正弦波発振器(発生器) - 改良版」
(けっこう手間です。二相出力ができるDDSがあったような気がするのでそういうのがいいかも)
ベクトル電圧計
「ベクトル電圧計の製作と調整 - 交流電圧計(ミリバル)」
ADコンバーターでマイナスの(大きな)電圧を測る必要がある場合
(今回は入力を反転増幅器を通しているので同相成分は必ずこうなります)
「ADコンバータでマイナスの電圧を測定する方法」
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内径6mm(断面積0.283(cm^2))のパイプを用意し実際に測ってみました。
(印可電圧 0.97Vrms、1.000kHz)

ランダムに位置を変え抵抗値が変化するようすをグラフにしてあります。これから電極間隔に対する抵抗値のグラフを作りました。

これから抵抗値は1mmあたり255Ω増えています。1㎝あたり2.6kΩです。これらをもとに電気伝導率を計算してみます。
κ = 1 / 2600 / 0.283 =1390e-6(S/cm)
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この1400μS/cmという値は水道水の電気伝導率とされる100μS/cm~200μS/cmからするとかなりというか異常に大きいです。
測定方法に問題がないか検討しているのですが、まだ原因はわかっていません。
100μS/cm~200μS/cmを仮定して上の回路図でいうと帰還抵抗が100kΩのところを使っていました。電流が流れ過ぎてオペアンプが飽和している可能性があります。実際グラフの抵抗値が低い方では高い方より傾きがなだらかに__電気伝導率が高くなる方に__なっています。グラフにあるA.は100kΩ、B.は50kΩの抵抗の抵抗値を測ったものです。直線性に問題があるのは歴然としています。
これは帰還抵抗10kΩのアンプを使うか、入力電圧を下げてどうなるかやってみようと思います。
とはいえここまで結果が違うと測定方法だけではないように思えます。1400μS/cmというのは水の“汚染度”でいうと100gの水に0.1g弱の塩(塩化ナトリウム)が混じった状態に相当するようです。そこまで不純物が混入するとは思えないのですが、もっと水の取り扱いに注意する必要があるのかもしれません。
そういえば昨日書いた温度が高くなるほど電気伝導率が下がるという異常な現象の原因は思ってもいないようなものでした。まだこういう実験に慣れていないようです。
その後同じような実験をされている方がいらっしゃるのを見つけました。
「東所沢 2-31-12 - 溶液の電気特性 - 3章:食塩水の電気特性 」
同じような結果が出ています。水道水の導電率を測るというのは意外と難しいのかもしれません。となると精製水(蒸留水)の導電率を測るのは身の程知らずなのかも (^^;;
と書いてしまったのですが、再度条件を変え問題となりそうなところに注意しながら実験したところそれらしい実験結果が得られました(下記“次の記事”)
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関連
「測定対象別記事一覧(測定、電子工作、天文計算)」
温度、気圧をはじめいろんな物理量の測定方法について
「水の電気伝導度(電気抵抗)を測る - 水の純度の推定」
「水道水の電気伝導度(電気抵抗)の温度特性を測ってみたけれど....」
「セル定数に依存しない水の電気伝導率(導電率、抵抗率)の測定方法 - ジョーンズセルをヒントに」
「続・セル定数に依存しない水の電気伝導率(導電率、抵抗率)の測定方法」
「東京都水道局水質検査結果から水道水の電気伝導率(電気抵抗率)を予想する」
「塩化カリウム標準溶液(導電率標準液)の作り方 - 電気抵抗率計・電気伝導率計の校正」
「電気二重層コンデンサができている? - 水の電気抵抗とリアクタンス」
「セル定数を求める - 水道水の電気伝導率(抵抗率)を測る」
「水道水の電気伝導率(抵抗率)を測る - これまでのまとめ」
「水道水の電気伝導度(電気抵抗)と静電容量(キャパシタンス) - 電気二重層について」
「電気二重層キャパシタを作る実験と水の電気伝導率(電気抵抗率)の測定に白金黒を使う理由」
「蒸留水(精製水)の電気抵抗率(電気伝導度)を測ってみた」
「続・蒸留水(精製水)の電気抵抗率(導電率)を測ってみた」
「“Lチカ”を水に沈めて点滅するか?」
「水道水に同種の金属を入れても電池ができる不思議な話」
「水の電気抵抗(電気伝導度)を測るときの周波数、電圧、波形、温度、電極」
「氷点 - 摂氏0度の作り方」
「水の三重点セルの作り方を考えてみた」
「過去記事の一覧(測定、電子工作、天文計算)」
参考
JIS K 0213 分析化学用語(電気化学部門)
JIS K 0130 電気伝導率測定方法通則
JIS K 0102 工場排水試験方法
JIS K 0557 用水・排水の試験に用いる水
「第十六改正 日本薬局方 」 (2.51 導電率測定法、常水、精製水、注射用水、等)
「日本分析機器工業会 - 分析の原理
- 電気化学測定の原理と応用 - 電気伝導率計の原理と応用 」
「産業技術総合研究所 - (技術資料)電気伝導率標準液に関する調査研究 」
<== 他の資料には書いてないようなことが書いてあり参考になります。
「【化学補助教材】 放送大学:濱田研究室 - 第14章 エネルギー変換の化学 - 3.電気分解」
「HORIBA - LAQUA - やさしいpH・水質の話 」
「栗田工業 - 水処理教室 」
「日本冷凍空調学会 - 用語集 - 超純水」
「八光電機 - 熱の実験室 」 <== おもしろいです! 氷の電気伝導度とかあります。
「雑学 H2O - 水質の化学」 <== 興味深い記事があります。
「東所沢 2-31-12 - 溶液の電気特性 <== 実測値があります。
- 1章:溶液の電気特性測定用電極の製作
- 2章:A、B、C電極の水道水テストとD、E電極の試作
- 3章:食塩水の電気特性 」
「厚生労働省 - 水質基準項目と基準値(51項目) 」
「東京都水道局 - 水質検査結果」
「川崎市上下水道局 - 水質検査結果 」 (工業用水の電気伝導率の測定結果があります)
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