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2016年2月29日 (月)

水の電気抵抗(電気伝導度)を測定するときの周波数、電圧、波形、温度、電極

水の電気抵抗について調べたときものすごく不満なことがありました。ネットの記事にも本にも抵抗を測るときの周波数や電圧(や波形)について具体的に書いたものがほとんどないのです。

  こいつ自分じゃ測ったこともないくせに知ったかで書いてるじゃねえのか?

とまで思いました。

でも最近自分で測り始めてそれからあらためていろいろ調べて見ると、こういうのは専門家(あるいは電気化学を勉強した方)にはきっと常識的な話__自然とわかること__と思えてきました。

そこであえてこういう記事を書いてみました。専門家の方もこの記事を目にされたら素人がどんなところでつまずいているか少しだけでも理解していただけるとうれしいです。ついでに間違っていたらご指摘いただければと思います。

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以下に書くのはあくまで私はこうしているというだけのものでしかありません。

またこの記事は電気抵抗を測っているのであって電気抵抗率や電気伝導率(導電率)を測っているわけではありません。それについては

  セル定数に依存しない水の電気伝導率(導電率、抵抗率)の測定方法 - ジョーンズセルをヒントに

やそれに続く記事、また

  塩化カリウム標準溶液(導電率標準液)の作り方 - 電気抵抗率計・電気伝導率計の校正

をご覧いただければと思います。

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まず水の電気抵抗というのは水の電気的等価回路を次のように考えたときのR3のこととします(電気的等価回路にはもっと別のものもあります)

Eq

ここでC1、C2は電気二重層でできるキャパシタンスです。電気二重層の厚さは原子の大きさのオーダーのようで、電極の大きさから考えるととんでもなく大きな静電容量を持ちます。電極近傍の話なのでC1、C2の静電容量は電極間の距離にはほとんど依存せず、一方水の中のイオンの量には大きく影響されます。そういうところはふつうの電極間の静電容量とは性質が異なるので注意が必要です(こういうのも電気化学をやっている方には常識なんでしょうが、私は実験をしていて測定結果が予想外のインピーダンスになることからいろいろ調べてやっと何が起きているか理解できました)

  
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電圧

測る分には高い方が測りやすいわけですが、高くすると電気分解が起きます。電気分解が起きるとそのぶん電流が流れ見かけの抵抗値が低くなります。したがって電気抵抗を測るための測定は電気分解が起きない範囲で行います。

水の電気分解の起きる電圧は「1.229V+過電圧」とされますので1.23V以下にします。過電圧がいくらかはいろんな要素があって考えるのが面倒なので1.23V以下にすれば何の問題もないはずです。測定は交流ですからつまり0.8V以下ということになります。

  【化学補助教材】 放送大学:濱田研究室 - 第14章 エネルギー変換の化学 - 3.電気分解

私は0.7Vrmsくらいでやっています。これだと2Vp-pなので電気分解が起きる心配がありません。

<=== これはちょっとあやしいです。1.23V以下でも電気二重層以外のものを原因とする電流が流れることがあるようです。電圧はもっと低めにした方がいいかもしれません。
これについては

  「
水の電気分解で電池はできるか? - 電気二重層の静電容量

の三つ目のグラフが参考になると思います。そのうち電圧をかえながらやってみるつもりです。


これに関し東所沢 2-31-12 - 溶液の電気特性」に水の電気伝導率に関する実験が詳細に記されておりとても参考になるのですが、「水道水の電気抵抗率は一般的に50Ω・m程度といわれていますが、実測では約1/5の10Ω・m程度になってしまいました。」とあり、「この原因としては、電極や容器の汚染の影響が考えられます。」とあるのですが、実験データのグラフを拝見すると、実測抵抗率が低くなったのは印加電圧を高くとりすぎたためではないかというような気がします。

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容器


上に書いたことに関連しますが、水道水であれば抵抗の測定では常識的な範囲で注意すれば測定対象が”汚染”されることはそんなにないように思います。

”常識的な範囲”というのは容器をふつうに食器を洗うように洗い伏せて自然に乾燥させておき実験前に水道水(測定対象)で1、2回洗ってから使うとかそういうことです。精製水のときも同じ手順でやっており、今のところ特に問題は感じていません。

電極と容器は位置関係を含めて常に同じものを使うべきだと思いますが、電極も電極間距離も容器に比較して小さい場合はあんまり気にすることはないようです(以下にあるように電極間の距離を小さくすることは別の問題があります)

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温度

水の電気抵抗は温度で大きく変化します。1℃で数パーセントというようなオーダーです。
したがってできるだけ同じ温度で測定するようにし、測定のときは必ず水温を測っておきます。通常水の電気抵抗(電気伝導率)というのは25℃での値を言います。

温度が違うときは補正が必要です。私はJIS K 1310にある塩化カリウム0.01mol/kg溶液の温度特性を使って補正していますが、これが正しい方法か(というか実態にあっているのか)まだ確かめていません。

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周波数

これがちょっとやっかいです。これは高くしたとき低くしたときそれぞれにメリット・デメリットがあります。また電極の形状(電極間の距離)によって最適な周波数は変わります。

記事の最初にある等価回路で考えます。

水は直流はほとんど通さないですからR1、R2 >> R3 のはずです。したがって交流で水の電気抵抗R3を測るときはC1、C2の影響が大きくなります。

電圧を印加して流れる電流を測り、電圧と電流から抵抗を求めようとする場合、C1、C2の影響が小さくなるように高い周波数で測る方がいいということになります。

一方ベクトル電圧計でC1+C2とR3を測ろうというような場合はC1、C2のリアクタンスがR3と同じくらいのオーダーになる低めの周波数を使った方が有利です。

これらを考え周波数は1kHzくらいから上にするか下にするか決めればいいと思います。C1、C2がどのくらいの大きさであるかはなどはこれまでの記事にある実験結果など参考にしていただければと思います。

たとえばこれまでの記事で使ったピンヘッダーを利用した電極で水道水を測定すると

  R3 = 2kΩ、C1*C2/(C1+C2) = 0.3μF

というような結果が得られました。1kHzだとリアクタンスは0.53kΩとなります。つまりR3に比較してちょっと高いです。電圧を電流で割る方法でもまあまあ測れることになりますがもう少し正確に測りたければもっと周波数を上げるか電極間の距離を大きくする必要があることになります。

精製水(JIS A3相当)では

  R3 = 340kΩ、C1*C2/(C1+C2) = 0.004μF

でした。これだと1000Hzでのリアクタンスは40kΩでこれも測れないことはないが周波数をもっと上げた方がいいかもというレベルです。

R1(R2),R3、C1(C2)を全部求めるのであれば、複数の周波数で測定を行う必要があります。

これらは電極間の距離を大きくするという対応もあります。距離が大きくなると抵抗値はほぼそれに比例して増加するのですが、キャパシタンスはほとんど変わらないからです。

たとえば

  化学と教育 41巻12号(1993年)- 松尾勉・室松昭彦・井ロ薫 - 電導度計の製作と実験

では周波数は220Hzとしてありますが、電極間の距離は15cm弱あります。

また下に書くように実質的な表面積が大きい電極を使えばキャパシタンスの影響は小さくできます。

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波形


正弦波でも矩形波でもいいようです。上の電圧・電流から抵抗を求める場合、矩形波の方が有利なように思えます。高調波に対するC1、C2のリアクタンスが小さくなるからです。もっとも正弦波でない場合は使用している交流電圧計が何を測っているか(実効値、p-p値等)には注意する必要があります。波形がどうなって...みたいなことを考えたくなかったら正弦波にするか電極間距離を大きくするのが簡単です。

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電極


これは水と特別な反応を起こすものでなければなんでもいいみたいです。私はピンヘッダ__金メッキされたニッケル(?)__を使っています。

白金に白金黒をコーティングしたものを使うのが正式(?)ですが、これには理由があります。白金黒を使うと電極の実質的な表面積が大きくなり、その結果C1、C2が大きくなります。つまりC1、C2のリアクタンスが小さくなりその影響をあんまり考えなくてよくなるからです。

逆に考えると位相を測定しC1、C2の温度特性を調べるというような場合は白金黒を使う必要はないでしょうし、白金黒を使わない方が測定が楽ということにもなりそうです。

おそらく炭素電極も白金黒に似た特性を示すのではないかと思います。

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  水の電気伝導度(電気抵抗)を測る - 水の純度の推定

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  「
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参考

  JIS K 0213 分析化学用語(電気化学部門)

  JIS K 0130 電気伝導率測定方法通則
  JIS K 0102 工場排水試験方法
  
JIS K 0557 用水・排水の試験に用いる水

  「第十六改正 日本薬局方 」 (2.51 導電率測定法、常水、精製水、注射用水、等)

  「
日本分析機器工業会 - 分析の原理
    -
電気化学測定の原理と応用 - 電気伝導率計の原理と応用

  「
産業技術総合研究所 - (技術資料)電気伝導率標準液に関する調査研究
      <== 他の資料には書いてないようなことが書いてあり参考になります。

  「HORIBA - LAQUA - やさしいpH・水質の話
  「栗田工業 - 水処理教室

  「日本冷凍空調学会 - 用語集 - 超純水

  「
八光電機 - 熱の実験室 」  <== おもしろいです! 氷の電気伝導度とかあります。

  「雑学 H2O - 水質の化学」  <== 興味深い記事があります。

  化学と教育 41巻12号(1993年)- 松尾勉・室松昭彦・井ロ薫 - 電導度計の製作と実験

  「
東所沢 2-31-12 - 溶液の電気特性  <== 実測値があります。
     -
1章:溶液の電気特性測定用電極の製作
     -
2章:A、B、C電極の水道水テストとD、E電極の試作
      -
3章:食塩水の電気特性


  「
厚生労働省  - 水質基準項目と基準値(51項目)
  「
東京都水道局  - 水質検査結果
  「川崎市上下水道局 - 水質検査結果 」 (工業用水の電気伝導率の測定結果があります)

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