ボルタ電池の起電力とその変化(1.1V,0.8V,0.4V) - みんな自信満々、でも...
先日 「水道水に同種の金属を入れても電池ができる不思議な話」 という記事を書きました。水の直流的な電気抵抗を測ろうとしたら抵抗値がjヘンで、調べてみたら電極間に電圧が発生していたという話です。電池ができあがっているとしか思えないので、電池についてググったり、本を読んだりしたのですが、まあ、これが人によって(サイトによって、本によって)説明がぜんぜん違います。
どういう具合に違うかというのをボルタの電池を例にまとめてみました。
なお私は化学に関してはよくわかっていません。理解の足りないところ(さらには誤解)もあると思うのでお気づきの点がありましたらご指摘お待ちしております(わからないのは化学だけじゃありませんが)
それから簡潔にまとめるようにしたのですが、そのため書かれた方の意図が正確に伝えられていないこともあると思います。興味がある方はぜひリンク先にあるオリジナルを読んでいただければと思います。
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みなさんもう自信満々な書き方をされています。どれか一つだけ選んで読むと、う~ん、なるほど!、と思ってしまうようなものばかりです。
ところが書かれている内容と来たら千差万別というかぜんぜん別の事実(理論?)が書かれています。百家争鳴というのはこういうことを言うのでしょうか。
初期電圧が1.1Vくらいになる理由、電流を流すうちに電圧が落ちる理由、過酸化水素を加えると電圧が戻る(上昇する)理由、それぞれに諸説あります。
電子工作よりずっとおもしろそうです。どれが正しいか自分でも試してみたいとは思うのですが、化学の実験はお金がかかりそうです。たとえば白金電極一つとっても私がふだん秋葉原に買い物に行くようなものとは3桁とか4桁お値段が違っています。なんとか身近にある材料でできる範囲の検証をやってみたいものです。
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下記の表は盛りだくさんでかえってわかりにくいと思うので要点をまとめておきます。
1. (電流を取り出さない)平衡状態にあるときの起電力あるいは本来の起電力
0.8V エ、オ、カ、キ、コ(ただカ、コはちょっとスタンスが違います)
1.1V ク、ケ
記述なし ア、イ、ウ
2. 初期電圧が1.1Vになる理由
i. CuOの還元(エ、オ、キ、コ)
カ.も影響の可能性について指摘
ii. 初期状態における負極と正極の電位差(カ、コ)
※ コは正極でi、負極でii.説をとっています。
※ ク、ケは1.1Vを本来の電圧としています。
3. 使用するうちに起電力が低下する理由
i. 電極表面に水素の泡が付着するから (ア、イ、ウ、(ク))
ii. 付着した水素の逆起電力(イ, ク、ケ)
iii. 水素過電圧(エ、オ、カ、コ)
iv. 負極内部での電子のやりとり(イ、(キ))
v. 負極付近での亜鉛イオンの増加(イ)
※ iに関して、クは電圧が低下する理由というより性能が落ちる理由としています。
※ ivに関して、キは電圧が低下する理由というより電流が取り出せない理由としています。
4. 過酸化水素などを注ぐと起電力が回復する理由
i. 水素が水になって取り除かれ逆起電力がなくなる(ア、イ、ケ)
ii. 正極の活物質が水素イオンではなくなる(エ、オ、カ、キ)
(ボルタ電池ではなくなってしまっている)
iii. 電極をリフレッシュする(ク)
ア | 医学部受験を決めたら私立・国公立大学医学部に入ろう!ドットコム 化学講座 第25回:電池①(ボルタの電池) | A. .“ボルタの電池の起電力は 1.1V ”
B. “放電を始めるとすぐに電圧が 0.1~0.3V まで低下してしまいまうのです” C.“H2O2水溶液を入れると電圧が回復する” (具体的な電圧は書いてありませんが“回復する”というのことは1.1Vになるということでしょうか) |
A. 起電力の根拠については記述なし。 B. “正極板上に生じたH2の気泡のため、H+が正極版に近づきにくくなり、電圧降下が起こる。” C. “正極付近に酸化剤( H2O2 水溶液など)を加えて、発生した水素をH2Oにしてしまいます。、Cu 板上の水素の気泡が消えて起電力が回復します。” |
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イ | 化学魔の還元 - 電池電解編 - 2.ボルタ電池 | A.“起電力は1.1Vです。”
B. “極板を浸してから1秒くらいすると電圧が落ちます。” |
A. 起電力の根拠については記述なし。
B. “次の四つの理由による 1.銅板に付着した水素の泡は、電気を導きにくいため、正極での反応を邪魔する 2.水素の泡が、銅板の表面で勝手にイオン化して邪魔する 3.亜鉛板の近くではZn2+イオンの濃度が濃くなり、溶けにくくなる 4.導線につながれていようがつながれていまいが、亜鉛は勝手に溶ける。 放電していないにもかかわらず、極板が勝手に反応して電池が消耗してゆく現象を自己放電といいます。” |
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ウ | NHK高校講座 化学基礎 - 第37回 電池 ~持ち運びできる電池~ | A. 電圧に関する記述なし。
B. “ボルタ電池は電流が流れ始めてからしばらくすると....電流が流れにくくなってしまうのです。” |
A. ----
B. “....正極で発生した水素が銅板の表面に膜になって付いてしまい....” |
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エ | 生活と化学 - 電気化学(電池) | A. “理論起電力は、約0.8 V”
B. “実際のボルタ電池では、理論起電力よりも小さい0.4 V程度の起電力しか得られない” C. “放電の初期は起電力が1.1 Vとなる” |
A. “亜鉛Znと水素H2のイオン化傾向の差に見合う起電力”
B. 銅板で2H++2e-→H2の反応を起こすのに、活性化エネルギーが必要であり、これを克服するためには余分な電圧が必要で、電池として使える電圧が少なくなるためです。この余分な電圧を、特に素過電圧(hydrogen overvoltage)といいます。 C.”放電の初期は、銅板表面に銅(II)イオンCu2+ が生じていて、水素イオンH+ の代わりに、銅(II)イオンCu2+ が酸化剤として作用することになるのです。つまり、放電の初期は、亜鉛Znと水素H2のイオン化傾向の差に見合う起電力ではなく、亜鉛Znと銅Cuのイオン化傾向の差に見合う起電力が、見かけ上の起電力になる” |
イ.B.2.に関して ”銅板の代わりに白金板を使えば、たとえ水素H2の泡があっても、亜鉛Znと水素H2のイオン化傾向の差による起電力が得られるのだから、逆起電力による分極を起電力低下の理由にするのは、無理がある” |
オ | 大阪教育大学付属天王寺中学校 - 岡博昭 - 電池教材に関する一考察 -ボルタ電池の問題点を中心に- | A. “平衡状態では0.76Vの起電力となるはず”
B. ”最初1.1Vもの起電力を示す” |
A. “液中のZn2+イオンとH+の濃度がともに1mol/Lになり,銅電極の周りの気体水素の圧力が1atmのとき,電極と液のあいだの電位差(単位電位)は近似的にいわゆる標準電極電位となり,一定化する。電池の解放起電力はその差となる。”
B. “一般に銅電極の表面は酸化銅で覆われており,反応は,非常に複雑だが,一例を挙げると次のようなものを含んでいる。 Cu2O+2H++2eæ2Cu+H2O 酸化物によるこれらの反応は電極電位を正の方向に押し上げる。 (後に紹介する平沢氏は,次のように指摘している。酸化物が酸にとけて,電極の表面に 銅イオンの濃度の高い領域ができる。したがって,ダニエル電池に近い電池が形成されるため高い電圧が得られる。)” |
ア.B.、イ.B-1.、ウ.B.に関して
“ボルタ電池における電圧の降下はCu極に発生したH2の気泡のせいではなく,H2になる前の中間体,おそらく吸着水素原子の生成のための,あるいはそれからH2を生成するた めの水素過電圧の成長が最も重要な役割を果たしていると考えられる” |
カ | 日本化学会編 - 教育現場からの化学Q&A - 丸善株式会社、1992 Q.092 ボルタ電池の起電力は、初め1.1Vなのに0.4Vに落ちるのはなぜですか。 |
A. “初期の起電力が1.1V”
B. ”放電が始まれば....約0.76Vになりそう....あくまで平衡状態の値” C. "有限な電流を流すと....0.4V程度” D. "酸化力の強い過酸化水素などを溶かすと....正極の電位が上がる” |
A. (初期状態の電池の状態をいろいろと仮定した上で)”負極はおよそ-0.9V、正極はおよそ+0.2V” (銅イオンの還元の影響についても言及) B. (使用を始めてからの電池の状態を仮定した上で)負極の標準水素電極電位基準の標準電極電位-0.763Vと、同じく正極の0.000Vの差 C. ”電極表面で進む素反応にエネルギー(過電圧)を消費するため” D. ”正極の活物質がH+からH2O2に交替する....” この項目の内容は前提条件を詳しく記してあるので、上は私なりのまとめた要旨です。 |
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キ | A. “起電力の初期値は1.1 V 程度”
B. ”直ぐに0.76 V まで起電力は低下する” C. “ボルタ電池を外部回路に繋いでも殆ど電流は流れない” D. (過酸化水素水を注いだ場合)"実験すれば2V 位)” |
A. “銅板の表面が酸化されていてCuO となっているので、実際 のボルタ電池の初期反応は 負極: Zn −→ Zn2+ + 2e− 正極: CuO + 2H+ + 2e− −→ Cu + H2O となる為” B. “理論上のボルタ電池の起電力は、電位が低下したときの起電力の0.76 V である” C. ”亜鉛のイオン化によって負極でできた電子が外部回路を通って正極に行き、そこで水素イオンがこの電子を受け取る反応よりも、亜鉛板付近の水素イオンがこの電子を受け取る反応の方がやはり起こり易い” D. ”亜鉛(還元剤) と過酸化水素(酸化剤) の酸化還元反応を利用した、ボルタ型電池とは全く異なる電池”だから |
C.に関して “ボルタ電池では、教科書の説明とは違って亜鉛板上で盛んに気体(水素) が発生することになる。負極での水素の発生を抑制するには、負極の亜鉛を、水素過電圧の大きな水銀で、コーティングするれば良い。” | |
ク | pierres blanches と 《カガクするココロ》 - [36] 乾電池を考える (11/5/1) |
A. “起電力が1.1Vです”
B. 起電力の低下、性能の劣化について C. 対策 |
A. 起電力の根拠については記述なし B. “使っているうちに正極で発生した水素が水素イオンに戻る逆反応で逆起電力が発生し、電圧が下がります。” “発生した水素ガスが電極を覆って電気を流しにくくして性能が落ちます。” D. “過酸化水素水や二酸化マンガン、二クロム酸カリウムを添加し、常に電極をフレッシュな状態に保ちます。” |
“(注:ニクロム酸の「ニ」は漢数字の2)”とありました。私はニクロム酸と思い込んでました (^^;; |
ケ | Wikipedia - ボルタ電池 |
A. “起電力1.1V”
B. “電流を流していると...電圧が下がる” C. 対策 |
A. 起電力の根拠については記述なし B. “正極から水素が発生する。その結果、放電生成物により、逆起電力が発生するため....これを分極という。” C. “過酸化水素水や二クロム酸カリウムなどの減極剤を用いる。” |
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コ | 渡辺正他「基礎化学コース 電気化学」 丸善、2001 |
起電力は約0.76Vとなるはずのところ(A)、実際の電圧は、作成直後が1.0~1.1V(B)、放電を始めるとたちまち0.4V内外に落ちる(C) |
A. Zn2+とH+の活量が1なら起電力は亜鉛と水素の標準電極電位の差。 B. i. Zn2+の初期濃度が低い ii. 銅板表面に微量にある酸化銅の還元 C. 水素化電圧 |
ボルタ電池はこれほどに複雑だから、中学や高校では“電気が発生する”事実だけ見せればよい。あやしい“分極”などという言葉をもち出して電圧の値を云々するのは、もういいかげんにやめよう。 |
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