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2016年3月 2日 (水)

四象限アナログ乗算器EL4083CNで作る交流テスター - 周波数特性(1)

まずEL4083CNは“四象限”であって「4現象電流モード乗算器 EL4083CN」ではないです。それからこれまでこのシリーズ(?)は“ベクトル電圧計”と書いていたのですが、それではわかりにくい、交流テスタの方がイメージがわくのではないか、というご指摘をいただいたので今回から特に位相を重要視するときを除いて“交流テスタ”にしようと思います。

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これまでEL4083CNを直流あるいは低周波領域で使っていました。だから実用にした最高周波数はJJY受信波や超音波送受信ユニットで使う40kHzでした。

そこでこれから高周波領域の周波数特性を調べてみたいと思います。今回はその一回目です。

次のような回路で調べてみました。

20
出力に交流分を出したくないときはEL4083CNの出力端子とGNDの間にパスコンを入れてください。オペアンプに容量負荷がある場合を連想して抵抗を感じるかもしれませんが、電流モードのデバイスの場合はこれが正しいやり方です。

EL4083CNのところはもっとも基本的な応用例ですし、たいていの用途は(回路定数はともかく)この構成になります。

  四象限アナログ乗算器(マルチプライヤー)EL4083の使い方 - 1

LTC1799で矩形波を作りその実効値を測ります。バイアス電流(Zに流れ込む電流)が0.124mAと小さくなっています。ここは0.5mAくらいが使いやすいと思うのですが、もともと10V~15Vで使っていたものを±5Vで使っているとか、ゲインを稼ぎたいということでこうなっています。変更すると(この回路図では省略していますが)オフセット調整の回路定数も変更しなくちゃいけないとかいろいろと面倒なので今回はこのまま使います。

交流テスタであれば入力の直流分はカットすべきですが、そのためにコンデンサを入れると周波数特性がフラットではなくなり結果の分析が面倒くさくなるのであえて直流分もそのまま入力にしています。

そのためEL4083CNの出力を測るもの以外に、直流分測定用や比較用のための交流分測定用の直流電圧計が入っています。

  
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さっそくLTC1799の周波数を変えていったときの結果です。いつもはこういうのは“自動測定”なのですが、今回は諸事情あって“完全手動”でデータを採っています。だから測定点数が極端に少ないです。

20a

VoutはEL4083CNの出力側に接続されたオペアンプの出力です。Vdcは信号はの直流分です。Vdiodeはダイオードとコンデンサで作った”高周波電圧計”の出力電圧です。

  EL4083の出力電流(IXY-/IXY) ≒ 入力電流X * 入力電流Y  / バイアス電流Z * K (K ≒ 1)

という関係があります。EL4083CNの入力電流の直流分をIdc、交流分をIacとするとこの回路の出力電流は

  ( Idc + Iac*sin(ωt) )^2 = ( Idc^2 + Iac^2/2 + ....... ) / バイアス電流Z * K  (直流分のみ表記)

となります(Iacはピーク値なのでIac^2/2は入力電流交流分の実効値の自乗です)

今回の回路だと

  オペアンプの出力電圧 = EL4083の出力電流 * 20kΩ
  EL4083の入力電流(IX、IY) = LTC1799出力電圧 / 30kΩ

となっています。こういうのをまとめて

  オペアンプの出力電圧
  = (LTC1799の出力電圧直流分^2 + LTC1799の出力電圧交流分の実効値^2) / k

となります。

ここでLTC1799の出力を直流電源に変えて出力電圧を調べればkを決めることができます。

それから今回のケースではLTC1799はほぼGNDからVccまでスイング矩形波を出力するはずです。となると

  Vdc ≒ Vcc / 2
  Vp-p ≒ Vcc
  Vrms ≒ Vcc / 2

となるはずです。”高周波電圧計”の部分はVp-pを測っているわけですが、非直線性を考えると

  高周波電圧計の出力 ≒ Vp-p / 2 - 0.5

になります(0.5というところは0.6だったり0.7だったりするのでしょうが、0.5にすると今回の結果をうまく説明できるという理由だけでこうしました)

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以上をもとにまとめた結果です。

20b

1.5MHzのところがちょっとおかしいですが、今回は“完全手動”なのでここはひとまず無視します。

そうすると6.5MHzのところから出力が低下するのが問題になります。一見アナログ乗算器の10MHz越えの周波数特性が悪いように見えます。確かにそうかもしれませんが、この場合は別の原因も考えられます。

最初に測定値がおかしくなるのは10MHzです。アナログ乗算器の周波数特性が原因だとすると三倍高調波の30MHz、五倍高調波の50MHzがちゃんと測定できていないということになります。でもちゃんと測定できているように見える6.5MHzの五倍高調波は30MHzを超えています。となると別に原因があるような気もしてきます。

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LTC1799の出力周波数の上限は30MHzですが、これは5V電源のときで今回は3.3Vで動かしており上限は20MHzです。となるとLTC1799を疑いたくなります。

10MHzではダイオードではちゃんと測定できているように見えます。ただダイオードはピーク値、EL4083は実効値です。矩形波だったらピーク値=実効値ですが、波形がなまって来るとピーク値と実効値は一致しなくなります。今回のケースでは10MHzあたりからそういう状況になっているのではないかと思います。

たぶんこういうことになっているのではないでしょうか。
20c

ほんとうにこれが正しいのか、別の方法で検証すべきだと思います。またアナログ乗算器は信号の大きさだけでなく位相も調べられるのが利点です。

次回はそういう方向から検討してみたいと思います。

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