水の電解に必要な電圧が1.23Vであることを検証する (2)
1.23Vというのはおそらく標準電極電位から求められた値だと思います。となると実測してそれを求めることができるか疑問にも感じます。
「渡辺正・金村聖志・増田秀樹・渡辺正義 「基礎化学コース 電気化学」 丸善、2001」にあるグラフをながめても電圧計が1.23Vを示すということはなく、電圧・電流の関係を外挿することによって推定するということになりそうです。
前回「水の電解に必要な電圧が1.23Vであることを検証する (1)」では炭素電極でやっていたのですが、今は鉄電極でやっています。鉄電極の場合水の電気分解 - セスキ炭酸ソーダ/炭素電極 低電圧編」 にあるように電圧・電流の関係に不思議な動きがあり炭素電極にしたのですが、炭素電極はさらに不可解な動きを示しているのでまた鉄電極に戻ってきました(近々白金チタン電極でもやってみる予定です)
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今は電流を特定の値から徐々に小さくしながら電圧の変化を測定しているわけですが、電流の開始値、電流の変化率をいろいろ変えながら6ケースほどやって一つのグラフにしてみました。
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電気分解の電圧・電流特性は次の三つの部分からなるはずです。
1. 電流が電圧に比例する(正確に書くと、線形の関係にある)領域
2. 電流の対数が電圧に比例する(同上)領域
3. 電流が小さくなってもだんだん電圧が下がらなくなる領域
上のグラフと比べると、(片対数なので)右にだんだん寝ていく1mAより上のA.の部分が1.に相当すると思います。2.のところは直線になるはずなので25μAより上のB.のところになりそうです。25μAより下のC.の部分が3.ということになります。
傾向的には“理論”とあっているようです。値が妥当かどうかはわからないのですが、電流密度1mA/cm^2に相当する黒い一点鎖線のところの電圧は2.0V強でありわりとまっとうな値だと思います。
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A.、B.、C.の部分は再現性があるのですが、0.1μAより下のD.の部分が問題で、測定(実験)するたびに結果が違います。現段階ではこの部分の結果からは何を考えても意味なさそうです。
特におもしろいのは紫で表示した結果です。これは-0.26pA/秒という超スローペースで電流を変化させています。この結果を時間経過に対するグラフにしてみました。
電流は30nAから一直線に下降していくわけですが、電圧は勝手気ままな動きをしているように見えます。しいて言えば、この電流範囲ではだいたい1.4Vを示すが、外乱か何かで電圧が一時下降した、でしょうか。
とても電圧と電流の関係を測っているようには思えません。もっとも再度実験してこれに似た結果が得られればそれはそれで新たな“発見”になるわけですが、たぶんそんなことはないと思います(ちゃんともう一度測定するつもりはあります)
横軸からわかるように電流を30nAから15nAにするのに16時間ほどかかっています。さらに16時間くらいやって電流をほぼゼロ(10pA)にし、今回はさらに10時間くらい測定を続けてみようと思っています。
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前回炭素電極で実験したときの写真です。
電流密度4mA/cm^2(ここでいう電流密度は幾何的な表面積から求めたものです)
あんまり明るくないところで写したのでシャッタースピードが落ちて見難くなってしまったのですが、矢印のあたりのもやもやしたところは水素の気泡が水溶液中で動いているものです。また細長い気泡みたいなのが見えますが、これもシャッタースピードのせいで丸い気泡が流れて見えているだけです。
水素は細かい泡ができすぐに電極から離れてしまいますが、酸素はゆっくり気泡が成長していく感じです。
同じく電流密度が1mA/cm^2程度のときの写真です。
この1mA/cm^2は気泡がかろうじて確認できる電流密度とされますが、気泡の発生はけっこうしっかり見えます。
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参考
渡辺正・金村聖志・増田秀樹・渡辺正義 「基礎化学コース 電気化学」 丸善、2001
「【ナレッジ】酸素化電圧について教えてください」
「鈴木智恵子・居林尚子 - 水の電気分解における電極と電解質の関係についての再検討」
「谷川直也・森勇樹 - 水の電気分解の実験条件に関する再提案」
「田中貴金属 産業用製品 - 様々な場面で使用される不溶性電極」
日本化学会編 「教育現場からの化学Q&A」 丸善、2002
「化学のはてな? - 221 純水の電気分解」
「加熱による水の電気分解装置の工夫」
「CiNii - 純水の電気分解実験(私の工夫)」
「哲猫 - 電気分解に於ける電極の溶出 (マイクロスケールケミストリー)」
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コメント
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電極を一定速度で回転させるとかして泡が電極に張り付かないようにしたら鉄でも黒鉛でも同じ結果になりませんかね^^;
泡が電極間の距離を1~1.6(π/2)倍に引き伸ばすのでそう思ったのですが(何倍なのかは直感的な計算)、関係ないかもです^^;。
外野の私が言うのは簡単ですけど・・・実際は難しそうですね^^;
磁石をビーカーの底に入れて電磁誘導でクルクル回して攪拌する装置ってよく化学実験でみますけど、あれを自作するとか。と、これまた無責任なつぶやきです^^;
投稿: ほよほよ | 2016年4月21日 (木) 08時00分
電極間の距離(つまり電解液の電気抵抗)が電圧・電流特性に影響を与える影響が目立つのは今回のグラフで言えばA.の領域だと思います。この領域は気泡の発生が目立つのでここは撹拌でかなり特性が変わりそうです。
B.、C.の領域も撹拌すれば結果は違ってくるかもしれません。電位差のある水溶液の中でのイオン濃度は(たとえ純水でも)不均一になるようです。でも実際どの程度撹拌の影響があるのかはさっぱりわかりません。実験テーマとしてはおもしろそうです。
じつは私は逆に電解液の不安定さを小さくするため寒天・ゼラチンを使って電解質を作り実験してみようかと思っています。
なお炭素電極と鉄電極の差は過電圧特性の違いだと思うんですが....
とにかくわからないことだらけです。
投稿: セッピーナ | 2016年4月21日 (木) 09時06分